第8話 バニー出しとけばガチャは回る
勝負が始まった日の放課後。
時雨たちは、ダンジョン近くのホテルへと集まっていた。
「先生、来てください……」
ベッドには唯華が横たわっている。
なぜかバニー姿だ。
体の曲線が浮き出るぴっちりとしたバニースーツを着て、くねくねと体を捻らせている。
「コンクリートに取り残されたミミズみたいな動きだ……」
「先生!? 可愛い美少女を捕まえて、ミミズみたいとか言います!?」
「ぷはっ!? 似てて草ですわ!」
「笑うな縦ロール!!」
時雨たちは、やましいことをするためにホテルへと来たわけじゃない。
これからダンジョン配信をするのに、待機場所としてホテルの一室を借りていた。
「休憩場所のためにホテルを使うなんて、凄いよね」
「私の父ならお願いすれば、これぐらいは許してくれますから」
ホテルの代金を支払っているのは唯華だ。
薄給の時雨では払えないし、ましてや部活動費として学校に請求するわけにもいかない。
そもそも、この提案をしたのが唯華なため、唯華が払っている。
「嫌味なタイプの金持ちですわ」
「ごめんなさい。エセお嬢様と違って、私って本物のお嬢様なの♪」
「一発、ぶん殴るから面を貸せですわ」
「お、落ち着いて。暴力は良くないから」
マジで拳を振りかぶったエリーを止める。
暴力沙汰は止めて欲しい。
部活動中に生徒が殴り合いなんて、普通に解雇な案件である。
「それよりも、唯華とエリーが交代でダンジョンに行って、動画を撮るので良いんだよね?」
「それでいいですよ。私たち学生は先生が一緒じゃないとダンジョンに入れませんから」
「お互いの撮影を盗み見るのも、なんだがカンニングみたいで嫌ですから、一人ずつ撮影をいたしますわ」
わざわざ休憩室を用意した理由はそこにある。
唯華やエリーは学生だ。現時点では一人でダンジョンに入ることが許されていないため、時雨が付く必要がある。
しかも、ダンジョン撮影に適したカメラは唯華が持っている一台のみ。
このため三人は一緒にダンジョンに向かって撮影をする必要があるのだが、唯華とエリーは撮影を見られるのを嫌がった。
その解決策として、一人はホテルで待機。もう一人は時雨と動画を撮りに行くことに決まった。
そして、最初に撮影に向かうのは唯華なのだが……。
「そして私は映える動画を撮るために、バニー姿で撮影をします!」
唯華はベッドから立ち上がると、腰に手を当てて胸を張った。
露出度が高いため、控えめな胸でも形が見える。
この格好は……どうなのだろう……?
バニー姿の生徒を、教師は見ても良いのだろうか。バレたら首にされそうで怖い。
「ゲームのガチャだって、女の子にバニーや水着でも着せとけばブン回るんです。動画の再生数だって爆上がりですよ!!」
「う、うーん。否定はできないかも……」
水着だバニーだのピックアップガチャを実施して、売り上げランキングに上がるスマホゲーには馴染みがある。
実際、美少女である唯華が、ちょっといかがわしいコスプレをすれば再生数は上がるだろう。
「煽情的な格好をして殿方を釣ろうだなんて、淑女として駄目ですわ!」
「はっはっはっ。私は自分の可愛さを最大限に活かしているだけです。何も問題はありません」
「いや、問題しかないけど……」
そもそも、撮影する動画はダンジョン配信部として投稿するものだ。
学校の看板を掲げて、ネットに掲載するのである。
生徒にいかがわしい格好をさせるわけにはいかない。
「その恰好は、学校側として認められません」
「じゃ、じゃあ、水着は!?」
「駄目」
「えー……じゃあ、こっちならどうですか!」
唯華は膨らんだボストンバッグを持って洗面所へと向かった。
戻って来た時には、バニースーツから着替えていた。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
唯華が着替えたのはメイド服だ。
白と黒のシンプルな色だが、ふりふりが付いていてメイド喫茶とかに居そう。
「スカートが短すぎて、メイドらしくありませんわ!」
「縦ロールの意見は聞いてません。先生、この格好ならセーフですか?」
エリーの言うように、唯華が着ているのはミニスカメイド服。
なんちゃってメイド感は凄いが……別に露出度が高いわけでもない。
特に問題は無いだろう。
「まぁ、その恰好ならセーフかな」
「やったー! 唯華ちゃん大勝利ー♪」
「ぐぬぬ、コスプレで再生数を稼ごうとするとは姑息ですわ……」
唯華の配信衣装も決まった。
さっそく、時雨と唯華はダンジョンへと向かうことにした。
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