44.幻獣

 この15階層の階層主ストーンゴーレムを倒してから十数日。俺達【リドフーベス】は再びこの階層に戻ってきた。

 あの時と同じように他のモンスターの気配はしない。


 【リドフーベス】と【ルルーシィア】とオルディアさん、ナサラさんの8人で編成された調査隊は階層主が現れるエリアへと近付きつつあった。


 エリアまであと少しという所でタリアータさんが皆の足を止めた。


「ナサラさん。この先が階層主が現れるエリアになります。やっぱり魔素が乱れているのはこの先ですか?」

「はい。この先ですね」


 タリアータさんとナサラさんが顔を上げた。俺も振り返ると、隊列の最後尾にいるオルディアさんと目が合った。

 オルディアさんが隊列の一番後ろからするっと前衛にやって来る。


「ラディー、分かるか?」

「やっぱりそうですか」


 隣でエレシアが不思議そうに俺とオルディアさんの顔を見る。


 ……さっきから階層主のいるエリアから強力な気配がする。他の誰も気付いていないから俺の気のせいとも思ったけど、オルディアさんに確認されて確信した。


 この奥にいる。


 更に俺達が進むと、他の人達もその気配に気付いたようで、隊列に緊張が走る。

 タリアータさんが素早く指示を出す。


「この奥にいます。私とアティルネアちゃんはナサラさんの護衛をしつつ前衛の補助。ネルとパルネちゃんは前衛より下がり気味で前方以外にも警戒。エレシア!オルディアさん!ラディアス君!近接は3人に任せます!」


 俺とエレシア、オルディアさんは他の5人より少し先行して階層主がいる広間の中の様子を窺う。



 階層主は通常、撃破されても同じ場所で数日で復活する。つまり俺達が倒したストーンゴーレムも、通常であれば既にこの広間で復活し、他の冒険者を迎え討っているはずなのだ。


 だが、広間から感じる気配は以前ストーンゴーレムから感じた物とは違った。


 俺達が前に来た時に崩れたレンガがそのまま床に散乱したままだった。

 その広間の最奥の壁際に大型のモンスターが座っているのが見えた。すぐに俺とオルディアさん、エレシアが武器を構える。


 その大型モンスターは座っていた。

 犬が鎮座するように四足のモンスターが座っているが、その頭の位置は座ってなお俺の頭の位置より高い。立てばかなりの大きさになるだろう。


 俺とエレシア、オルディアさんが横並びになり、その大型モンスターに近付く。


 ……明らかに他のモンスターとは違う毛色と気配。構成している魔素が違うのか……。



 その大型モンスターがこちらに首を向ける。

 体毛は黒に近い濃灰色。狼のような体だが、その四肢は太く大きい。

 そのモンスターの異様さはその顔にあった。

 俺が知っている犬や狼よりも、体に対しての頭部がデカい。耳の近くまで裂けた口から巨大な牙が見える。

 両眼は黒曜石のように黒く、生物的な生気を全く感じさせなかった。


 今までとは違うモンスターの雰囲気に、前衛の俺とオルディアさん、エレシアに緊張が走る。


「幻獣……オルドクス!」


 ナサラさんの叫ぶ声が聞こえた。


 幻獣……?迷宮モンスターと違うの?



「幻獣か何か知らんけどな、どないにしろコイツ倒せなアカンのは変わらんやろ?」

「そうですね」

「ええ」


 オルディアさんの声に俺とエレシアが剣を抜いて応える。すると後方から再びナサラさんの声が聞こえてくる。


「それは恐らく幻獣のオルドクスです!気を付けてください!」


 こちらに目を向けたオルドクスがゆっくりと立ち上がり、その黒曜石のような両眼が妖しく光る。オルドクスの後方の崩れたレンガが小刻みに震える。


 何だ?何か仕掛けてくる?


 小刻みに震える崩れたレンガが宙に浮かび、何かが形作られていく。その光景を俺は見た事があった。


 前にストーンゴーレムと戦った時と同じだ!


 オルドクスの後方で小さなストーンパペットが次々と組み上がっていく。


 俺達がストーンゴーレムを倒した事はギルドに報告をしていた。その時に一緒に倒したこの小さなストーンゴーレム達の事も、もちろんギルドに報告をしていた。その時にストーンゴーレムと区別するために、この小さなストーンゴーレムはストーンパペットという呼び名を付けていた。


 そのストーンパペットが、オルドクスの後ろで以前俺達と対峙した時と同じように、次々と組み上がっていく。


「何なのよ、あれ……」


 エレシアの呟きが聞こえた。

 前にストーンゴーレムとやり合った時は20体ほどの数だったが、今目の前にはその倍はあろうかという数のストーンパペットが生まれつつあった。


「おぉ〜。エエなぁ〜。燃えてきたで〜」


 ハルバードを構えたオルディアさんがその光景を見ながら呟いた。


「2人ともエエか?」

「はい。いつでも」

「ええ。私も」

「よっしゃ!ほんなら派手に行くでっ!」


 オルディアさんがオルドクスに向かって駆け出し、俺とエレシアもその後に続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る