第3話姉妹の愛情憎悪
金曜日の放課後のことであった。
「なぁ…莉子ちゃん…何で浮気をした福永と未だに付き合っているんだ…?愛想が尽きたりしないのか?」
莉子と一緒に裸で同衾している合成写真を作った友人は彼女に話しかけていた。
「は?ってかあんたがわけわからないことしたせいで…私と凪の関係にヒビが入ったんですけど?どうやって落し前付けてくれるつもり?」
莉子は完全にキレており虫を見るような目で友人を見下していた。
「いや…それは…ほんの出来心で…」
タジタジしている友人に莉子は一つ舌打ちすると吐き捨てるように言葉をぶつけた。
「頼むから今後一切私の邪魔をしないで。一生関わらないでくれたら気にも留めないから。じゃあそういうことで」
友人に目を合わせることもなく莉子は鞄を持つと僕の元へと小走りで向かってくる。
「凪っ♡帰ろっ♡?」
僕も鞄を持つと了承するように席を立った。
僕の腕に自分の腕を絡みつけて胸を押し付けてくるようなわざとらしい仕草に苦笑しながら僕らは教室を後にした。
「なんで…福永だけ…なんで…俺に振り向いてくれないんだよ…!」
友人はその様な言葉を悔しそうに漏らすと別の友人の邪気のない言葉に刺されていた。
「お前…あれがアピールのつもりだったのか?そうだとしたら小学生みたいで相手にされるわけ無いだろ。もう少し大人になれよ。女子の気持ちが全然わかってないし。端的に言ってキモいぞ」
その言葉で完全にノックアウトされたのか友人はその場に崩れ落ちたとか…。
「明日は休日だけど…何処かに出かけない?パパとママが家にいるから…おうちデートは避けたいし…」
帰り道のことだった。
莉子は翌日からの休日に思いを馳せているように思える。
「何処かって何処?」
提案をするのは簡単だが一応希望がないかと問いかけていた。
「う〜ん。最近できたアウトレットモールを見て回りたいな。夏服を買っておきたいし」
「そっかそっか。電車で一時間ぐらいだっけ?」
「うん。そこからシャトルバスに乗れば二十分ぐらいで到着するよ」
「そうか。移動時間が結構あるな…」
少しだけ悩んだような表情を浮かべると莉子は心配になったのか僕の機嫌を伺っているようだった。
「面倒だったら良いよ。凪の行きたい場所に行こう?」
莉子の言葉に僕は苦笑とともに首を左右に振った。
「そうじゃなくて。もっと簡単に移動できる手段は無いかなって思ってさ…」
僕の言いたいことも莉子は分かっているようだった。
莉子もきっとその手段を取るのがベストとまでは言わないがベターだとは思っているようだった。
僕らの思いは繋がっている為、莉子は少しだけ溜息を吐く。
「お姉ちゃんにお願いしようか…そうすれば移動費も買い物に使えるもんね」
「あぁ。そうだな。莉々に車を出してもらうのが良いと思うな」
「うん。じゃあ私から言ってみるね」
「頼む」
莉子は姉の莉々にチャットを送っているようで数分もしない内に返事が来る。
「了解だって。じゃあ明日は午前中にお姉ちゃんの家に集合だね」
「だな。今日はどうする?」
「家…来る?今日ならまた誰もいないよ?」
その言葉に了承するように頷くと僕らは莉子の家へと向かう。
もちろん本日も僕らは何度と無く体を重ねて確かめ合うように愛を育むのであった。
それが本来の愛情とはかけ離れていると薄々気付いていながら…。
莉子の家から帰宅した僕は制服を脱いでハンガーへと掛ける。
部屋着に着替えてベッドの縁に腰掛けた所でスマホに着信が入った。
画面に表示されている名前は莉々だった。
「どうした?」
電話に出ると莉々は寝起きの声で甘えるように僕の耳をくすぐった。
「明日午前中にうちに来るなら。今日も泊まれば?」
その提案に僕は何処か心が踊っていた。
何となくいけないことを重ねて感覚が麻痺しているようだと思った。
