第2話二人の間で踊る愚者

「お姉ちゃんの事は…本当に好きなの?」

放課後の帰り道のこと。

莉子はマジなトーンではなく明らかに繕った態度で僕に問いかける。

「何が言いたい?」

話の本質を理解するために質問で返すことを決める。

「だから。私とお姉ちゃん…どっちが好きなの?」

なるほど理解した。

要は莉子は莉々よりも愛されていたいと言うことなのだろう。

それだけで自己肯定感は爆上がりし姉への劣等感を抑えることが出来る。

そういうことなのだろう。

「莉子の方が好きに決まっているだろ。裏切られたけど…それは莉々との関係でチャラにするよ」

ゴリ押しの嘘で僕はこの状況を切り抜こうとしていた。

何故ならば友人の写真は合成写真だったそうだし莉子に後ろ暗い理由など無い。

「ホント…?許してくれるの?」

はて?

どうして莉子は話を飲み込んでいるのだろうか。

その答えは僕が無言を貫くことで明らかとなる。

「あの嘘の合成写真は確かに私達女子生徒も目にしたけど…あれ以外の情報もキャッチしていたんでしょ?」

「………」

前言撤回するが莉子には後ろ暗い理由が潜んでいるらしい。

「他校の男子と合コンしたの…怒っているんでしょ?私も人数合わせで誘われて…気の迷いのようなものだったの…でも誓って言うけど…何もしてないんだよ?」

莉子は必死になって僕に弁解している。

それを無言で貫いて時々頷くだけだった。

「どうしたら許してくれるの…?」

莉子の縋るような視線が全身に絡みついてい剥がれない。

「それは自分で考えな。過ちを犯したと思うのであれば…どう償うかも自分で決めるべきだよ」

「そう…だね…」

莉子の表情は本日初めて暗いものへと変わっていく。

その表情には邪な感情は含まれていないように思える。

どうやら自分だけを責めている莉子の頭にぽんっと手を置く。

「そんなに自分を責めるな。僕だって仕返しのために莉々と寝たんだ。喧嘩両成敗で良いじゃないか」

「そう言ってくれるの…?」

「もちろんだ。だから姉妹関係にもヒビを入れないようにな」

「………それは…無理…」

莉子は姉の莉々に対して明らかな敵意を抱いているようだった。

僕が誘って莉々と寝たというのに莉子は姉が全面的に悪いとでも思っているようだ。

「ずっと…お姉ちゃんより…私だけを愛していてね…?♡」

明らかにヤンデレの目をしている莉子に僕は少しの動揺を覚えた。

だがそれを悟られないように頷いて応える。

ピロンっとスマホに通知が届いて僕らはお互いにスマホをポケットから取り出す。

「私じゃない…誰からだった…?」

莉子は自分のスマホを再びポケットにしまうと探るように僕に問いかけてくる。

「ん?クーポンのお知らせだった」

「そっか。とりあえず今日は家に来る?」

「そうしよう」

そうして僕らは揃って莉子の家へと向かうのであった。



両親も姉の莉々もいない家で僕らは莉子の部屋へと向かう。

「お姉ちゃんは…どうだった?」

ベッドに腰掛けた莉子は誘うようにブレザーを脱いでいく。

シャツ越しに下着が薄く浮かんでいる。

本日は薄い水色の下着をつけているようだった。

キャミソールを着ていないのを少しだけ不思議に思っていた。

下着が透けないようにいつもは徹底していたはずだが…。

リボンを外した莉子はシャツのボタンを一つ外す。

「どうだったって?」

質問を返すと莉子は妖しい笑みを浮かべて問いかけてくる。

「上手だった?」

「どうかな。きっと初めてだったみたいだし。普通だったと思うな」

「そう…今日から私は凪がしたいこと…何でもしてあげる♡どんな激しいことでも受け入れるよっ♡」

ゴクリとつばを飲み込んで僕は莉子の隣に腰掛けた。

そのまま貪るようにキスをしてくる莉子に合わせて僕らは行為に及ぶ。

何度か連続的に行為をして疲れ果てた僕らはベッドで横になる。

「愛されている…って感じる…」

莉子は僕の胸に顔を乗せて耳を心臓の辺りに当てていた。

「凪の心音が聞こえる…凄く心地良い…」

トクンとトクンと静かに鳴っている僕の心音を耳にしながら莉子はそのまま目を閉じる。

静かな寝息を立てた莉子をベッドに寝転ばすと着替えを済ませた。

足音を立てずに部屋の外に出るとそのまま家を後にする。

先程、僕は嘘を吐いた。

通知はクーポンのお知らせなどではない。

莉々からの誘いの文言だったのだ。

「莉子と遊び終えたら家においでよ♡今日も沢山遊ぼっ♡」

莉々からのチャットに僕は了承するスタンプを送っていたのだ。

莉子が眠っている間に僕は家を抜けて、その足で莉々の家へと向かうのであった。



「莉子とはどうだった?何でも受け入れるとか言ってきたんじゃない?」

莉々は妖しい笑みを浮かべながら余裕の一言を口にする。

「言ってきたね。なんで分かるの?」

「やっぱりっ♡流石私の妹…♡」

莉々はそんな言葉を口にするとゾクゾクっと震えて見せる。

そのまま自らの下腹部に手を持っていき尿意を我慢をしているようにも見える。

「そんな知識も度胸も無いくせにっ…♡私に負けないように強がって背伸びしている………っ♡最高っ♡」

莉々は満足そうな恍惚の表情を浮かべると僕の元へと向かってくる。

そのまま有無を言わさずに莉々は僕を捕食するように貪るキスをする。

激しくお互いを求め合う行為に僕らは飽きもしなかった。

無邪気で純粋な愛情でないことはお互いが理解しているはずだ。

けれど熱く燃え上がるような毒までも喰らって暗闇で全身を包み込むような背徳感のある行為。

歪で不完全。

それでいて完全な愛がそこにはあるような気がしている。

僕らは身体を重ねるごとに愛という形を変えていく。

他人から見たら複雑で奇妙な形をしているかもしれない。

端的に言って間違いの形かもしれない。

だが僕らにはこれが正解なのだと言い切れる。

だから僕と莉々は本日も二人で朝を迎えるのであった。



私は気付いている。

今夜、凪は姉を抱き抱かれていることに。

私を抱いている時もその後ろにいるであろう姉の幻影を求めていた。

凪の目を見れば分かる。

それでも私は自分の気持ちを抑えることが出来ない。

姉よりも私を愛して欲しい。

私は姉以上の存在になる。

その手段は如何にして…。

姉と凪が身体だけの関係であることを願う。

そこに愛が無いことを切に願うのであった。



私も気付いている。

私達の間に産まれた言いようのない感情の正体に。

きっとこれが私達の歪だけど完全な愛の形。

私を抱いている凪が妹の姿を微塵も想像していないことは目を見ればわかる。

私との行為に夢中で虜になってくれている。

私もそうだ。

この背徳的で甘美な関係に溺れている。

最終的にも私を選んで欲しい。

大丈夫。

姉とは妹の先を歩くもの。

いつまでも羨ましい視線を私に向け続ければ良いのだ。

凪を奪われた莉子は…。

そんな想像をしてまた私達は身体を重ねるのであった。

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