54.再会
王国騎士団の定期視察当日。
俺とアティア、パルネの三人は朝からギルドに来ていた。
俺とアティアはもちろん姉上を見る為に来ているのだけど、パルネは二人が来るのなら、と言って付いて来ていた。
普段の騎士団視察では冒険者はそれほど多く集まることはないらしいのだが、どうやら【女傑英雄】の姉上が来ると噂が広まっているようで、いつもよりギルドに人が集まっているとパルネが言っていた。
三人でレストランの端の方の席に座り、騎士団の来訪を待つことにする。
朝から騎士団の一行は街の役所や憲兵詰所などを回った後、この冒険者ギルドを訪れるらしい。
「何かドキドキしてくるね」
「ん……そうだな」
アティアがそわそわした様子で声をかけてくるけど、どうも俺はまだ姉上に会いたいのか会いたくないのか自分の中で整理出来ずにいた。
でもアティアは姉上を見れるのが楽しみみたいで、さっきから視線をギルドの入口と俺の顔でせわしなく往復させていた。
ギルドのカウンターにいる職員もいつもより数が多く、一様に緊張した面持ちで並んでいる。その中にはギルド長のディーガンさんの姿も見える。
「あ、あれ!オルディアさんだ」
パルネが冒険者が多く座っているレストランのテーブルの一つにオルディアさんを見つけた。パルネがすぐに声をかけると、オルディアさんが俺達のテーブルに近付いてくる。
「なんや、ラディーらも騎士団見に来たんか?」
「まあ、そんなところです。オルディアさんもですか?」
「そらそうや。なんと言ってもあの【女傑英雄】さんが来るらしいからな」
オルディアさんがそう言いながら俺達と同じテーブルに腰掛ける。
そして四人で待つことしばし……。
カウンターに並ぶ職員達に動きがあり、パルネが入口の近くに様子を見に行き、すぐに戻って来る。
「来たみたいだよ、騎士団」
レストランにいる冒険者達のざわめきが広がる。ギルドの扉が開き、甲冑に身を包んだ騎士団の一行がギルド内に現れる。
隊長と思われる男を先頭にその数、12人。
白銀の甲冑姿の騎士達がギルドのカウンターの前へと進む。
「いたっ!リンシアちゃんだ」
アティアが俺の袖を引っ張りながら指を指す。あまり行儀の良い行動じゃないけど、騎士姿の姉上を見て、アティアも興奮してるみたいだ。
そんなアティアと対照的に冷静に落ち着いて騎士団の一団を見ることが出来た。
隊長格のすぐ後ろ、姉上の赤く長い髪が見えた。王家騎士団の紋章が入った白銀の鎧との赤と銀の対比がすごく目立っていた。
兜を脇に抱え、隊長の横で控えている姉上は凛として威厳に満ちていた。
憧れ続けた王家騎士団……。
姉上……格好いいな。
姉上のその姿に見惚れていると、アティアが隣から顔を覗き込み小声で、
「やっぱりリンシアちゃんの事、好きだよね。ラディーも」
「んー……。憧れ…だな」
そう。小さい頃から憧れだった。すごく強くて格好いい。そして皆から愛される明るさが姉上にはあった。
姉上がいるだけで、周りが笑顔になった。
その姉上が、憧れていた白銀の騎士の鎧に身を包んでいる……。
俺も早くあの騎士団に……。
拳を握り、決意を新たにする。
「あれ?リンシアちゃん……。どうしたんだろ?」
アティアのその声で姉上の方へ視線を戻す。姉上はギルドのカウンター前で他の騎士と並んで控えている。
隊長がディーガンさんと話しているが、他の団員は姉上も含めて直立不動だ。
だけど、姉上が急にキョロキョロと辺りを見回し始めた。
俺とアティアは反射的に前の方に立つ群衆の陰に身を隠した。そして隙間から姉上の様子を窺う。
姉上が溜息をついた……いや、大きく息を吐き出した。そしてのけ反るくらいに大きく息を吸い込みだした。
群衆がざわめき、騎士団の団員達が何事かと姉上の方を覗き込む。
姉上は目を瞑り息を吸い終えると、カッと目を見開いた。そしてキッとこちらに刺すような視線を向ける。
な、何だ!?何かあったのか?
すると姉上がこちらに向かってつかつかと歩き出した。周りの団員は驚き、群衆にどよめきが起きる。
そんなことには目をくれず、姉上は一直線に俺達に向かって歩き続ける。姉上と俺達の間の群衆がその行く道を開け、姉上と俺の目が合った……。
「ラディーっ〜〜〜〜!!!」
俺は凄まじい勢いで突進してきた姉上に捕まった。姉上に抱き締められて、白銀の鎧が俺の顔面を直撃した。
「あああ〜〜〜〜!やっぱりラディーの匂いだったぁぁぁ〜!すぅぅぅ〜〜……はぁぁ……」
鎧の冷たさが顔面に伝わり、後頭部から姉上の腕で圧迫された。そしてわしゃわしゃと頭を撫でられ、その上で姉上が俺の匂いを嗅ぐ為に大きく息を吸い込んでいるのが分かった。
早く姉上を引き剥がしたかったけど、周りの冒険者や騎士団の人達の視線に晒されるのが恥ずかしくてすぐに引き剥がす事が出来なかった……。
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