40.ルルーシィア

 うーん、と眉をひそめて考えるアティアと目が合った。そしてアティアが渋々といった感じで小さく頷く。隣でパルネも同じように頷いた。

 俺に決断を任せる、と理解した俺が話そうとした瞬間、ディーガンさんが先に口を開く。


「ところで……オルディアさんも協力していただけるのですか?」

「もちろんや。アカンか?」

「いえ、私は別に構わないのですが……ラディアス君達はいいんですか?」

「ええ、まあ、大丈夫……です」

「なんや?ちょっとイヤそうやな」

「いや、そんな事無いですよ」


 ……面倒くさいな、この人。

 まあ、普段からパルネも俺達も世話になってるし、強いのは間違いないから心強いけど、すごいノリノリなのが逆に心配なんだよな……。


 そしてディーガンさんが今回の迷宮調査の段取りを説明してくれた。

 俺達は【ルルーシィア】の3人と15階層の調査。そして【レガクリテ】は別のBランクパーティーと20階層の調査に向かうとのことだった。そしてそれぞれに魔道具の専門家が帯同する。


「ほんならウチらはその専門家とやらを15階層の魔素が乱れてる所まで連れて行ったらエエんやな?」

「そうです。お願い出来ますか?もちろん報酬は用意しますので」

「分かりま……」

「よっしゃ分かった。任せとき!」



 いや、だから何故あなたが答えるっ!?

 ま、受けるつもりだからいいけど!


 不意に部屋の扉がノックされ、女性職員の声が聞こえる。


「ギルド長。【ルルーシィア】の皆さんが来られました」

「うむ」


 ディーガンさんの応答を受けて、部屋の扉が開かれた。

 ひと際大きなウィザードハット、胸元が大きく開いた黒を基調としたローブを纏ったタリアータさんが部屋の中へと歩み入る。

 その後ろに長い金色の髪をなびかせた美少女が続く。その少女は腰に細身の剣を携え、深碧の軽鎧ライトアーマーに身を包んでいた。一言で表現するなら令嬢の剣士。先頭を歩くタリアータさんの妖艶な歩き方と対照的に、しなやかでしっかりとした足取りで後に続く。


 その後ろにもう1人の少女が続く。こちらは僧侶プリーステスのようだ。堂々と歩く前の2人と違い、少しオドオドした様子で錫杖を両手で大事そうに抱えながら付いてくる。白を基調とした神官装束は動きやすいように少し手足の露出を増やしていて、長い髪は一つに束ねられている。

 腰にフレイルを下げているので、前衛で戦いやすいようにしているんだろう。


 

 全く個性の違う【ルルーシィア】の3人が俺達の左側のソファに腰掛けた。

 3人が腰掛けたのを確認してディーガンさんが口を開く。


「【ルルーシィア】の皆さん、朝から申し訳ない」

「いいえ。構いませんよ、ギルド長。こちらこそお待たせして申し訳ありません。【リドフーベス】の皆さんもごめんなさいね」


 タリアータさんがゆるりとウィザードハットを取り、ディーガンさんと俺達に頭を下げた。


「いえ。今【リドフーベス】の皆さんとオルディアさんに調査内容の説明を終えたところです」

「あら?オルディアさんも協力してくださるのですね!」

「そうや。よろしく頼むわな」

「こちらこそ。貴女に協力していただけるなんてすごく心強いわ」


 オルディアさんが満足気なドヤ顔を見せる。

 にこやかに微笑むタリアータさんの横で令嬢の剣士が俺に鋭い視線を向けていた。敵意……というより見下したようなそんな眼だ。


 なんかいきなり嫌われている気がする……。


 その令嬢が俺から視線を外し、ディーガンさんに目を向ける。


「ギルド長!〈セティボスの赤月〉さんはともかく何故、私達と組むパーティーがDランクなんですか?」


 あ、やっぱりそう思うよね。

 あ、俺の隣のアティアの表情が固まった。


 ディーガンさんが困ったようにこめかみを掻きながら、タリアータさんに目を向ける。小さく溜息をついたタリアータさんがその令嬢の方に体を向ける。


「エレシア。言ったでしょ?この【リドフーベス】の3人の実力はDランクよりもかなり上だって……」

「でも冒険者になってひと月ほどですよね?そんな人達が私達と対等に戦えるとは到底思えませんわ!」


 固まっていたアティアの表情が険しくなり、細められたジト目がエレシアという令嬢に向けられる。

 険悪な空気に僧侶プリーステスの女の子は更にオドオドして、視線を左右に激しく動かしている。


「ゴホンッ!」


 その空気を一喝するようにディーガンさんが大きく咳払いをし、一同の視線がディーガンさんに集まる。


「エレシアさんの懸念も理解致します。ですがギルドのおさとして、今回の迷宮調査には【リドフーベス】が適任であると判断し、依頼を出させていただきました。それがご不満である……と?」


 凄みを効かせたディーガンさんの言葉にエレシアもタリアータさんも思わず息を飲んだ。

 アティアも毒を抜かれたような表情でディーガンさんを見ている。


 我に返ったエレシアがディーガンさんに向かって勢いよく頭を下げる。


「も、申し訳ございません!ギルド長!不満だなんて……」

「私からも謝罪致します、ギルド長。【リドフーベス】の皆さんも気を悪くしないでくださいな」


 タリアータさんも、ディーガンさんと俺達に向かって頭を下げた。エレシアも気落ちしたように視線を落とし、俺達に向かって小さく頭を下げた。


「いえ、大丈夫です。俺達は気にしてませんから……」


 俺がこの場を取り繕うように2人に答えた。

 そしてディーガンさんが全員に向かって話し出す。


「皆さんには依頼という形でこちらに集まっていただいています。これから2パーティーに行なってもらう迷宮調査の説明を致します。質問などがあれば後ほど承りますので」



 ディーガンさんがテーブルに大きな紙を広げ、俺達7人の冒険者の顔を順に見回した。

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