第6話夏休みが始まって一週間。僕はそろそろ決断することになる。これが間違いでないと思いたい…

ついに夏休みに突入した僕ら学生には楽しみな出来事が沢山待っている。

しかしながら初日だと言うのに僕と莉子の間には少しだけ険悪な雰囲気が流れていた。

「待って!引き止めないの!?」

何の話かと言えば莉子は女子の友人に海に行かないかと誘われているんだとか。

それを僕が了承する返事をした所で莉子は急に不機嫌になった。

「なんで?友人と遊ぶのも大切でしょ?引き止める理由って何?」

本気で僕は莉子が不機嫌になった理由を理解できていない。

「だって…女子だけで海に行くって…ナンパ待ちみたいなものなんだよ?」

やっと僕は莉子の言いたいことが理解できた。

「それを分かっているのに僕に尋ねるってどういう意味があるの?別の男と遊びたいってこと?許可取り?」

それでも僕は莉子の心を完全に理解できていない。

「そうじゃなくて…恋人が他の男と遊ぶの…嫌じゃないの?」

「ん?引き止めてほしいってこと?でも僕も莉々と遊んでいるし。そんな権利はないと思うな。莉子の好きにしたら良いよ」

「もう知らない!後になって後悔しても遅いんだからね…!」

そして莉子と喧嘩になった僕らは視線を外してお互いにそっぽを向く。

莉子の思考や行動が少しだけ面倒に感じた僕は荷物を持って莉子の家を後にする。

「まっ…そんなつもりじゃ…」

部屋を出る時に莉子の言葉が少しだけ聞こえてきたが僕は無視をして家を後にするのであった。



「そんな事があって…夏休み早々に莉子と喧嘩した」

莉子の家を出るとその足で莉々のマンションへと向かう。

彼女の部屋で僕は愚痴のようなものを漏らすと莉々に話を聞いてもらっていた。

「なるほどね。じゃあ、もしも私が大学の男女グループで海に行ってくる。って言ったら凪くんはどう思う?」

莉々は僕を諭すように薄く微笑んで口を開いた。

「う〜ん。確かに嫌だけど…莉々は僕の自由を尊重してくれるし。僕も莉々の自由を尊重したいって思うよ」

「うんうん。凪くんは思った以上に大人なんだね。でもきっと高校生ぐらいの女子は行かないで。って引き止めてほしんだよ。そういう方法でしか自分が大切にされているって理解できないから」

