走馬灯じゃなかった話

ねこちやん

第1話

朝起きた。

あまりに唐突な始まりだったから正直初めの時は覚えてはいないのだけれど。

たぶん普通に朝、目覚めたのだろう。

スタッフが部屋に入ってきて着替えを手伝ってくれる。

支度が出来たら自室を出て、車椅子を押されながら食事へ向かう。

この頃はまだ事故した事は事実と思わずただ夢の中なのだと思った。

数日後に迫っていた誕生日も夢のように感じる理由の一端だった。

朝食を済ませたらリハビリがあった。運動、言葉、生活のリハビリだ。

「どこでいる?」

看護師の人はそう尋ねた。とりあえず私は看護師さんやいろんなスタッフの人がいる詰め所のようなところを指さした。

妙に落ち着いているように思えるだろうがいきなり知らないところで、しかも怪我してるのだ。

とりあえず従う。これがリアルな反応である。

詰所の中でスタッフ方が忙しなく動いている。そんな中で私は、とりあえず誕生日までやりきるか。と適当な目標を立てた。

「行こうか。」

声をかけてきたのは青い服を着た同じ位の若い女性。今ならわかるがPT。つまり理学療法士さんだ。

車椅子を押され、エレベーターに乗せられる。

なるほどこれなら逃げようがないな。と、悠長な納得をしていたのを覚えている。

リハビリの部屋では「リハビリ」と言われて想像するような歩く練習と折り紙等の手を使う練習が行われていた。

初めての光景に物珍しさからキョロキョロとしていると、PTの人が車椅子を停め、

「歩こうか。」

と言った。車椅子から抱き上げられ、数歩歩いて車椅子との間にスペースが出来たところで後ろに回り込み身体を支えてもらう。

今日突然の事にとにかく成されるがままな私の所に一人、年配のスタッフがやってきた。

「悪魔はいなくなった?」

そう、ニコニコ問いかけてきた。いや、ニコニコする話にしては物騒だろうと思いながら、分からないので首を傾げる。

そしてそんな私に気づいて

「そう騒いでたのよ。覚えてない?」

そう再び問う。困ったことに何故か妙に身に覚えがある。そういう事が言葉、生活にしろ多々あった。

そして夜、そろそろ寝ようかとスタッフに促されるまま、自室に戻る。

すると昼間は時計を見るためずっと詰所にいたが、朝全然気づかなかった友人達の「頑張れ!」や「くさるな!」などの言葉で飾った団扇が目に入った。

最初の方はとにかく信じてなかったため、今思うと申し訳ないが、悪趣味だなと思い背を向けて眠った。

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