莉子への罪悪感と言うよりも背徳感の方が上回っている。
ゴクリとつばを飲み込むと僕は莉々へと了承の返事をする。
「分かった。すぐに支度して向かう」
「うんっ♡今日もいっぱい楽しもうねっ♡」
そんな甘美で罪の味がする言葉が鼓膜を通じて全身に駆け巡っていた。
通話を切った僕は荷物を鞄に詰め込んで莉々のマンションへと向かう。
もちろん莉々の家に着くとすぐにも行為は始まって僕らの歪な愛の形は今日も今日とてぐちゃぐちゃに変形していっているようだった。
だけどそれが何処か心地よい。
僕も…きっと莉々も。
相手を想って愛を与えるというよりもぶち撒け合っている。
どの様に受け取って欲しいなどという想いは微塵もなく。
自分のあるがままの愛を相手へと問答無用で投げつけている。
そんな感覚に近かった。
けれど僕と莉々は馬が合うのか、その想いを100%以上で受け止めていた。
複雑で奇妙な僕らの関係はいつまでも続きそうだと思う。
そんな夜に本日もなるのであった。
土曜日の朝のこと。
僕と莉々は裸の状態でベッドで目を覚ます。
アラームがうるさいぐらいに鳴っていて、それを止めると起き上がった。
二人して風呂場に向かい全身を洗い合うと朝から軽いイチャイチャは始まる。
「待った待った。今から出かけるんだから。後でな」
僕はどうにか莉々を制すると先に脱衣所へと出た。
「じゃあ今日も帰らないで泊まっていってくれる?♡」
遅れて脱衣所に来た莉々はその様な誘い文句を口にして薄く微笑んだ。
「わかったよ。でも莉子も黙ってないんじゃないか?」
「それは大丈夫。うちの決まりで成人するまで外泊禁止だから」
「そうなの?厳しいんだ」
「まぁね。パパ以外みんな女だから。私が一人暮らしするって話した時もパパが猛反対したけどママがどうにか説得してくれたんだ。大学生の一人暮らしにしては贅沢なマンションに住んでいると思わなかった?パパがセキュリティのしっかりしたところを選んでくれて家賃も払ってくれているんだ。過保護なんだよ」
「なるほどな…」
彼女らの家の事情を薄く察すると僕は着替えを済ませる。
その後は身支度を整えると莉子を待つのであった。
「で?昨日はお姉ちゃんの家に泊まったの?」
現在、車中で莉子に質問をされていた。
運転席には莉々が座っており助手席は空いていた。
後部座席に僕と莉子が座ると彼女は必要以上に心配しているようだった。
「何のこと?昨日は私一人だったけど?」
莉々はすっとぼける事を決めたようでミラー越しに僕へ合図を送っているようだった。
「うん。僕も昨日は莉子の家から帰ったら疲れていたのかぐっすり寝ていたよ。起きたのが朝の五時で困ったけど。莉々の家に先に着いたのはそれが理由だと思うよ」
「………ホントに?」
僕と莉々はそれにポーカーフェイスで頷く。
莉々はフロントガラスの向こうに集中していたし僕も窓ガラスの奥の景色を眺めていた。
「ふぅ〜ん。じゃあ私の考えすぎだったね…」
莉子はふぅと溜息を吐いてスマホを操作するとアウトレットモールでお目当てのショップのサイトを開いていた。
「これとか良くない?」
「どっちが良いかな?」
「凪はどう思う?」
「この中で好きな系統はどれ?」
「私に似合う服ってどんなジャンルだと思う?」
車中で莉子は僕に積極的に質問を繰り広げており僕もそれに一つずつ返答していた。
莉々は余裕の笑みを浮かべて運転に集中している。
正味二時間ほどの運転で目的地に到着すると僕らは買い物を開始することになる。
三人で並んで行動しており莉子は僕の腕にしがみついていた。
莉々はベッタリすることもなくアウトレットモールの地図を眺めたりしていた。
「莉子が行きたいショップってこっちじゃない?」
莉々に案内されて僕らはショップを転々と移動していった。
