第9話 映える魔法

 以降は、唯華が撮影した動画と、それに付いたコメントの様子である。


「どうも。皆のアイドル、唯華ちゃんですよー!」


『誰?』

『知らない人だ……』

『誰?』

『誰? がテンプレ化してて草www』


 唯華は広い草原にポツンと立っている。

 その恰好は、なぜかメイド服。

 大自然とメイドさんは、なんともミスマッチな格好だった。

 唯華はくるりと回転して、メイド服を見せつける。


「どうですか、可愛いでしょう。可愛かったらチャンネル登録と高評価、SNSのフォローもお願いします!」


『いきなり宣伝で草』

『承認欲求が爆発しすぎだwww』

『そういうのは動画の最後に入れなさいwww』


「今回はメイド服を着て、ダンジョンのモンスターを焼き払ってやろうと思います! いでよ魔法獣!」

「ぴぃ!」


 唯華が魔法機を操作すると、頭の上にひよこのような魔法獣が現れる。

 ひよこは、ふんすと鼻息を荒くしてやる気を出していた。


『ひよこで草』

『相変わらず可愛い魔法獣だなwww』

『そのひよこでペット配信でも始めれば良いのでは?』


「さぁて、私の餌食になるモンスターはドコかな?」


 キョロキョロと草原を見回す唯華。

 その視線がカチリと止まった。


「居ました。あの蛇をぶっ倒しちゃいますよ!」


 唯華が指さした先には大きな蛇が居た 

 それは『ビッグ・サーペント』と呼ばれるモンスターだ。

 オークを絞め殺して捕食するほどの巨体を誇っている。


『オークより強いけど大丈夫か……?』

『自分から走り寄って負けることないでしょwww』

『どうだろうな……』


「さぁ、蛇野郎め! フェニックスの炎で燃やし尽くしてやります!」

「シャー!!」


 唯華が手を広げると、周りにキラキラと炎が散る。

 スッと片腕を差し出すと、指をパチンと鳴らした。

 ゴウ!!

 唯華の背後に、鳥の形をした炎が巻き起こる。炎は翼をはためかせると、蛇へと突進した。


「フェニックス・フレア」


 唯華は呟くと、蛇に背を向けてカメラを向いた。

 カメラ目線で、アイドルみたいなポーズを決める。

 ドカン!

 同時に唯華の背後では炎が着弾し爆発を起こした。

 キラキラとした小さな炎が巻き上がる。


 キメたポーズとキラキラとした光が合わさって、本当にステージ上に居るようだ。

 全て、唯華の演出なのだろう。


『すげぇ!? 動画映えってこういう事か……』

『ただのポンコツかと思ったらやるやん!!』

『さすゆい!』


 なんて、コメント欄が盛り上がったのは一瞬だった。

 唯華の背後から、ヌッと大きな影が現れる。

 魔法を放ったはずの、巨大蛇だった。


『唯華ちゃん、うしろうしろ!!』

『外してんじゃねぇか馬鹿!?』

『魔法の見た目だけ気にして、ちゃんと狙ってなかったな!?』

『いや、あの感じだと演出全振りで威力ゴミかも。当たったところで、どれほどのダメージがあったか……』


 蛇はしゅるりと体を動かして、唯華に巻き付いた。

 巨大な蛇に絡まれては、唯華では身動きが取れない。


「ぎゃぁぁぁぁ!? 当たって無かった!?」


 演出ばかり気にして、蛇を倒したかを唯華は気にしていなかった。

 すぐに後ろを振り向いたため、蛇の接近にも気づかなかった。

 自業自得である。


「シャァァァァァ!!」


 蛇は大口を開ける。鋭い牙が唯華を狙う。

 今にも丸呑みにされそうだ。

 しかし、唯華にはなにもできない。グルグル巻きにされては、泣き叫ぶしかない。


「せんせぇぇぇぇ!! 助けてくださいぃぃぃぃ!!」

「あ、ちょっと待ってて」


 カメラの後ろから、時雨が走り出した。


 助ける過程はカット。

 次のシーンでは、疲れた顔をした唯華が作り笑いを浮かべていた。


「えー、というわけで、いかがでしたでしょうか?」


『いかがでした? じゃないわwww』

『魔法はちゃんと使え』

『映えじゃなくて、威力と狙いに集中しろwww』


 くたびれた唯華が、バイバーイと手を振って唯華の動画は終わった。

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