33.弟の居場所
アティアの精霊魔法でナツメさんの弟さんの場所を探る為、俺達は精霊院の中の一室に移動した。
レストランや街中では使えないので、使っても目立たないというのが理由だ。
精霊院というのは精霊を祀っている建物で、新たな精霊魔法を覚えたり強化したりする場所だ。精霊との交流を行いやすくするために精霊院のある建物はその魔力の地場を整えているそうだ。
アティアが今回、精霊院に訪れていたのも新たな精霊魔法を習得する為だった。
ちなみに通常魔法であれば同じように魔法院という物があり、俺が使用している元素由来の通常魔法などは魔法院で習得したり、強化することが出来る。もちろんその為には一定の魔力量を越えている必要があるけど。
俺達が今いる部屋は本来新たな精霊との契約や交流などを行う部屋で、中での精霊魔法の使用が許可されている。
アティアはナツメさんから髪の毛を受け取ると、紙に包んで足元に描いた魔法陣に向かって掲げる。
そのままアティアが俺とナツメさんに視線を向ける。
「街中に範囲を広げて捜すとかなり負担が大きくなるから、どの地域にいるかだけでもいいですか?」
「か、構わないでござる。この街にいると分かるだけでも……」
「はい。分かりました。じゃ、やってみますね」
「無理するなよ。アティア」
俺に向かって頷いたアティアがまた足元の魔法陣に視線を落とす。
詠唱を始めたアティアの声に魔法陣が反応する。
魔法陣の光がアティアの手に集まってくる。
前は情報量が多くてアティアは鼻血出してたよな……。
そう思って俺は懐の手拭いに手を伸ばした。
しかし今回は光を吸い上げてもアティアは立ったまま目を瞑っている。
そして静かに目を開けると、俺とナツメさんに目を向けた。
「いた。この街の南東部。かなり端の方にいる」
「南東部でござるかっ!」
反応したナツメさんが驚きの声を上げて俺とアティアを交互に見る。
「うん。私はあんまりこの街の事は詳しくないんだけど……。分かる?ラディー」
街中での走り込みが役立ったな。俺も中にまでは足を踏み入れていないけど、街の南東部がどの辺りかは分かる。
「うん。街の歓楽街だ。この街で唯一治安があまり良くない場所だな」
「なっ……、そんな所にキスケが……?」
「大まかな場所だけど、その地域に居るのは間違いないですね」
ナツメさんはアティアから髪の毛を返してもらうと懐に仕舞い、俺達に頭を下げる。
「ラディアス殿。アティルネア殿。本当に感謝するでござる!この恩は必ずお返し致しますので」
「いや。まだ弟さんは見つかってないですし……。でもどうするんですか?すぐに捜しに行くんですか?」
「もちろんでござる!弟を見つけて早く故郷に送り届けねば……」
「まあ、ちょっと待ってください」
はやるナツメさんを制して、俺はアティアに視線を向ける。
「アティア。迷宮も封鎖されてるし、俺も一緒にナツメさんの弟さんを捜しに行ってくるから」
「なっ!?ラディアス殿?て、手伝ってくれるでござるのか!?」
「ええ。乗りかかった船ですし、俺も弟さんのことは心配ですし」
ナツメさんがまたどこかで行き倒れるんじゃないかという不安もあるんだけど、それは黙っておこう。
アティアは実に困った顔をして考え込む。
「別に俺は迷宮が封鎖している間、する事があるわけじゃないし。アティアは自分の時間に使ってくれててもいいから。あと、毎朝の集合はちゃんと出るからさ」
アティアが俺にジト目を向ける。
「ラディー。昨日、ギルドで思い出した鍛錬って嘘でしょ?ホントは最初からナツメさんの弟さんを捜しに行こうとしてたでしょ?」
「えっ!?いや、そんな……ことはないぞ?」
アティアが小さく溜息をついた。
「最初っから言ってくれればいいのに……。私も手伝うよ。近くまで行ってさっきの探索魔法を使えばより正確な場所も分かるしね。その方が早く見つけられるよ」
「えっ?いいのか?でも魔力かなり使っただろ?」
「今回はだいぶ抑えたからもう一回なら使えるよ。それに精霊院とか図書館はまた時間が出来た時に行けばいいし」
「いいのでござるか?アティルネア殿」
「はい。弟さんもナツメさんの事捜しているかもしれませんから、早く見つけてあげましょう。一人でも多い方が早く見つかりますよ」
「二人とも本当に恩に着るでござる!」
ナツメさんが俺とアティアの手を掴み、ぶんぶんと腕を振った。
ナツメさんは俺達の手を離し振り返ると、部屋の入口に向かって歩き出す。
俺とアティアはその後ろについて歩き出した。
「アティア。本当にいいのか?別に俺に付き合わなくても……」
「いいの!私の探索魔法を使った方が絶対に早く見つかるんだし、それに……」
小さく呟くアティア。
「それに?」
「何でもない!さ、ナツメさんに置いて行かれちゃうよ。急ぎましょ」
「お、おう」
聞こえないフリをしたがアティアは間違いなく、ナツメさんと二人きりになんかさせられないよと、そう呟いていた。
俺ってそんなに信用ないのか……?
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