43.自分達の役割
最後のディノマンティスを両断したオルディアさんが大きく息を吐きながら辺りを見回した。
「よっしゃ。これで
俺とエレシアはオルディアさんと合流すると、かなり後方に控えていたタリアータさん達の方に戻って行った。
こちらにも数体のディノマンティスが襲ってきたようだけどパルネとネルアリアさん、そしてタリアータさんの魔法で充分に対応出来たようだった。
「皆さん、怪我はないわね?しかし異常な数だったわね」
「そやな。こんだけの数はなかなか無いで。まあ弱いモンスターやったから良かったけどな」
通常、魔晶で出来ている迷宮のモンスターには群れるという習性はない。同種のモンスターが集団で行動することはあっても、10体以上の集団というのは見た事がない。
せいぜい5体ほどだ。それは迷宮のモンスター達に捕食、生殖、種族保存といった生き物としての概念がないせいだと言われている。
モンスターは冒険者を捕食しない。だけどモンスターは冒険者を襲ってくる。それはこのモンスター達は迷宮神が人間に与えた試練であり、モンスター達がその姿形を維持するために必要な魔力を冒険者から摂取する為だそうだ。
つまり肉は捕食しないけど、魔力は奪うということだ。
今俺達を襲ってきた100以上のディノマンティスの集団は通常の迷宮の状態では考えられない事態なのだ。
全員に怪我がないことを確認し終えたタリアータさんは、手に持った小さな水晶玉のような物を覗いているナサラさんに近付いていく。
「ナサラさん。状況はいかがかしら?」
「この量は少し想定外ですね。ですが、依然として魔素と魔力の乱れは15階層がひときわ酷いですね」
「15階層までにさっきのような大集団のモンスターには遭遇しそうですか?」
「……何とも言えませんが、可能性は低いと思います」
「なるほど……。とはいえ一応警戒はしておいた方が良さそうね」
「ええ。原因を取り去るまでは何が起こっても不思議ではありません。ですので引き続き警戒をお願いします」
俺達はタリアータさんとナサラさんのやり取りを聞き終えると、再び隊列を組んで12階層へ下りる階段に向かって進み出した。
「ねえ、貴方」
階段を下っている途中で俺と並んで先頭を歩くエレシアが不意に話し掛けてきた。
「ん?何?」
「貴方、冒険者になる前にどこでその剣術を学んだの?」
「家が剣術をやっててね。物心ついた時には剣を握ってた」
「そう……なるほどね」
エレシアは何か納得したようで、再び前を向いた。
「何か気になったのか?」
「別に……」
たぶんさっきの戦闘で、俺のことをDランクの割に剣が扱えるとでも思ったんだろう。Dランクは格下と見て、かなり見下していたからな。
俺達は無事に12階層まで下りると、そのまま更に13階層へと下りる階段へ向かった。
◇◇
モンスターに出くわさないまま俺達は15階層まで下りてきた。
……前に来た時と状況が似ているな。
するとタリアータさんから声がかかり、一度ここでミニキャンプを開くことになった。
「さて……ナサラさん。どうかしら?」
「はい。この階層で間違いないですね。場所で言うとこの辺りだと思います」
手に持った水晶玉を見ながら地面に広げた15階層の地図を指差し、ナサラさんが答えた。
その指した位置を見て俺とアティア、パルネが反応する。
「これって階層主のいるエリアの近くじゃ……?」
「そうね」
全員が顔を見合わせた。そしてタリアータさんがナサラさんの方に目を向ける。
「ナサラさん。【レガクリテ】さん達の方はどうかしら?どの辺りまで下りてるのでしょうか?」
「少しお待ちくださいね」
ナサラさんはそう言うと、鞄から別の魔道具を取り出す。2枚の丸い、手の平ほどの板が紐で繋がった魔道具だ。
その丸い板を耳に当て、紐で繋がったもう一方の板を口の前に持ってくる。
「……ネブラ。聞こえますか?ネブラ」
えっ?板に向かって話し出した……。
どうやら離れた相手と会話が出来る魔道具らしい。
俺は隣にいるアティアにネブラと呼ばれた相手が誰なのか小声で尋ねたが、アティアはさあ?と首を横に振る。
ナサラさんの相手の声は俺達には聞こえないが、話の内容から20階層に向かっている調査隊に付いて行っているもう一人の専門家のようだ。
「……そう。分かりました。じゃ、気をつけてね」
ナサラさんが会話を終えて、魔道具を仕舞うと俺達に視線を移す。
「【レガクリテ】は現在、19階層まで到着しているそうです」
「そうですか。ではもうすぐ20階層に到着するということね」
「はい。順調に20階層の魔素の乱れの激しい場所に近付けているみたいです」
「そうですか。良かったです」
突然オルディアさんが声を上げる。
「よし!じゃあ、どっちが先に片付けるか競争やな!」
「いや、オルディアさん。競争とかじゃないですから」
「何や、ラディー。ノリ悪いなぁ」
「ノリって……」
困惑する俺とタリアータさんの目が合い、お互いに苦笑いを浮かべて、はしゃぐオルディアさんに目を向ける。
本当にこの人は好戦的な人だ……。
そのへんが姉上に似てる気がするんだよな。
隣に座るアティアが俺の顔を覗き込む。
「リンシアちゃんの事思い出した?」
「まあ。やっぱアティアもオルディアさんて、姉上に似てると思った?」
「そうだね。見た目は全然違うけど、豪快なトコとかちょっと似てるよね」
アティアと小声でそんな事を話していると、タリアータさんが皆に声をかける。
「目的の場所まではあと少しです。気を引き締めて行きましょうか」
俺達は一斉に立ち上がり、この階層の奥へと歩き出した。
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