46.ドス黒い魔晶

 ネルアリアさんの光魔法の矢が、エレシアの前に展開されていたオルドクスの魔法陣を粉砕した。

 いつの間にかエレシアの後ろまで来ていたネルアリアさんが腰にかけたフレイルを手に取り、


「エレシアちゃん!周りのチビ共は私がやっから!」

「分かった!お願い、ネル」


 ネルアリアさんに背中を押されて、エレシアがオルドクスに向かった。エレシアがオルドクスに向かったのを確認するとネルアリアさんは振り返って、足元の瓦礫から次々と生まれるストーンパペットに向かってフレイルを振り回す。


「おらぁ!ザコは湧いてくんなぁ!邪魔だろぉがっ!」


 ネルアリアさんが汚い言葉を吐きながらスパイクの付いたフレイルの鉄球をストーンパペット達にぶつけて破壊していく。



 ……ネルアリアさんて、戦闘になるとあんな感じになるんだ……。



 オルドクスを前衛三人が囲む形になった。囲まれたオルドクスの体の周りに、さっきよりも小さな魔法陣が次々と浮かび上がる。


 攻撃魔法の魔法陣か。だったら……。



雷撃ヴァルボット!!」


 左手から雷撃魔法を放ち、オルドクスの魔法陣を撃ち落としていく。オルドクスの注意が俺の方に向いた。


「余所見はアカンでっ!」


 一気に距離を詰めたオルディアさんがハルバードを振り下ろした。


「ガァァッ」


 オルディアさんの攻撃に反応したオルドクスが身をよじるようにその一撃を避けようとしたが、後ろ脚近くの横っ腹にハルバードが食い込んだ。

 俺は目の前の魔法陣を全て破壊すると、駆ける速度を上げた。


「でぇぇぇぇ!」


 気合い一閃。袈裟がけに振り下ろした剣に手応えが伝わってくる。


「たぁぁぁ!」


 更に俺とは反対側からエレシアの声が聞こえる。レイピアの連撃がオルディアさんのハルバードが食い込む反対側の腹を捉えた。


 三人の連続攻撃にオルドクスがたまらずその場所から飛び退いた。そして再びオルドクスの周りに無数の魔法陣が浮かぶ。


 まだ魔法を使えるのか……。

 発動は遅いけど、こんなに魔法を使うモンスターは初めてだな。


 雷撃魔法でその魔法陣を潰すが全部は落としきれず、オルドクスの魔法陣から炎の槍が放たれる。しかもさっきよりも数が多い。


 俺とオルディアさんはその炎の槍を掻い潜り、オルドクスの目前まで迫る。


「ぐっ……!」


 エレシアの足に炎の槍が直撃して、苦痛の声をもらした。その声にエレシアの後方でストーンパペット達を鏖殺しているネルアリアが反応する。


「エレシアちゃん!」

「私は大丈夫っ!」


 エレシアは被弾した足を引きずりながら、横へ大きく跳んだ。

 オルディアさんの声が俺の視線を引き戻す。


「ラディー!二人で決めるで!」

「はい!」


 横っ腹と首元にダメージを受けているオルドクスの動きは鈍い。俺とオルディアさんは挟み込むように左右に別れる。


「っせぇーー!」


 オルディアさんが気合いもろともハルバードを水平に薙ぎ払う。オルドクスの防御壁を破砕する金属音を響かせて、ハルバードの刃先がオルドクスの首と前脚の間に食い込んだ。


「ガァァッ!」


 オルドクスが咆哮を上げ、オルディアさんに目を向ける。


 ……今だ!一撃で……仕留める!


 俺は電撃魔法を剣に付与させながら、渾身の力で剣を最上段から振り下ろした。

 

 ―オルドクスの首と頭の間に俺の剣撃の跡が走る。オルドクスの黒曜石のような感情の無い眼が見開かれ、俺の方を見た。


 手応えあった!


 オルドクスの頭と体が俺の剣撃の線に沿って不自然にずれる。そしてそこから黒い霧が吹き出し、ボンッという破裂音と共にオルドクスの体が黒い霧になり、消え失せた。


 オルドクスを構成している魔素がその形を維持出来なくなり、崩壊したのだ。


 オルドクスの体が崩れてから一呼吸おいて、周りで瓦礫の崩れる音がする。

 周りで戦っていたストーンパペット達が同じように崩れた音だった。


 

 倒せたか……。


 

 オルドクスの黒い霧が晴れると、その地面に人の頭ぐらいある大きな魔晶を見つけた。


「何やこれ!?」


 俺より先にその魔晶に近付いたオルディアさんが驚きの声を上げた。


 

 オルドクスの体の崩壊と共にストーンパペット達も残らず崩れていた。

 後方でそのストーンパペット達を相手取っていたパルネとアティア、タリアータさんがナサラさんを連れて、声を上げたオルディアさんの方に近付いてくる。


 俺に続いてエレシアとネルアリアさんもそちらに歩み寄る。



「この魔晶は……!?」


 ナサラさんがオルドクスの魔晶を取り上げる。


「お、おい!そんなん触っても大丈夫なんか?」

「ええ。大丈夫ですよ。魔素は四散していますし、害はありませんよ」


 そう言ってナサラさんが手に持った魔晶は俺が今まで見た魔晶よりも大きく、歪でドス黒い光を放っていた。

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