45.オルドクス

 オルドクスに向かって走り出した俺達の背後から、光の矢とクロスボウの矢が追い越していく。

 一直線にオルドクスに向かった矢が、その射線上に割り込んできたストーンパペット達に当たり、ストーンパペットが砕けた。ストーンパペットは体を張ってオルドクスを守るようだ。

 オルディアさんが走りながら後方に向かって叫ぶ。


「あのデカ犬はウチらでやるから、周りの人形頼むわ!」


 俺達から離れた後方を並走して、光魔法を詠唱しているネルアリアとクロスボウを構えたパルネが頷く。


「ラディー!エルシア!正面はウチが突っ込む!二人は左右から頼むわ!」

「「はいっ!」」



 俺とエレシアが左右に分かれて走り、オルディアさんが正面からオルドクスに向かって行く。オルドクスの目の前の空間に魔法陣が浮かび上がる。


 攻撃魔法か?!


 オルドクスの周りに現れた魔法陣から炎の槍が放たれる。左右に分かれた俺とエレシアにはほとんど飛んでこなかったが、正面からオルドクスに向かうオルディアさんに無数の炎の槍が襲いかかる。


 オルディアさんは走る速度を落とさずにその槍を左右のステップや上に跳んだりして躱し、オルドクスとの距離を詰める。

 体を低く落としたオルドクスが猛烈な勢いで迫るオルディアさんに牙を剥いた。

 宙に跳んだオルディアさんがハルバードを振りかぶり、オルドクスに向かって凄い速度で振り下ろした。


「一番槍、もらったでっ!」


 カキィーンッ!


 金属と硝子がぶつかったような甲高い音が響いた。オルディアさんのハルバードがオルドクスの防御魔法の壁に弾かれた音だった。防御魔法の壁は割れたみたいだけど、オルディアさんが空中で体勢を崩した。


「面倒くさいなっ!……っと!」


 空中に弾かれたオルディアさんに向かってオルドクスの前脚が伸びる!


「どわぁっ!」


 咄嗟にその攻撃をハルバードで受け止めたオルディアさんが後ろに吹っ飛んだ。

 

 オルドクスの左からエレシア、右から俺が迫るが、二人の目の前にそれぞれ魔法陣が浮かび上がる。


 っ!炎の槍が来る!


 俺は思いっ切りその魔法陣に向かって剣を振り抜く。

 再び甲高い金属音が響いたが、構わず剣を振り切る。俺の前の魔法陣が真っ二つに割れて消失した。更にオルドクスの向こう側、エレシアの方からも金属音が聞こえた。


「くっ……このっ!」


 エレシアも俺と同じようにレイピアを振り抜いたが魔法陣は健在で、その魔法陣の中で炎の槍が形成されていく。


「避けろ!魔法が来るっ!」


 俺の叫びと同時にエレシアが両腕を顔の前で交差させて横へ跳んだ。炎の槍が魔法陣から放たれる。


「うっっあぁー!」


 俺の後ろからネルアリアの唸り声のような叫びが聞こえ、ストーンパペットに向かっていた光の矢がエルシアの方に向かって急激にその軌道を変えた。軌道を変えた光の矢が炎の槍に直撃する。

 魔法陣に大きな火花が上がり、その衝撃で跳んでいたエレシアの体が更に浮かぶ。そしてエレシアの体が地面に叩きつけられて転がった。


 地面を転がるエレシアの方に意識が向いた俺だったが、オルディアさんの声が一気に戻す。


「ラディー!エレシアは大丈夫や!行けっ!」


 オルドクスの一撃をまともに受け止めて、かなり飛ばされたオルディアさんがオルドクスを指差して叫んでいた。


 そうだっ!俺だけが魔法陣を切れた!だったら……


 再び足に力を込めて強く地面を蹴った。俺の踏み込みに気付いたオルドクスがこちらに視線を向け、目前に迫った俺の剣を躱す。


 ブゥンッ!


 オルドクスの首元をかすめた剣の風切り音がした。


 くそっ!もう一撃!


 しかし着地した俺めがけて、オルドクスが前脚を振り下ろす。横に跳んで躱した俺は左手を前に突き出した。


電撃ヴァルボット!!」


 無詠唱で繰り出す俺の雷撃魔法がオルドクスに直撃し、咆哮を上げたオルドクスが後退る。


 よしっ!効いてる!


 続けて剣での攻撃を繰り出そうとすると、オルドクスの前に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の中ですぐに炎の槍が形成されていく。


 くっ!こっちも無詠唱かよ!


 攻撃目標を魔法陣に変えて、そちらに向かって駆け出す。

 オルドクスの魔法陣から炎の槍が放たれる直前、俺の左方向から飛んできた無数の土の槍がオルドクスの魔法陣を破壊した。


「ラディー!魔法陣は私が潰すからっ!」


 アティアが自分の体の周りに土の槍を浮かべて俺に向かって叫んだ。


 よし!じゃあ、本体だけに狙いを定める!


 俺は大きくオルドクスの右側から回り込むように駆けていく。俺の背後からオルディアさんの声が聞こえる。


「よっしゃ、ラディー!挟み撃ちにすんで!」


 ハルバードを両手で持ち、嬉々とした表情を浮かべたオルディアさんがオルドクスに向かって突進していた。

 俺も纏わり付くように飛び込んでくるストーンパペット達を切り払いながらオルドクスを挟み込む位置に走った。

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