第5話 ダンジョン配信勝負

 唯華が呆れたように、縦ロールを睨む。


「……脳みそに縦ロールが突き刺さって、おかしくなったのでは?」

「それは『決闘罪』になるから止めて欲しいかなぁ……」


 ブッキングについて知らせてくれた先生も困惑していた。

 あたりまえである。

 部室を争って殴り合いをするなんて物騒すぎる。

 本当に、縦ロールが脳みそを侵食したのかもしれない。


「おっと、言葉が足りていませんでしたわ。私が伝えたいのは、『バトル』で決めましょうってことですわ」


 本当に拳で殴り合いをするつもりでは無いらしい。

 何らかの勝負で決めようと言いたいのだろう。


「バトルってなんですか? 紅茶早飲み対決?」

「そんな馬鹿なことしませんわ」

「先生! この縦ロールが馬鹿って言いました!」


 縦ロールをビシビシと指さして唯華が騒ぐ。

 まるで『いーけないんだぁー』と騒ぐ小学生男子のようだ。

 話が進まないので無視した。


「それじゃあ、どんな勝負をするんだ?」

「たしか『銀髪サイドテール』の部活は『ダンジョン配信部』でしたわね……今回はそちらに合わせてあげますわ。動画の再生数で勝負するのですわ」


 縦ロールは黒板に向かうと、カツカツとルールを書き始めた。


 一つ。一週間で、より多く再生数を稼いだほうの勝ち。

 二つ。投稿するチャンネルは双方『ダンジョン配信部』のものを使用。

 三つ。SNSや既存のチャンネルなど、外部での宣伝行為は禁止。

 四つ。動画に出演するのは、当事者の二人のみ。


 ルールを見ると、おおよそ五分五分の勝負が出来そうな気がする。

 だが、宣伝行為が禁止されているとはいえ、現状でバズっている唯華のほうが有利なのではなかろうか。

 しかし、ルールを決めた本人が満足気なので、口を挟まないでおく。

 これは生徒同士の勝負なのだから。 


「まぁ、こんな所ですわ」

「ほーん、良い度胸してるじゃないですか。素人が私に挑むなんて、絶賛バズり中の唯華ちゃんですよ?」

「あらあら、おハーブ生えますわ。その素人に負けて吠え面をかくのは、貴方ですわよ」


 バチバチと二人の間で火花が散る。

 そうして、部室をかけた熱い勝負が始まった。


 ……始まったのだが、まずはダンジョン配信部のチャンネルを作らなくてはならない。

 ブッキングを知らせてくれた先生とは別れて、三人で仲良くコンピューター室に向かった。


「流石は私立、そこそこのマシンスペックですね」

わたくしのノートパソコンより性能が良い……このパソコンでチャンピオン目指したいですわ!」

「お嬢様のくせにFPSなんてやってるんですか……?」

「今どきのお嬢様は生存能力だって求められますわ!」

「あ、僕もちょっとだけやってる」

「まぁ、後でフレコ教えてくださいですわ!」

「はいはーい! 私も始めますから教えてください!」


 ぺらぺらと喋りながらも、唯華はよどみなくチャンネルの開設を進める。

 後はチャンネルのアイコンやヘッダーを決めるだけだ。

 

「アイコンは……可愛い私の写真で良いですね☆」

「『良いですね☆』じゃないですわ! その星を叩き落としますわよ!? 勝負に関わりますわ!」

「……学校のマスコットで良いんじゃない?」

「流石は先生! 良いアイディアです!」


 桜庭高校には変なマスコットキャラクターが居る。

 桜っぽい耳の犬みたいな謎生物だ。

 熊のアイツや梨のアイツが流行ったころに作ったらしい。

 現在では誰に使われることも無く、せいぜいホームページの賑やかしとして腐っている。

 その経緯がちょっと可哀そうで、時雨は親近感を抱いていた。


「ヘッダーはどうしましょうか。三人で写真でも撮ります?」

「それが丸いですわ」

「え、僕も写るの?」


 時雨の声は聞こえなかったのか、無視されたのか。

 唯華はスマホを構えて、出口へと足を向けた。


「エモエモの写真、撮ったるでぇ!」

「屋上で夕日をバックに撮るのですわ!」

「ねぇ、僕が映る必要あるかな?」


 なぜかテンションを上げて屋上へと向かう二人を追って、時雨もパソコン室を後にした。

 ちなみに、ヘッダーの画像は『学校の屋上で夕日をバックにジャンプする三人の写真』となった。

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