49.調査報告

 翌朝、アティアとパルネと合流してギルドに向かう。

 ギルドにいる冒険者の数は少し落ち着いて、昨日よりも少なく感じる。冒険者の相手をしているギルド職員がカウンター越しに俺達の姿に気付くと、その内の一人がこちらに駆け寄って来た。


「【リドフーベス】の皆さん。おはようございます。早速ですが……」


 何か悪い予感を覚えつつ、俺達は案内されるままギルドの奥へと向かった。急ぎ足で前を進む女性職員に尋ねる。


「何かあったんですか?」

「それはこれからギルド長がお話しされますので……。実は昨晩【レガクリテ】のメンバーが帰還されたのですが……」


 帰還という言葉を聞いて少し安心した俺は隣を歩くアティアと目が合った。アティアも同じく安堵した表情を浮かべる。

 とりあえず昨日オルディアさんが言っていた最悪は回避出来たみたいだな。


 女性職員が言いかけたところで目的の応接室の前に到着した。女性職員が俺達に振り返る。


「続きはこの中で……」


 女性職員が扉をノックすると、中からギルド長ディーガンさんの応答の声が聞こえた。

 女性職員がゆっくりと扉を開けた。


 目に入って来たのは正面のソファに座るディーガンさん。その隣にナサラさんが居て更にその隣にナサラさんによく似た女性が座っていた。

 更にタリアータさんと、【レガクリテ】のリーダー、ミッグスさんが初めて会った時と同じ両側にある小さめのソファにそれぞれ腰掛けている。

 応接室にいる全員が扉の前の俺達に目を向けた。そして俺はナサラさんの隣にいる女性とミッグスさんが痛々しいぐらいの包帯姿ということに気付いた。


「どうぞ、掛けてください。【リドフーベス】の皆さん」


 俺達はディーガンさんに促され、ディーガンさんの対面に三人並んで腰を下ろした。

 目の前のテーブルには昨日、幻獣オルドクスを倒して得た歪な形の魔晶。それと亀裂の入った呪文の施された石が置かれていた。


「ラディアス君、アティルネアさん、パルネさん。まず私から一つ報告をさせてもらいます」


 ディーガンさんが真剣な眼差しを俺達に向ける。そして話しづらそうに続ける。


「昨晩、【レガクリテ】のミッグスさんとフェンデさん、そしてこちらのネブラさんが迷宮調査から帰還されました」


 ……三人だけ?ということは……


「残念ながら他の四人は迷宮内で命を落としました」


 ミッグスさんの堪える声が漏れる。

 ためらうような口調でディーガンさんはそのまま続ける。


「フェンデさんは今は治癒院で休んでいます。ミッグスさんとネブラさんには報告の為、こちらに来ていただきました」

「すみません…。わざわざありがとうございます」


 俺達はミッグスさんとネブラさんに向かって頭を下げる。ミッグスさんが包帯の巻かれた顔に無理矢理、笑顔を貼り付ける。


「よせよせ。仕事なんだから当然だ。それより……ネブラさん」

「はい……」


 ネブラさんも頭に包帯が巻かれ、腕にも痛々しく巻かれている。治療魔法は施されているんだろうから、多分戻って来た時はもっと重症だったんだろう。

 治療魔法や回復魔法はあまり一気に回復させると、痺れや機能不全などの後遺症が残る場合がある。だから術を使う時は対象者の体力や状態を見極めて使用しなければならないと、以前アティアに教えてもらった事がある。

 前にジルノートさんがパルネに使用した回復魔法などはその見極めがかなり難しいらしい。


 まだしっかりと回復させていない痛々しい姿のネブラさんがミッグスさんに促されて、鞄の中から魔晶を取り出した。

 俺達が倒したオルドクスに似た歪な形の魔晶だった。

 ミッグスさんがその魔晶を忌々しげに見つめる。


「こいつが俺達が倒した幻獣の魔晶だ」

「幻獣……20階層にもいたんですね」

「ああ。さっきタリアータから聞いたが、15階層で君達が倒したオルドクスとは違う幻獣だ」


 違う幻獣……。どんな奴が……。

 俺の考えた事をアティアが代弁する。


「どんな幻獣だったんですか?」

「センタウルでした」


 ネブラさんが静かに答えた。一点を見つめたまま、ネブラさんが続ける。


「上半身は人間、下半身が馬、頭は猛牛のそれに似た魔界の魔獣です」


 ディーガンさんがネブラさんの言葉を引き継ぐように続ける。


「そのセンタウルも15階層に現れたオルドクスもこれまでこのペグルナット迷宮では出現した記録がないモンスターです」


 応接室にしばし沈黙が流れる。その沈黙を破ったのはミッグスさんだった。


「ともあれ俺達はそのセンタウルを倒した。代わりに四人もの仲間の命が奪われたが……。そしてその魔晶を持って、なんとか帰還する事が出来た」


 ミッグスさんがテーブルの上に置かれた二つの魔晶を睨みつけた。

 ディーガンさんは悲痛な表情を浮かべながら、


「【レガクリテ】と【マクロン】の皆さんには感謝しています。その犠牲のお陰で迷宮異常イレギュラーは回復に向かっているのですから……」

「そうじゃなきゃ奴らも浮かばれないですよ」

「そうですね……」


 重い空気が応接室を包みこんだ……。


 その沈黙の中、迷宮異常イレギュラーについての見解がナサラさんとネブラさんの姉妹の口から語られた。


 今回の二体の幻獣は迷宮の中で自然に現れたとは考えにくく、人為的にこの歪な形の魔晶が置かれ、そして呪文を封印したこのアイテムも共に使用された可能性が高いとのことだった。


 そしてその二体の幻獣の詳しい召喚方法は石と魔晶を詳しく調べないと分からないという。

 少なくとも今は完全に廃れているはずの召喚魔法が利用されている可能性があるとのことだった。


 二人から幻獣についての見解が語られた後、タリアータさんが口を開く。


「では現時点では、幻獣が原因で迷宮の魔素が乱れたという事までは分かったけど幻獣を召喚した犯人までは分からない……ということですね」

「そのようです。タリアータさん……ですが原因が分かった以上、ギルドは全力で犯人を見つけ出します」


 ディーガンさんが拳を強く握り締め、俺達全員の顔を見回しながら強い口調でそう答えた。



 その後、その場でナサラさん達が水晶玉を使って迷宮の魔素の乱れを確認したところ、乱れは完全に収まっていると判断された。

 その結果をもってディーガンさんは俺達には二、三日中に迷宮封鎖を完全解除すると約束してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る