48.ギルドに帰還

 15階層から11階層までは来た時と変わりなくモンスターは出現せず、10階層より上層に入ると、来た時と同じようにいくつかのモンスターと遭遇した。

 ナサラが言うには15階層の魔素の乱れは収まっており、時間が経てば以前のように戻るだろうとのことだった。



 地上にたどり着いた俺達はすぐにギルドの応接室に通され、ギルド長のディーガンさんと対面していた。

 タリアータさんとナサラさんが今回の調査の報告をし、くだんの魔晶と呪文の施された石をテーブルの上に置いた。


 ディーガンさんがその二つのアイテムを順に手に取り、目を細める。


「ナサラさん。この二つのアイテムの鑑定をお願いしても?」

「ええ。もちろんです。店に持ち帰り時間をいただければ……」

「分かりました。それでお願い致します。それと……【レガクリテ】の方ですが…」

「はい。やはりまだ連絡が取れません。もしかしたら向こうの魔道具が破損してしまっているかもしれません……」

「そうですか。私どもも心配です。引き続き呼びかけをお願いしても?」

「もちろんです」


 ディーガンさんが視線を俺達の方に向ける。


「【リドフーベス】の皆さん、オルディアさん。ご苦労さまでした。今回の調査依頼は以上で完了です。ありがとうございました」


 ディーガンさんが俺達に頭を下げた。

 俺も頭を下げて、


「こちらこそありがとうございます。力になれたかどうか、分かりませんけど……」

「何を言っているの。貴方達がいなければあの幻獣を撃退出来なかったのよ。感謝しきれないわ」

「そ、そうですか……」


 タリアータさんの横でネルアリアさんがこくこくと何度も頷き、エレシアは目を逸らして不機嫌そうだが、小さく頷く。

 ディーガンさんがその様子を見て、満足気な表情を浮かべる。


「やはり【リドフーベス】の皆さんにお願いして正解だったようですね」

「ええ。本当に…。ありがとうございます。ギルド長」


 タリアータさんがディーガンさんに頭を下げた。

 ひと通りのやり取りが終わり、急にオルディアさんが口を開く。


「ところで道具屋の姉ちゃんに一つ聞きたいんやけど、エエか?」


 不意に指名されたナサラさんが眉を上げた。


「はい?何でしょうか?」

「あの犬の事、オルドクスって言ってたな?ウチは初めて見たんやけど、冒険者でもないアンタが何で知ってたんや?」

「ああ…その事ですか。実は以前に召喚魔法を研究していまして……。その召喚魔獣の一つがあの幻獣オルドクスなんです」

「召喚魔法って、もう廃れてるんちゃうんか?」

「ええ。もう使用者はおりませんが、伝承などを頼りに個人的に調べていたんです」

「ほぉ、なるほどな。それで知ってたんやな」

 

 アティアがその話に入ってくる。


「幻獣っていうのは召喚魔獣の総称ですよね?」

「ええ。そうです。魔界を住処とするモンスターを総称してそう言いますね」


 タリアータさんも興味深そうに話に加わる。


「そうなるとあのオルドクスは誰かが魔界から召喚したモンスターということですか?」

「私もそう思ったんですが、それは考えられないんです」

「どうしてですか?」

「どの迷宮でもそうですが、迷宮には迷宮神の加護……つまり強力な結界が囲んでいるんです。その結界の中で魔界のモンスターを召喚するなんてことは不可能なんです」

「んー。確かに迷宮には魔晶のモンスターしか生息していないものね」

「はい。たとえ迷宮の外から幻獣が侵入しようとしても恐らく迷宮神の加護に弾かれるはずです」


 皆その話に聞き入り、無言で考える。

 その沈黙をオルディアさんが破る。


「まあ、細かい原因調べるのは道具屋の姉ちゃんに任せるわ!ウチはさっぱり分からん!」


 ……いや、アナタが振った話でしょ!


 何故、召喚魔獣のオルドクスがあそこにいたかの答えは結局、ナサラさんの魔晶の鑑定の結果を待つ以外なくその場は解散となった。



 ディーガンさんに明日の朝もギルドに来るようにお願いされ、俺達【リドフーベス】とオルディアさんはギルドを後にした。


 ギルドを出てすぐにオルディアさんが俺達に声をかけてくる。


「ラディー、アティア、パルネ。ちょっとエエか?」

「はい?何ですか?オルディアさん」


 オルディアさんが小声で顔を近付けてくる。


「下層に下りてるもう一つの調査隊な……」

「【レガクリテ】ともう一つのパーティーですか?」

「ああ。もしかするともうアカンかもしれん」

「全滅してるかも……っていうことですか?」

「そや。三人ともその可能性も頭に入れときや。もしかしたらウチらに出番回ってくるかもしれんで」


 そう話すオルディアさんの声は真剣そのものだったが、その表情は何か楽しむような笑みを浮かべていた。


 やっぱりこの人は戦闘狂だ……。

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