恋人が浮気をしたので復讐のために彼女の姉と寝た。姉に劣等感を抱いている彼女はその日以降僕に異常な執着を抱くようになる。メンヘラ妹と余裕のある姉。ハッピーエンドでは終われない愛憎劇
第4話傾いた心を元に戻すのは難しい。けれどここから…
第4話傾いた心を元に戻すのは難しい。けれどここから…
「この眼鏡似合うと思うよっ♡」
本日は日曜日。
莉々の家に泊まった翌日のことである。
彼女の部屋にはコレクションのように眼鏡がいくつも存在していた。
莉々はその中の一つをこちらに持ってくると僕に手渡す。
「そう?」
促されるままに眼鏡をかけて鏡を確認する。
「なんか真面目くんっぽくない?」
軽い苦笑とともに少しの照れ隠しでその様な言葉を口にする。
「ほら♡やっぱり似合うじゃんっ♡」
莉々は嬉しそうな表情で僕の側までやってくると不意に抱きしめてくる。
「ギャップがあってかっこいいっ♡」
褒めの言葉を素直に受け入れるとくすぐったい感情が全身を包んでいた。
「あ…もうこんな時間…莉子から連絡来るんじゃない?」
莉々は部屋の時計に目が行ったのか急に冷静になって残念そうな言葉を口にした。
「あぁ…そうだね。日曜日だし。約束はしていないけど誘いは来るかも」
「どうするの?行ってきても良いよ」
「う〜ん。まぁでも…誘われてから考えるよ」
「そうね」
そこから僕と莉々は起きてすぐだと言うのに磁石のS極とN極の様に自然とくっついていた。
体が触れ合うとどちらからともなく行為は始まっていた。
何回目かの行為が終わって風呂に入って出た辺りでスマホに通知が届いていることに気付く。
「おはよう。今日デートしない?」
もちろん相手は莉子だった。
「うん。支度したら出る。何処集合?」
「じゃあ駅集合で」
「了解」
チャットのやり取りを終えると遅れて風呂場から戻ってきた莉々に告げる。
「やっぱり莉子から連絡きたよ。デート行ってくる」
少しだけ申し訳無さそうな表情を浮かべて口を開く僕に莉々は薄く微笑んで頭を撫でてくれる。
「そんな顔しないで。私は行ってきて良いって言ったでしょ?そんなに余裕のない女性に見えるの?心外だなぁ〜」
莉々はお姉さんの様な態度で僕に接すると撫でていた頭を自分の胸に押し付けて抱きしめてくる。
「大丈夫。私は何も心配していないから。凪は最終的に私を選ぶって信じているよ。それまでの過程で莉子と遊ぼうが何しようが好きにして良いよ」
莉々の優しくも妖しい口調に僕の耳は完全に犯されているようだった。
耳を伝って全身を蝕んでいき最後に残された心臓に莉々の甘い毒が滲んでいく。
莉々の色に全身が染められていくような心地の良い感覚がしていた。
毒のはずなのに僕にとって莉々の甘言はは百薬の長のようだった。
「ありがとう…」
莉々の胸に顔を埋めたまま安心した状態で感謝の言葉を口にする。
すぅと深呼吸をすると莉々の胸の匂いは苺のような甘い香りがした。
「甘い匂いがする…」
そんな言葉が自然と漏れると莉々は嬉しそうな表情で微笑む。
「好きな人からは甘い匂いがするんだって話を聞いたことあるよ」
「じゃあ僕は莉々が好きなの?」
「そうかもね」
そんなやり取りをしながら僕は完全に年上である莉々に甘えきっていた。
莉子とデートに行くのを躊躇ってしまうほどこの心地のいい空間から抜け出したくなかった。
「ほら。そろそろ行かないとでしょ?」
「でも…」
「大丈夫。会いたくなったらいつでも来ると良いわ。私はいつでも歓迎するから」
「うん。ありがとう…じゃあ行ってくる」
そうして僕は莉々の家を抜けるとその足で待ち合わせ場所の最寄り駅へと向かうのであった。
待ち合わせの駅に到着すると莉子は既に僕のことを待っているようだった。
だが…何処かの知らない男性グループと話をしている。
少々怖かったが莉子の元へと足を運ぶと声を掛ける。
「おまたせ」
そのたった四文字で莉子は困っていた表情を明るくさせてこちらに駆け寄ってくる。
「んだよ。彼氏持ちかよ…行こうぜ」
四人組の男性グループは僕らに嫉妬のような眼差しを向けながら先に向かっていった。
「怖かった…学校の男子じゃないから…顔見知りじゃないし…強く出られなかった…凪が来てくれて助かったよ…っ♡ありがとう♡かっこよかったよっ♡」
「そうでもないだろ。ただ声を掛けただけだし。特別なことはしていない」
「それでもっ♡堂々とした態度でこっちに来てくれて…理想的なシチュエーションだったよっ♡」
本日の莉子はいつもよりも可愛らしく見える格好をしていた。
それを加速させるように仕草や表情、メイクなども可愛いに振っているようだと思った。
「今日は特別可愛いね」
莉子の全身を眺めると思わずそんな言葉が口を吐いた。
「そう言ってもらえて嬉しいっ♡早起きして頑張ったんだよっ♡」
「そっか。ありがとうね」
「うんっ♡何処行く?」
「う〜ん。映画か水族館か美術館?」
