38.ギルドからの依頼

 ナツメさん達との騒動があった二日後、迷宮閉鎖が一部解除され、10階層までの探索は可能となった。


 迷宮探索の収入で生活している冒険者にとって迷宮閉鎖されている間は仕事を奪われたのと同じだ。

 こういう時に備えて普段から蓄えをしているなんていう堅実な冒険者など皆無で、閉鎖が長引けば冒険者達の暴動や犯罪行為などに発展しかねない。

 だから少しでも早く解除した方が良いというギルドの判断だ。


 それに七割ほどの冒険者が探索制限のあるEランク以下というのを考えれば、ほとんどの冒険者が仕事を取り戻したことになる。

 調査隊の調査はまだ11階層より下層で続けられているとのことだった。


 俺達【リドフーベス】の3人はいつも通り、朝のギルドに集合していた。迷宮閉鎖解除の報を聞いて、昨日までと違い、数多くの冒険者達がギルドの受付カウンターに並んでいた。


 その列を見ながらアティアが俺に問い掛けてくる。


「ラディー。閉鎖は解除されたみたいだけど、どうするの?」

「ああ。10階層までだけど、地上にいるより入った方がいいと思うんだけど、2人はどう?」

「うん。そう言うと思った」

「アタシもその方がいいな」

「よし。じゃあ今日は少し迷宮に入るか」


 俺達はすぐに準備を整えて、迷宮探索の手続きをしに行った。


  

 ストーンゴーレムを倒してからまだ三日ほどしか経っていないが、それまでかなり詰めて迷宮に潜っていたから、かなり久し振りの感じがするな。

 出現するモンスターに特に変わった所もなく、以前潜った時と同じようなモンスターが出現してきた。ただその遭遇数は以前よりも多く感じる。


 俺達は6階層まで潜った所で地上に引き返し始めた。

 軽い肩慣らしのつもりだったので早めに切り上げることにした。


「モンスター、前より数が多かったね。ラディー」

「そうだな。まだ迷宮異常イレギュラーが続いてるんだろうな」

「うーん。そうなんだろうね。やっぱりまだ迷宮の中の魔力と魔素が乱れているんだろうね」



 魔力と魔素。

 アティアと図書館に行った時に教えてもらった迷宮を構成している要素だ。

 それらが乱れると迷宮内でモンスターが集中発生したり、下層の強力なモンスターが突然上層に出現したりすることがあるそうだ。


 以前俺達が潜った時に11階層から15階層まで全くモンスターに出くわさないことがあったが、それはどこかでモンスターが集中発生しているシワ寄せのようなものじゃないかとアティアは俺に話していた。


 

 ◇◇


 迷宮閉鎖が一部解除されてから一週間が経った。

 未だに10階層までしか迷宮は開放されていない。その間俺達【リドフーベス】は二回ほど迷宮に入り、肩慣らしをしつつ、調査が終わり閉鎖が完全解除されるのを待っていた。



 いつものように朝、ギルドに集合して俺達が探索前のミーティングをしていると、ギルドの女性職員が俺達に近付いて来て、小さく会釈する。


「あの、【リドフーベス】の皆さん。お時間よろしいでしょうか?」

「はい。何か?」

「ギルド長ディーガンが皆さんにお話ししたいと申しておりまして……」


 俺達は顔を見合わせたが、


「分かりました」

「ありがとうございます。では案内させて……」

「ちょい待ち。お姉さん」


 俺達の後ろから不意に声がした。振り返ると、オディリアさんがいつの間にか俺達の背後にいた。


「オディリアさん。いつの間に?」

「お姉さん。ウチも付いて行ってええか?」


 俺の問い掛けを無視してオディリアさんが女性職員に尋ねると、職員は困惑の表情を浮かべて、


「えっと、ディーガンが呼んだのは【リドフーベス】の皆さんだけですので……」

「分かった。ほな直接ギルド長に聞くから部屋の前まで案内してや」

「えっ……?えぇ〜……」


 戸惑う女性職員が助けを求めるように俺の顔を見てくる。


「いいんじゃないですか?とりあえずディーガンさんに聞いてみても?」

「おう!そや!とりあえず聞いてみよや。ほな行こか」

「え?えぇ〜……」


 困惑する職員さんの肩を押してオディリアさんが俺達に振り返った。


「ほら、行くで。3人とも!」


 んー、呼ばれたのは俺達なんだけど、すっかりオディリアさんのペースの乗せられて職員さんが案内する部屋へと向かった。


 ギルドの二階にある一室の前に着き、女性職員がノックした部屋の扉を開け、中にいる人物に何か話している。

 女性職員が話を終え、俺達の方に振り返る。


「では【リドフーベス】の皆さんとオディリアさんも、中へどうぞ。ギルド長がお待ちです」

「さすがギルド長。器が大きくて助かるわ」


 先頭に立ったオディリアさんが扉を開け、中へと入っていく。俺達もその後に続いた。


「おはよう【リドフーベス】の皆さんと……オディリアさん」

「おはようございます」

「おはよーさん。ギルド長」

「まあ、皆さんどうぞ掛けてください」


 迷宮の調査前に報告した部屋と同じ部屋で、前と同じようにギルド長のディーガンさんが正面のソファに腰掛けていた。今日はテーブルの両側には誰もおらずディーガンさんだけだった。

 俺達4人はディーガンさんの向かい側のソファに腰掛けた。

 俺達4人に視線を向けて、少し前に身を乗り出したディーガンさんが話し出す。


「【リドフーベス】の皆さん。これはギルドからの依頼です。今日の迷宮調査……その調査に協力してもらえませんか?」


 迷宮異常イレギュラーの調査?


 俺の隣に座るオディリアさんが小さく頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る