31.窃盗団

 翌朝、俺はアティアとパルネとの約束通りにギルドに行った。まだ二人は来ていないようなので、ギルド横のレストランの席に座って二人が来るのを待つことにした。


 俺の座っている席からギルドのカウンターが見えるが、迷宮が封鎖しているせいで冒険者の姿は全くいない。

 レストランの方にはお客さんがいるけど、冒険者ではなくて普通のお客さんしかいないみたいだ。ただ武装をしていない冒険者かもしれないけど。


 ナツメさんが居ないかなとレストランを見回したけど、姿は見えなかった。


 

 んー、朝は迷宮に入るって言ってたから封鎖されてる間は来ないか。朝から弟さんを捜しているかもな。



「ラディー、待った?」


 不意に後ろからアティアに声をかけられた。隣にはパルネもいる。


「いや。そんなに待ってないよ」

「そう」


 アティアとパルネが俺の隣に座り、アティアがギルドのカウンターの方に振り返る。


「やっぱり封鎖されてるから全然冒険者いないんだね」

「そうだな。この感じだとしばらく封鎖は続きそうだな」

「うーん。せっかく15階層の階層主、倒せたのにね」

「まあ、しょうがないよ。パルネ。調査が終わるまで我慢だね」


 俺達は三人揃って小さく溜息をつくと、ギルドの入口から知っている人物が入ってきて、俺達の姿に気付いて近付いてくる。


 濃紺のプレートアーマーに爽やかな笑顔。そして肩に担いだ蒼い大槍。

 調査隊に選ばれた冒険者パーティー【レガクリテ】のリーダー、ミッグスさんだ。

 ミッグスさんは俺達が座るテーブルの側まで来ると、


「やあ、【リドフーベス】の皆さん。昨日はお疲れさんだったね。今日は朝から集まってどうしたんだい?」

「いつ迷宮の封鎖が解けるか分からないんで、とりあえず毎朝集まろうって決めてるんです」

「おー、なるほど。確かに封鎖期間は決められてないね。確かに、確かに……」


 ミッグスさんが納得したように何度も頷く。


「今から調査ですか?」

「ああ。もうすぐ【ルルーシィア】の奴らも来るはずだ。今日は10階層から上の階層だけの調査の予定だから、ウチと【ルルーシィア】だけだな」

「他のパーティーは来ないんですね」

「ああ。今日の調査で何もなければ人数を増やして11階層より下を調査する予定だ」



 アティアが神妙な顔つきでミッグスさんに尋ねる。


「封鎖……、長引きそうですか?」


 ミッグスさんがニコリと白い歯を見せる。


「いや、そう長引く事は無いと思うよ。理由は言えないけどね」


 含みのある笑顔を見せながら、ミッグスさんはパーティーの仲間が待つカウンターの方へと戻って行った。


 何か俺達の知らない情報を聞かされてるみたいだな。まあ、封鎖の期間が短いに越したことはないからいいんだけど。



 むっというアティアの小さな唸り声が聞こえて、ギルドの入口の方に目を向けると、扉から入って来たのは大きなウィザードハットにしなやかな足取りの黒いローブの女魔術師。

 二人の仲間を引き連れた妖艶な雰囲気の魔術師タリアータさんも俺達の姿に気が付くと、ひらひらと手を振ってミッグスさん達と合流して迷宮の入口がある建物の奥へと消えて行った。


 俺達はそのBランクパーティーで構成された調査隊の姿を見送ると、改めて向かい合う。


「さて、じゃあ俺達も行きますか」

「そうだね。パルネはどうやってオディリアさんと会うの?」

「うん。あの人が使ってる宿屋は知っているから訪ねてみるよ」

「そう。じゃ、オディリアさんに会えたらよろしく言っといてね」

「うん。アティアも気を付けてね」


 二人はそれぞれの目的地に向かってギルドを後にした。俺はしばらくレストランに残ってナツメさんが現れないか待ってみることにした。


 小一時間ほどレストランにいたけど、結局ナツメさんは現れなかったので、俺は憲兵詰所に向かうことにする。



 憲兵詰所に着くと、昨日男達を取り押さえた時に来た憲兵がいて、俺の姿に気付いた。


「おー。ラディアス君。昨日はすまなかったね」

「いえ。大丈夫です。ノートンさん」



 昨日あの男達を引き渡す時に、このノートンという憲兵は俺もひったくり犯といた男達の仲間と勘違いして捕まえようとしてきた。けど鞄を盗られた女性の証言と、俺の冒険者タグを見せたことで疑いは晴れて、改めて今日詳しい話をするということでここにやって来たのだ。



「あいつら、やっぱり最近この街で活動しだした窃盗団の実行役だったわ」

「窃盗団ですか」



 この数ヶ月、この迷宮都市ペグルナットでは窃盗事件が増えてきていたらしい。最近になってその窃盗事件を起こしている組織がいるということが分かってきたとのことだ。

 これまで何人か捕まえることが出来ているが、全て若い男。実行役で使い捨ての駒。未だにその組織の指示役は一人も捕まっていないらしい。


「田舎から出て来たばかりの若い男を金で釣って実行役にしてるみたいだな。だから捕まえた実行役のガキどもは何にも知らない、ホントに文字通り捨て駒だな」

「でも昨日の建物は拠点じゃなかったんですか?拠点なら何か出てきそうですけど…?」

「いや、アレは拠点ではないよ。盗んだ物を指示役の者に渡す、ただの集合場所だったようだ」



 その窃盗団のやり方は数人の男達に同時に盗みに行かせる。そしてそれぞれ実行犯が手に入れた物を直前に知らされた場所に持っていくというものらしい。


 何ヶ所もの場所で同時に窃盗や引ったくりが起こるから憲兵達の対応が遅れる。運悪く捕まった奴はそのまま切り捨てられる。

 実に効率のいいやり方だ。


 

 俺はその後もノートンさんに昨日の詳細を話した後、憲兵詰所を後にして街へ出て行った。



 とりあえず昨日、俺があの黒づくめの実行役の男を取り逃がしたあの辺りを捜してみるか。

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