「そうなの?じゃあ始めから行く気はないってこと?」

「それはもちろんそうだよ。言い方変えれば束縛されていたいんだよ。それが大事にされている証拠だと勘違いする年頃だから」

「へぇ〜。束縛されるのって嫌じゃない?僕は嫌だから他人にそれを強要しないだけなんだけど」

「そうね。大人の恋愛はそうかも。でも高校生じゃまだ子供だから。頭で分かっていても縛ったり縛られたりしていたいんだよ」

「なんか…面倒くさいな…」

本音が口から漏れると莉々は苦笑のような表情を浮かべて僕の頭を軽く撫でた。

それが少しくすぐったくて、でも気持ちが良いような心地が良いような。

優しさに包まれている感覚がして僕は今に身を任せていた。

「喧嘩しているなら私のところにいると良いよ。莉子が面倒くさいと思うなら。しばらくは私の所で休んでいなよ」

莉々のその言葉に僕は自然と頷く。

そのまま彼女の胸に顔を埋めると深く深呼吸をした。

やはり莉々の胸の辺りからは苺の匂いがする。

甘くて少しだけ爽やかな柑橘系に近い匂い。

その匂いに安らぎを感じていると莉々は僕を包み込むようにして抱きしめた。

「大丈夫。いつまでも私がいるから」

莉々の甘い言葉が耳から入ってくると鼓膜で響いて全身へと伝播していく。

脳内では幸せホルモンがドバドバと大量に発生して身体や血液中を全力で駆け巡っていた。

「僕は…莉々が…好き…」

正直な気持ちが思わず口から漏れてしまう。

その言葉を莉々は優しく受け止めてくれる。

「私を選んでくれるの?」

「そう捉えて貰っても構わない」

「本気?」

「もちろんだよ」

「嬉しいっ♡」

莉々は僕の顔を両手で掴むとそのままキスをしてくる。

次第に激しく貪るようなキスが展開されていくと僕らは行為に夢中になっていた。

しばらくすると僕のスマホに着信が入ったがそんな事は気にせずに行為は継続していく。

何度目かの行為が終了するとベッドで横になった。

スマホを手にしてロックを外すと莉子からの謝罪のチャットが届いていることに気付く。

「ごめん。私が試すような事を言ったばかりに…喧嘩になった。私が悪いから謝る。ごめんね」

しかし僕は莉子に面倒くささを感じているため既読をつけるだけでスマホをベッドの上に置く。

僕と莉々はそこから手を繋いで冷房の効いた部屋で静かに眠りにつくのであった。



そんな経緯があり莉々の家で過ごす日々が数日間経過した頃。

僕らはリビングのソファで隣り合って座っており昼食を取りながら映画を眺めていた。

その邪魔をするかのように不意に着信が入って映画を一時停止する。

鳴っていたのは僕のスマホで画面に表示されている友人の名前を見て莉々に断りを入れてから電話に出る。

「どした?」

「福永!お前莉子ちゃんと別れたん?」

友人はかなり焦っているような声音を出すので僕は軽く疑問を抱いた。

「なんで?喧嘩中だけど別れるって話は出てない」

「まじか…莉子ちゃん女子グループと一緒にナンパ待ちしていたぞ!どうすんだよ!お前の彼女だろ?」

「ん?あぁ…まぁ。好きにさせてあげると良いよ。莉子がしたくてしているなら僕は止めないし」

「はぁ?お前…それってなんか冷たくないか?自分の彼女だぞ?大事にしろよ」

「って言われてもな。僕も今、彼女と一緒だし」

「あぁ〜。そう言えば姉とも付き合っているんだったな」

「そういうこと。僕も自由にしているから莉子も自由にして良いんだよ」

「なんか…お前らの関係…複雑だな…」

「あぁ。今、映画観ているところなんだ。用事はそれだけ?悪いけどそれだけなら切るよ」

「それだけだ。心配した俺が馬鹿みたいだ…」

「いやいや。教えてくれてありがとうな。じゃあ」

そうして電話を切るとリモコンに手を伸ばす。

「莉子がどうかした?」

莉々は薄く微笑むと僕に問いかけてくる。

「ん。どうやら本当に友人と海に行っているらしい」

「へぇ〜。行動に出たんだ。完全に悪手だね」

僕はそれに苦笑のような複雑な表情で応えた。

「私達はどちらかと言えばインドアだし。海に行く気になれないからなぁ…」

莉々は何か悩んでいるような表情を浮かべていた。

「どうかした?」

「うん。今日も暑いなって」

「ん?」

小首をかしげて莉々の話の続きを待っていた。

「そうだ!お風呂に水を溜めて擬似的に海に行った気分を味わおうよっ♡」

僕はその提案に乗ることを決める。

こうも暑いと冷房が効いているはずなのに汗が出てくる。

莉々はソファから立ち上がると風呂場まで向かっていた。

風呂の蛇口を捻っているようで水を勢いよく出していた。

戻ってきた莉々は妖しい笑顔を浮かべて僕に試すような言葉を口にする。

「水着着て欲しい?♡」

その問いかけに僕はゴクリとつばを飲み込んだ。

そして静かに頷くと莉々はイタズラな表情を浮かべて妖しく口を開いた。

「変態っ♡嫌いじゃないけどっ♡」

そんな言葉を残した莉々は自室で着替えを済ませているようだった。

しばらく悶々とした状態でリビングのソファで時が経つのを待っていた。

「凪くん〜水溜まったよ〜」

そんな声が聞こえてきて僕は風呂場に向かった。

かなり際どい水着に着替えて風呂桶に入っている莉々を見て少しだけ笑みが溢れる。

「あれ?あんまり刺さらなかった?」

「違くて…そんな張り切った水着着ているのに…風呂桶に入っているから。ミスマッチ過ぎて笑えてきた」

「でも…そういう作品あるでしょ?」

「あぁ〜…確かに?」

「とにかく。凪くんは全部脱いでっ♡」

それに了承するように頷くと僕は服をすべて脱いで風呂桶に向かう。

二人正面を向いて水風呂に入っているとその内、良い雰囲気となり行為は始まってしまう。

いつもと違うシチュエーションにコスチューム。

それらが僕らの心に火を灯しているようだと感じた。

いつも以上に燃え上がる行為が終了するとそのまま風呂を沸かす。

二人でお風呂に入り全身を洗い合うと脱衣所に出る。

「それにしても…こういうの良いねっ?♡」

莉々は今回の行為に興奮を覚えたようで嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「確かに。たまには良いかもね」

そんな答えを出してバスタオルで全身を拭くと着替えを済ませてリビングへ戻るのであった。



夏休みが始まって一週間が経過していたが僕はずっと莉々の家に泊まっていた。

莉々は僕を煙たがることもなく些細な諍いすら無い。

喧嘩など一度もしていない僕らは相性がいいように思えてしまう。

まず大前提として莉々は僕よりも大人で我儘のような事は言わないし、変なつまらない嘘や見栄を張ることもない。

僕らは確実に自然体で過ごせていた。

だから毎日だってずっと一緒に居たいと思える相手なのだ。

「もうこのままここに住めば?」

莉々は僕に微笑んで提案をしてくれる。

「それもアリだねぇ〜」

冗談と捉えた僕は適当な返事をしてテレビの画面を眺めている。

「冗談じゃないんだけど?」

莉々は本気で提案をしているようで僕も思わず驚いた表情で莉々の方へと視線を向けた。

「マジで言ってる?」

「うん。大マジ」

「そっか…」

「どうする?気が早かった?」

「そんなこと無い。でも良いの?」

「もちろん」

「わかった。じゃあ少しずつ荷物運ぶわ」

「うんっ♡同棲楽しみっ♡」

「僕もだよ」

そんな話が決まると僕らは軽いイチャイチャを始めていつものように行為に夢中になるのであった。



返事が来ない。

既読がついたのに。

私は振られたのだろうか。

下手な選択肢を選んでしまった。

私に駆け引きなど出来るわけもない。

私は姉のように器用ではないのだ。

このままいくと別れ話に発展するか自然消滅するのは避けられない。

私に起死回生の一手があるとしたら…。

そんな事を考えて冷静じゃないと頭を振るのであった。



遂にこの時が来た。

凪は私のものとなる。

妹は私の味方をしていると錯覚するぐらい悪手を取り続けてくれた。

その御蔭で完全に凪の心は私の元へと向かった。

これで完全に私が勝者となった。

手に入れてからが肝心である。

いつまでも大事にしないといけない。

私が気を抜いたら莉子に再び奪われてしまうかもしれない。

そんな事を少し不安に思ったが隣で幸せそうに寝ている凪を見て私は安堵する。

寝ている凪に優しくキスをすると私も再び安心して眠りにつくのであった。



僕は決断することになる。

もう莉子との関係を終わりにしよう。

僕は最終的に莉々を選んだのだ。

これで間違っていない。

きっとこれが正解なのだ。

そんな言葉を自分に言い聞かせて。

いつまでもずっと一緒に居たい相手の温もりを隣に感じながら…。

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