51.休息前

 王国騎士団が行う視察について詳しく聞く為、俺とアティアとパルネはギルドのカウンターに向かった。

 昼休憩を終えたばかりの女性職員を捕まえて詳細を尋ねてみる。


「あの、すいません。近々王国騎士団の視察があるって聞いたんですけど?」

「あ〜、定期視察ですね。そうですね。今、迷宮異常イレギュラーとの兼ね合いもあって日程を調整中ですけど、ありますよ」

「それって騎士団のどういう人達が来るんですか?」

「えっと、いつも来られる方……というか、部隊が変わりますね。視察訪問は当番制になっているみたいなので」

「今回来る人達って分かりますか?」

「えっ?えと、ちょっと問い合わせてみないと分からないんですけど……」

「あ、だったら大丈夫です。すいません!ありがとうございました!」

「はあ…」


 俺とアティアは職員に深々と頭を下げて、アティアに腕を引かれた俺は再びレストランのテーブルに戻ってきた。

 その様子を理由もわからず付いてきていたパルネが不思議そうに尋ねる。


「二人とも騎士団に知り合いでもいるの?」

「まあね……」

「え?ホントに?」


 パルネが目を大きく見開いて俺とアティアの顔を見る。


 今の騎士団は貴族や名士の出身、またはそれに近い人のコネでもない限り入団することは難しい。平民も入団希望することは出来るが、その試験は狭き門で、何のコネもない平民が王国騎士団に入団することはほとんど不可能といってもよかった。


 そんな王国騎士団に知り合いがいるのだから、パルネが驚くのも当然だろう。

 俺があの【女傑英雄】の弟だと知ったらどれほど驚くだろうか……。


「じゃあ、その知り合いの人が視察に来るかもしれないんだね」

「んー、どうだろうね。私達もその人が騎士団にいるのを知っているだけで、どの部隊に所属してるかまでは知らないから」

「あー、そうなんだ〜」


 パルネが少し残念そうに俺とアティアの顔を交互に見た。



 もし姉上が俺の姿を見つけたらどういう反応をするだろうか?騎士になった姉上は見たいな……。

 

 んー、でもやっぱり騎士団の視察の日は遠くから見るだけにしよう。

 俺の姿を見つけたらすぐに抱きついてきそうだし。他の冒険者やギルドの人達が居てる前で抱きつかれるのは避けたい……。



 俺達はレストランを出て、寄り道をするというパルネと別れて、俺とアティアは二人で宿屋に向かって歩き出した。


「ねえ、ラディー。視察に来た騎士団にリンシアちゃんがいたら会いに行く?」

「んー……どうしようか悩んでる。とりあえず遠くから確認だけはしようかなと思ってる」

「でもリンシアちゃんは絶対にラディーの事探すと思うよ?」

「だよな」


 アティアがいたずらっぽく微笑んで俺の顔を覗き込む。


「会ってあげなよ。リンシアちゃん、ラディーに会えたら喜ぶよ」

「分かってるけど……」


 アティアが首を傾げて俺の前に回り込むように更に顔を覗いてくる。


「だーいじょうぶだって。リンシアちゃんもさすがに他の人達が居る前でラディーに抱きついたりしないって!リンシアちゃんも大人で、騎士なんだよ?」

「んー……」


 姉上にそんな理屈が通じるのだろうか?

 曖昧な返事をする俺の肩をアティアが軽く叩く。


「大丈夫だよ。もしリンシアちゃんがいたら、ちゃんと元気でやってるよって報告しなきゃね」

「そうだな……」


 まあ、今回の視察の一団に姉上がいるかどうかも分からないし、もし遠くから確認して姉上を見つけたら声だけでも掛けておくか。


「それでラディー。この一週間は何か予定は決めてるの?」

「とりあえず、ここに来てからこの剣のメンテとか全然してなかったから、武器屋でしっかりメンテしてもらおうかなと思ってる。何で?」

「別に何もないよ。予定がなかったらラディーの事だからまた鍛えまくって、結局休めなかった、とかなりそうだったから」

「大丈夫。ちゃんと休んで備えるよ」

「それならよし。ちゃんと休むんだよ」


 アティアは満足げに前に向き直った。



 精霊院に寄ると言うアティアと別れて、俺は宿屋の部屋に戻った。


 もう今日はゆっくりして、明日の朝一に武器屋に行くか……。

 そう考えながら部屋のベッドの上で目を閉じた。

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