第3話 ゲーミングレーザー
「皆さん、こんにちは。皆のアイドル、唯華ちゃんですよー!」
唯華はカメラに向かって手を振った。
アイドルがステージでやるような手の振り方だ。
まさにアイドル気取りである。
しかし、配信に流れるコメントからの反応は――
『……誰?』
『ほら、助けられてた方の女の子だよ』
『あー、あんまりちゃんと見てなかったわ』
いまいちだった。
「ひどい!? 私の認知度……低すぎ……!?」
唯華はショックを受けたように、ガーンとのけぞる。
バズって浮かれていた唯華だが、本人の知名度はあまり上がっていないようだ。
バズった動画の主役が時雨だったせいだろう。
別に時雨が悪いわけでは無いのだが、ちょっと申し訳なくなる。
「ええい、ならこの人が目に入らんかぁー!!」
「うわわ、ちょっと……」
唯華にぎゅうぎゅうと背中を押されて、時雨がカメラの前に出る。
リアルタイムで世界中に配信されていると思うと緊張する。
とりあえず、唯華を習って自己紹介をしなければならないのだろう。
「あ、どうも、教師の時雨です」
『キターーーーー!!』
『あのドラゴン、もっかい見せてくれ!!』
『ユニークモンスターを一撃で粉砕したやつ!』
『あんな強力な
コメントではドラゴンを出すことを求められているようだ。
時雨はポケットからスマホのような端末を取り出す。
それは魔法を制御するための道具『魔法機』だ。
通販でも購入できる道具だが、時雨の使っている魔法機は自身で手を加えた改造品である。
魔法機を操作すると、時雨の背中側から
腕を組んで仁王立ちだ。
とても威圧感のある佇まいである。
「グルルルゥゥ」
低く唸るドラゴンは普通の生き物ではない。
魔力によって生成された存在であり、イメージとしては『精霊』なんかが近いだろう。
魔法機によって生み出される存在であり、一般的には『
使用者の魔法を補助する役割を担っている。
「先生は魔法獣もカッコいいですね!」
唯華がぺちぺちとドラゴンを叩く。
「グルゥ!」
「ぴぇ!? ちょ、ちょっと怖いかも……」
ドラゴンが威嚇をすると、唯華はサッと時雨の影に隠れた。
影というか、背中にはドラゴンが居るため真正面だが。
魔法獣には個性がある。
魔法機にはモンスターから採れる魔石を使用している。
時雨が牛のモンスターを倒した時に、からりと落っこちた石。あれが魔石だ。
そのためか魔法獣にも性格があり、怒るときには怒る。
さすがに人を襲ったりはしないが、扱いには注意が必要だ。
へそを曲げられると魔法のキレが悪くなる。
「たぶん、からかってるだけだよ。人を脅かすのが好きなんだ」
時雨がドラゴンを見上げると、少しだけニヤリと笑っていた。
本気で怒っているわけでは無い。
「良い性格してるじゃないですか……!!」
『ぐぬぬぅ!!』と唯華は悔しがっている。
しかし、面と向かって文句を言う勇気はないらしく、時雨に隠れてやんのかポーズを決めていた。
『強面のクセに、ちょっとお茶目で草www』
『その顔でおどかされたら洒落にならんて……』
『唯華ちゃんが威嚇する子猫みたいwww』
「まったく、そんなドラゴンとは遊んでられません。それよりも、先生の『俺TUEEE!!』プレイを見せてコメントと高評価を稼ぎましょう!」
「あんまり荒事は好きじゃないんだけど……」
「良いセリフですね。一昔前に流行った『やれやれ系主人公』みたいです」
「……」
言われてみると、それっぽい。
口に出した自分が恥ずかしくなる。
『先生が恥ずかしがってて草』
『中世的な顔しとるから、これでも絵になるのズルい……』
『教師よりホストやった方が儲かるんちゃうwww』
「ホストかぁ。お酒は好きじゃないんだよなぁ……」
「先生、そんなコメント拾わないでください。ペッしなさい。ペッ!」
「そんな変な物を食べた犬みたいに……」
時雨はつい目に入ったので答えたのだが、拾ってはいけないコメントだったらしい。
配信者、難しい……。
「それよりも先生、あそこのモンスターを倒しますよ!」
「はいはい、あれを倒すんだね」
唯華がビシっと指さした先には、太った人の体から豚の顔が生えているようなモンスターが居た。
オークと呼ばれるモンスターだ。
「ブヒィ!!」
ちょうど、オークはこちらに気づいたらしく、石斧を振りかざして走って来た。
「さぁ、やっちゃってください!」
「了解」
チュドーン!!
ドラゴンの口からビームが飛ぶと、大きな爆発と共に一瞬でオークが消し飛んだ。
後にからりと転がるのは魔石だけだ。
「やりすぎです!」
「えぇ……」
しっかりと一撃で仕留めたのだが、唯華のお気に召さなかったらしい。
「確かに、今の一撃は素晴らしかったです。さすがは先生です惚れなおしました」
「はぁ、ありがとう」
「しかし、私たちは配信をしているのです。もうちょっと――『映え』を意識して戦って頂きたいです!」
「なる……ほど……?」
『映え』という言葉には聞き覚えがある。
動画映え、写真映え、SNS映え。
ようは見栄えのことである。
しかし、見栄えの良い戦闘とはなんだろうか。
時雨にはいまいちピンと来ず、つい首をかしげてしまう。
『分かってなさそうwww』
『これ、また一撃で消し飛ばすぞwww』
『強すぎるのも考え物やなwww』
「さぁ、映えを意識してもう一度!」
「分かった」
時雨は次のオークを見つけると、再びドラゴンを構えさせた。
再び迸る光線。しかし、今度は『映え』を意識して七色に光っている。
ピカピカと無駄に光るその様に相応しい形容詞は――ゲーミング!!
ゲーミングレーザーである。
再びオークは消し飛ばされると、魔石だけが転がった。
「どう?」
「解決方法が斜め上すぎる!?」
唯華は頭を抱えて叫んだ。
「もっと、殴り合いのアクションを期待したのに!?」
「あ、じゃあ拳に似せたレーザーとか?」
「そうはならんやろ!?」
『もはや漫才で草』
『時雨先生はイケメ枠かと思ったら残念枠じゃったか……』
『唯華ちゃんのツッコミスキルが磨かれるwww』
その後もオークをレーザーで消し飛ばして、時雨たちの初配信は終わりを迎えた。
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