三つの選択肢を提案として出すと莉子は少しだけ悩んだ表情を浮かべていた。
「美術館って行ったこと無いかも…」
莉子は少しだけ興味があるのか表情を明るくさせると小首を傾げた。
「僕もないけど。行ってみようか」
「うんっ♡行こっ♡」
そうして僕らは駅から少しだけ離れた場所にある美術館へと向かうこととなる。
美術館に入館すると会話は控えないといけないらしく僕らはほぼ無言で時々少なめの感想を口にして過ごしていった。
一周回り終えて出口で本日展示されていた美術品の資料集のような物を購入して外へ出る。
「美術館ってこんな感じなんだね。凄く静かで心地良い空間だね」
「だね。日頃の喧騒を忘れる感じだった」
「近くにカフェがあったよ。そこでお茶していこう」
それに頷くと僕らは美術館で観た作品についてあれやこれやと感想を口にしていた。
現在時刻は十五時近くだった。
「この後はどうする?」
特に予定は決まっておらず時計を確認すると莉子は少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべる。
「何?もう帰りたいの?」
「そんなこと一言でも言った?」
「だって…そんな態度じゃない?」
「そう?自然体でいるつもりだけど?」
「お姉ちゃんのところ行きたいんでしょ?」
「何でそうなるんだよ…妄想力豊かすぎだろ…」
「心配になっても可笑しくないでしょ?」
「そうだが…今日は莉子とデートの約束しているんだから心配になる必要ないでしょ?」
「そうだけど…デートが終わったらお姉ちゃんのところに向かうのかな…って心配になっちゃって…」
莉子の言葉をしっかりと受け止めると対面の席で心配そうな表情を浮かべている彼女の頭を撫でてあげる。
「心配させてごめんな。ちゃんと莉子だけの事を考えているから。大丈夫だよ」
完全に嘘では無いが慰めの言葉として多少の嘘をついている自分に気付く。
「私こそごめん…楽しいデート中に嫌なこと言って…」
「構わないよ」
そうして僕らは本日、日が暮れるまで駅前のショッピングモールで時間を潰すと楽しかったデートは終わっていく。
「じゃあ明日学校でね?」
「あぁ。また明日」
莉子の家の前まで彼女を送り届けると僕はその足で帰路に就くのであった。
帰宅した僕は本日のデートに少しの疲れを覚えていた。
肉体的疲労ではなく精神的疲労だった。
部屋着に着替えるとベッドに潜り込んで夕食の時間まで眠りについてしまうのであった。
私はかなり焦っていた。
姉に遅れを取っていることに気付いている。
凪の心は確実に姉へと傾きかけていた。
焦る私の心は良くない事態を招いているはず。
独占欲が顔を出して最善ではない選択肢を取ってしまっている。
気付いているが止められない。
私に姉のような余裕は無い。
二歳年下と言うだけだが凪の目に自分は姉よりも相当幼く映っていることだろう。
そんな自分をかなり恥ずかしく感じていた。
焦って間違った行動を取って悪態のようなものを吐いて慰められて…。
そんな面倒な女子を凪が好きでいてくれるとは思えない。
私だったら嫌だ。
こんな面倒な女子…。
これからどの様に態度を変えて接すれば良いのか。
私は本日も凪のことを眠りにつくまで考え抜くのであった。
私は確信していた。
凪の心が私に向かってきていることに。
何かの本で読んだが圧倒的に年上の異性に興味を持つようになっている。
誰かの偏見に満ちた言葉だったかもしれない。
けれどそれも事実だと感じ始めている。
凪は私といることを選択したがっている。
もっと私と一緒に居たいと思っているようだった。
血の繋がらない姉のような母のような恋人を求めていると思われた。
異性に全力で甘えたい年頃なのだろう。
それを可愛らしく思う。
私も莉子の姉なので年下を構うのは慣れている。
そして凪は私の母性の様な優しさに包まれたがっている。
私も溢れ出る母性のやり場に困らないで済む。
お互いにとってウィンウィンな関係だと言える。
私には余裕がある。
確実に凪を手に入れるのは私だろう。
そんなことに気が付くと悪い笑みが止まらないのであった。
僕はどうすれば良いのか。
少しだけ悩んでしまう。
このまま進むと確実に悪い展開が待っていると思われた。
何故ならば莉子の様子がここ最近おかしいからだ。
自分に待っているのがバッドエンドであることを少し悟ると今後の事を思うのである。
もうはっきりと答えを出した方が良いのではないだろうか。
しかし…。
もしも莉々を選んだとして。
僕を完全に手に入れたら莉々は満足して僕を捨てるのでは無いだろうか。
そんな心配する心が顔を出すとまだ答えは出せないのであった。
僕の優柔不断で流れに身を任す様な考えが今後の展開を巻き起こすことをまだ知りもしないのであった。
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