42.数の暴力
回廊の奥まで続くディノマンティスの赤黒い双眼の光の数にエレシアが一瞬たじろいだ。
「何よ、この数……」
戦闘か?撤退か、指示を仰ぐために俺は剣に手をかけたままチラッと後方のタリアータさんに目をやる。
「ウチも前衛に入るで!道具屋の姉ちゃんは任せたっ!」
「っ!?……分かりました!エレシア!ラディアス君!オルディアさんも前衛に入ります!ネルとパルネちゃんは前衛3人のフォロー!アティルネアちゃんは私と後方警戒しながらナサラさんの護衛!」
タリアータさんのよく通る声が後方から響いた。数で押してくるディノマンティスに対して前衛を厚くさせる的確な配置だ。さすがBランク冒険者のリーダー。決断が早い。
指示を受けたパルネやアティア達の返事の声が聞こえ、同時に嬉々とした表情を浮かべたオルディアさんが俺とエレシアの隣に飛び出てきた。
「準備運動には丁度ええな?ラディー」
「そうですね。ここまで何もしてませんしね」
エレシアが眉をひそめて俺とオルディアさんの方に顔を向けた。
「この数相手に準備運動って……何言って……」
「討ちもらしたヤツは頼むで!エレシア!ほな行くでっ!ラディー」
「了解!」
「えっ!?ちょっと!」
言うが早いか、オルディアさんが
「でぇぇぇぇーーいっ!」
雄叫びが響き、凄まじい速度でオルディアさんが自分の身長よりも長いハルバードを振り回す。
ひと振りで3、4体のディノマンティスを両断しながら、奥の方に突進していく。
俺もオルディアさんが切り開いた後に続き、左右から襲いかかるディノマンティスを一撃で両断していく。
「ラディー!コイツら首チョンパしても体動くヤツおるからな、気ぃつけや!」
オルディアさんが前方でハルバードを振り回しながら俺に叫んできた。さほど素早いモンスターじゃないけど、俺とオルディアさんはあっという間におぞましいほどの数で押し寄せるディノマンティスの集団に取り囲まれてしまった。
だがディノマンティスは予想通り前脚の鎌ぐらいしか攻撃手段を持たず、射程も短い。威力はまともに喰らえば腕ぐらい簡単に切り落とすんだろうけど、俺やオルディアさんにはかすりもしない。
いかに数が多くて取り囲まれていても、俺とオルディアさんはディノマンティスの攻撃を見切り、的確に一撃で撃退していく。
両断されたディノマンティスが黒霧を上げて魔晶に変わり、俺とオルディアさんが通った後には多くの魔晶が回廊に散らばっていった。
「オラオラオラぁーー!弱い弱い!弱いなぁー?」
狂人の如くハルバードを振り回すオルディアさんの攻撃速度が更に上がった。
そしてディノマンティスが次々と鏖殺されていく……。
こわっ!もう完全に悦に入ってる!
目が怖いっ!
狂気的な笑みを浮かべてオルディアさんはハルバードを振り回す。
その間にもディノマンティスは後方からもまだ押し寄せているようで、赤黒い双眼の光はまだまだ回廊の奥まで続いている。
俺達の後方でタリアータさんの叫びが聞こえた。
「2人とも!魔法撃つわよ!」
オルディアさんが一瞬後方に視線を向ける。
「ちっ」
……舌打ちしたっ!オルディアさんが舌打ちしたぞ!?
短い詠唱からタリアータさんが魔法を放った。俺の身長よりも大きな火球が俺とオルディアさんの頭の上を超えて、回廊奥のディノマンティスの塊めがけて飛んでいく。
着弾した場所で火球が弾け、いくつものディノマンティスの体のパーツが宙へ舞い上がった。
前方からの熱風が俺の顔を通り過ぎた。
俺とオルディアさんを取り囲むディノマンティスはそんな事はお構いなしで次々と襲いかかってくる。
俺とオルディアさんが先陣を切ってディノマンティスを撃退しながら進み、取りこぼしたヤツはエレシアとパルネが仕留めていく。
更にネルアリアさんもフレイルで近接戦闘に参加してエレシア達と共にフォローに入る。
俺達は着実にディノマンティスの数を減らしながらジリジリと回廊を奥に進んで行った。
そしてディノマンティスの数がもう数えるほどになり、俺もオルディアさんも少し肩で息はしているが、武器を振るう速度も力も全く落ちていない。
ふと後ろを見ると、パルネとネルアリアから前に先行した位置にいるエレシアが肩で息をして膝に両手をついていた。
これだけの数を相手にしたんだ、そりゃバテるよな。俺もかなり疲れたし。
その時、視界の端……壁際で何かが動いた。
視線を地面に落としているエレシアに壁際に潜んでいた1体のディノマンティスが迫る。
「エレシア!」
ネルアリアさんが叫び、エレシアが顔を上げたが、ディノマンティスはすぐ目の前まで迫ってきていた。
パルネの矢もネルアリアさんのフレイルも間に合わない。
疲労で上手く動けないのか、エレシアは手に持つレイピアを振り上げることも出来ない。
ディノマンティスの鎌のような前脚がエレシアに向かって振り下ろされる。
ガキィィンッ!
振り上げた俺の剣がエレシアを襲おうとしたディノマンティスの前脚の鎌を弾き返した。そして、
「
雷撃魔法をディノマンティスに向かって放ち、ディノマンティスは一瞬にして魔晶に姿を変えた。
ふぅ……。間に合った。
壁際に動く物が見えた瞬間に自然と体が動いていた。
俺のすぐそばで片膝をつき、呆然と俺の顔を見ているエレシアに手を伸ばす。
「あと少しだ。動けるか?」
「う、動けるわよ!」
伸ばした俺の手は掴まず、エレシアは一人で立ち上がりオルディアさんがディノマンティスを蹂躙している前方へ目を向ける。
「やっぱ凄いよな。Aランク冒険者って。あんなに動き回ってるのにまだまだ元気だもんな」
エレシアは俺の声に反応もせず、俺の方に見向きもしない。
マズい……。何か怒らせたか?
エレシアがそのままオルディアさんが戦闘している方に歩き出す。
「大丈夫か?」
「平気よっ!…………その……」
「ん?」
「…………ありがと」
「うん?あ、ああ」
エレシアはそう言うと、歩く速度を上げた。
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