「ちょっとお手洗い行ってくる」
莉々は途中に存在していたお手洗いへと向かう。
「僕も行ってくるわ」
莉子に告げてお手洗いに向かうと用を足す。
手を洗って戻るとまだ莉々は帰ってきていなかった。
そのチャンスを見逃すほど莉子はお利口さんでもない。
僕に熱い抱擁をすると誰も見ていないことを確認してキスをした。
長く感じるキスが強制的に終わったのは莉々が戻ってきたからだった。
僕らのキスを目の当たりにしても莉々はなんとも無い表情を浮かべていた。
と言うよりも薄っすらと余裕のある笑みを浮かべていたようにも思える。
そこから数時間の買い物が終了すると僕らは帰路に就くのであった。
莉子を家まで送り届けた莉々に彼女は忠告するように口を開いた。
「凪のこと家までちゃんと送ってよね?」
「分かってるよ」
莉々は薄く微笑んで妹をあやすような口調で答えた。
「信用ならないんだけど…凪も誘われてもちゃんと家に帰ってよ?」
「わかった」
そうして車が発進すると僕らは莉々の家へと向かう。
家に着くと莉々は我慢の限界とでも言うように僕に襲いかかる。
そのまま玄関を入ってすぐの廊下で行為は始まってしまう。
「なにあれ…っ♡見せつけるようにキスして…っ♡本当に可愛い妹なんだからっ♡」
莉々は先程の光景を思い出しているのか完全にトリップしているような表情で僕のことを貪っていた。
本日も僕らは何度と無く身体を重ねて気絶して眠りに着くまで愛を育むのであった。
私は知っている。
先日も本日も凪が姉の家に泊まっていることを。
知っていると断定的に言うのは間違っているだろう。
けれど私は悪い意味で姉を信用しているのだ。
私の出来ないことを自分にしか出来ないことを率先してやるのが私の姉だ。
私に対しての性格の悪さを信用しきっている。
確実に姉は私が外泊出来ないことを良いことに凪を連れ込んでいる。
姉への憎悪が肥大していくに比例して凪への執着という名の愛情が膨らんでいく。
この言いようのない感情が負のものではないと信じたい。
私は私の心が感じるままに凪を求め愛しているのだと確信を持って言える…はず。
まだ奪われているとは思えない。
私にだって勝機はあるはずだし姉よりも私を選んでくれる可能性はある。
私の全身全霊の想いを凪へとぶつけるために…。
本日も自分を磨くのであった。
私も知っている。
妹は私の言葉など信じないことに気付いている。
私達姉妹は悪い意味で信頼し合っている。
同じ標的が目的なら相手がどの様な手段を取るかを完全に理解しているだろう。
今頃、妹は性の勉強に励みながら筋トレなどをして身体を磨いていることだろう。
私が過去に経験してきた道をなぞるように…。
妹は何処まで行っても妹なのだ。
姉が歩いてきた轍の上を自らが切り開いた道と勘違いしながら、いつまでも私の後を追いかけるのだ。
それに言いようのない優越感や背徳感を覚えるのは悪いことだろうか。
誓って言うが私は妹が可愛くて仕方がないのだ。
可愛くて可愛くて…そのまま壊してしまうぐらい。
それぐらい愛おしくて可愛くて仕方がないのだ。
だってそうでしょ。
私の後を無意識に追ってくる妹を可愛く感じないわけがない。
例え妹に憎まれたとしても…。
私は私を曲げたりしない。
凪は貰っていくし嘘や遠慮で与えてあげたりしない。
私が掻っ攫っていくのを指を咥えて見ることしか出来ないでいる妹を想像するだけで私の中のどす黒く歪んだ愛情が全身を包んでいく。
私達姉妹の複雑で奇怪な愛の形を理解できる他人はこの世に存在しないだろう。
私の深い愛情が届くのはきっと凪にだけ。
妹にもいつか理解して貰えるだろう。
だって莉子は私の妹なのだから…。
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