第7話 焼き鳥と大根

 エリーの叫びがしばらく響いた後。


「失礼、取り乱しましたわ」

「あの状況から立ち直れるの凄いですわ」

「僕も見習いたいメンタルだ……」


 エリーはすっかり普段の様子を取り戻していた。

 『おほほ』と優雅な笑みを浮かべている。

 黒歴史を晒してからすぐに回復するとは、驚くべきメンタルの強さだ。


『すげぇ……』

『俺なら三日は引きこもるね』

『これがお嬢様の性能か……!?』


「伊達に金髪縦ロールやってませんわ!」

「あ、悪目立ちしてることは気づいてたんですね……」


 ともかく、エリーが復活してくれたことで配信が続けられる。

 もっとも時雨には配信プランなんて分からないので、ここからどうするのかは唯華次第だ。

 どうするのだろう?

 唯華を見詰めていると、唯華は『こほん』とわざとらしく咳ばらい。


「初配信からで申し訳ないですが、ちょっとしたお知らせがあります。一言で言うなら――Battle Royal」


 なぜか、最後だけ発音が良かった。『ばぁとぅろわぁいやぁる』って感じ。

 ともかく、バトルロワイヤルをやるらしい。


「そう、私たち三人には『殺し合い』をしていただきます」

「殺し合いじゃなくて、再生数バトルですわ……」

「えっ、三人ってことは僕もやるの?」

「せっかくだから出演してください。そっちの方が盛り上がるので!」


 時雨は自分まで出ることになるとは思っていなかった。

 完全に不意打ちなのだが、嫌とも言えない。

 本物の陰キャは嫌と言えず、その場に流されるクラゲのような生き物なのだ。


「本当の勝負は私たち二人でやりますから」


 唯華が二人だけに聞こえるように、こそっと声をかけた。

 あくまでも時雨は賑やかし要員なのだろう。


「ルールは簡単ですわ。今から一週間以内に動画を投稿して、もっとも高い再生数を叩きだした人の勝利ですわ!」

「優勝者は負けた二人に『何でも』いう事を聞かせられます!」


 そんな、大学生が合コンでやる王様ゲームじゃないんだから……。

 時雨は呆れるが、これも動画を盛り上げるためなのだろう。

 仕方が無いと、黙っておく


「はぁ!? それは聞いてないですわ!?」

「おやおや、負けるのが怖いのですか?」

「そんな訳ないでしょう。優勝は私ですわ!」

「じゃあ、問題ありませんね」


 エリーは簡単に丸め込まれてしまった。

 時雨は黙認。

 賭けは成り立ったらしい。


『何でも!?』

『女の子が軽々しく、そんなこと言ってはいけません!!』

『むしろ時雨先生の方が危ないのでは……?』

『確かに、先生は天然だけど常識人っぽいしなwww』


「これで事前告知は終わりです。勝負は明日からですので、今日は三人仲良くダンジョン配信をしましょう」


 事前の告知は終わり。

 ここからはこの間と同じように、ダンジョン配信をするようだ。


「分かった。今日もモンスターを倒せばいいのかな?」

「あ、先生は見学です」

「なんで……?」


 別に配信で目立ちたいわけでは無いが、どうして見学なのだろうか。

 もしかして、この間の配信でやらかした? 

 時雨は不安になって質問をした。


「先生が参加したら、全てのモンスターを消し飛ばすじゃないですか! 私たちの出番がなくなります!」

「今日は私たちに出番を譲ってくださいですわ。先生がモンスターを消し飛ばしたいのは理解しますが……今日は耐えてください」

「いや、別に消し飛ばしたくはないけど……分かったよ」


『生徒の出番が無くなるからなwww』

『やたら多様なビームを撃ちだすのは面白かったけどwww』

『生徒からも変な人あつかいなの草』


 ともかく、二人が頑張ってくれるならありがたい。

 時雨はのんびりと活躍を見守ろう。

 給料が出る休憩と思えばラッキーだ。


「それでは、私の可愛い魔法獣ウィザードをお見せしましょう!」

「私の華麗な魔法獣に見惚れるのですわ!!」


 二人が魔法機を取り出した。


 ゴウ!!

 唯華の頭上に炎が巻き起こる。

 炎から現れて、唯華の頭に着地したのは。


「ぴぃ!!」


 黄色と赤い羽根の混じったひよこだった。


 ガサガサガサ!!

 一方で、エリーの頭の上では桜吹雪のように花びらが舞っていた。

 そこから飛び出してきたのは――頭に大きなピンク色の花を咲かせた大根だった。


「ほあぁぁ!!」


 二人の魔法獣は、それぞれの頭の上からお互いを睨みつける。

 見ている分にはペットの喧嘩だ。

 まったく、緊張感が無い。


「あはははは! なんですかぁ。その大根は?」

「おほほほほ! 貴方こそ、そのひよこに何が出来るのかしら?」

「ひよこじゃなくてフェニックスですぅー」

「私だってアルラウネですわ!」


 二人の魔法獣はなんとも可愛らしい見た目をしている。

 もっとも、それは当たり前の話。

 魔法獣の姿は使用者の魔力量による。

 学生が出せる魔法獣など、大抵は可愛らしい見た目をしている。


『可愛いなwww』

『配信やってるようなプロの魔法獣はもっと成熟してるから、可愛い魔法獣を見るのは逆にレアだわwww』

『こう見ると、先生の魔法獣とのギャップがえぐいな……』

『先生のは別格や。あんな化け物みたいなの出せるのは、プロでもなかなか居ない』


「それなら、どっちが先にモンスターを倒せるか勝負ですわ!」

「受けて立ちますよドリル大根!」

「焼き鳥に言われたくないですわ!」

「あ、僕の目が届くところでやってね。危ない時は守るから」


 その後、二人のモンスター退治競争は同着。

 決着は動画勝負に持ち越されて、配信は終了した。

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