第2話

明日は誕生日。忘れない様に取り急ぎ小説を書き始めたが、今は4ヶ月目だ。

誕生日からしばらくは、そもそも事故自体夢だと思っていて走馬灯とすら思っていないので思わず端折りたいぐらいなのだが記録として一応残しておく。

明日がついに誕生日だ。大体1週間くらい経った。1日ごとに記憶がリセットされてるので多分だが。これも事故での障害で記憶が続かなかっただけだが、この頃なので、1日ごとにリセットされるなら1年くらい夢の中でも出方は分からないしそりゃストレスも感じず過ごせるわな。と、間抜けだが考えていた。

後は夢の世界が慈悲持ちなら明日は来ないまま誕生日を迎えず、慈悲無しなら明日が来て誕生日を迎える。そう思いながら眠りについた。

そして当然だが明日が来て、誕生日を迎えた。

スタッフが皆顔を見ておめでとう。と祝ってくる。

とにかく振り返って小説を書いているので、「今思うと」が多用されるが、今思うと、失礼極まりないが、リアルには存在しない人だと思い込んでおり、祝われてもなあ。と思い誕生日の事は自分から触れないようにした。

すると、晩御飯前に主治医だと言う女性にある部屋に連れていかれた。

そこには、父と母がガラス越しの面会ではなく直接触れられる状態で待っていた。どうやら誕生日だから特別にガラス越しではなく会えるようセッティングしてくれたのだ。

本当はダメなのですが、という前置きとともにフォークを母に差し出す主治医。

「食べさせてあげますか?」

その言葉を聞いてはいと答えいそいそとケーキをカットし、この位のサイズでいいかと問う母。傍から見たら感動的だと思うし、実際今思い出しながら綴っているが、感動しとけよとは思う。

しかし何度も言うが、この時は事故自体嘘だと思っているので変に精神的な揺さぶりを受けないように、食べさせてくれている母をなるべく視界に入れず動画を撮っている父を眺めながら、さっきの主治医の台詞、動物園の触れ合いコーナーみたいだなとか考えていた。そして夢は慈悲無しなんだなと思いながら誕生日を祝われた。

誕生日までは過ごしたし、きっとこれが最後の日になるだろうと思い、妙な感慨に耽りながら詰め所にいると、看護師さんから声をかけられた。

「それ、backnumberのライブTシャツでしょ。好きなの?」

これも夢だと思い込んでいた理由の一つで、全く身に覚えのない服を着ていることが多かった。

嫌いな訳では無いが熱狂的に好きなわけでもなく、言われるまでなんの服なのか分かってすらなかった。

だがしかしここからしばらく私の悪癖でもあるのだが、「面倒だから否定しない」という考え方が「夢の中だと思い込んでいる」事と相まって嫌な方向へ進んでしまうのだ。

さっそくbacknumber好きになった私はスタッフ用のPCでbacknumberの曲を「暇しないように」流してもらいながら、明日は現実に戻れてるといいなあとセンチメンタルを気取っていた。

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