29.休みの間の予定
ギルド長ディーガンさん達への報告を終えて、俺達はギルドのレストランへと戻って来た。
迷宮は調査の為にしばらく封鎖される。調査隊は明日以降に迷宮に入るとのことだった。
Bランク冒険者で構成される【レガクリテ】と【ルルーシィア】がその調査に当たるとのことだが、この2パーティーはともに三人構成なので、総勢6人だけとなる。
調査するには少し人数が少ないんじゃないかと考えた俺の思いを読んだようにディーガンさんが説明を補足する。
「今回調査していただくこの2人のパーティーはペグルナットでは一、二を争う実力のパーティーです。私はこの二つのパーティーで問題を解消してくれると確信しています」
「そうですか……分かりました」
声を落とす俺にディーガンさんが更にフォローを入れる。
「ラディアス君。異常が解消すればすぐに封鎖は解除するつもりです。なのでいつ封鎖が解除されてもいいようにこの街に留まっていてください」
「そうですね。分かりました……」
ミッグスさんが体を傾けて俺の顔を覗き込む。
「出来るだけ早く終わらせるよ。ラディアス君。それまでしばらく辛抱してくれ」
「はい。お願いします」
俺がミッグスさんに頭を下げると、反対側にいるタリアータさんが少し身を屈めて俺の顔を覗き込む。大きな胸の主張が強くなり、思わず視線を外してしまった。
「…うふふ。若くて元気で逞しいわね。この調査が終わったら一度お姉さんとお食事でもどうかしら?」
タリアータさんからのお誘いにアティアがすぐさま俺とタリアータさんの間に割り込むように腕を伸ばした。
「大丈夫です!間に合っていますから!」
「…うふっ。あらあら。もし良かったらお嬢ちゃんお二人もご一緒でもいいわよ?」
「い、いえ。本当に大丈夫ですから。ありがとうございます。調査の方、よろしくお願いしますっ」
アティアは俺とパルネの腕を引いて立ち上がると、ディーガンさん達に深く頭を下げてその部屋を後にした。
◇
レストランのテーブルに肘をついて考え事をしている俺にアティアが話し掛けてくる。
「封鎖されちゃったら仕方ないよね。ディーガンさんの言うように少し休もうよ、ね」
「うーん。そうだな」
困った表情のアティアが俺の顔を覗き込む。
「休みって言われたら、すること無いって感じ?」
「んー。そんな事はないけど。アティアは何かあるのか?」
「私はまだこの街の精霊院とか図書館に行ってないから行ってみようかなって思ってる」
「そうかぁ」
何となくで答えたせいか、視界の端でアティアが頬を膨らませたのが見えた。俺はちらりとパルネに目を向ける。
「パルネはどうする?」
「アタシはオディリアさんに特訓してもらおうかなって思ってる。もっと動きながらクロスボウを射てるようにしなきゃって思って」
「あー、なるほどね」
確かにかなり精度は良くなっていたけど、まだクロスボウで狙いを定める時に足が止まりがちだったもんな。その欠点を克服する為にオディリアさんに教えてもらうのか。
二人から休みの間にしようとしている事を聞かされて、俺は何をしようか考えてみる。
……
……
……やっぱ鍛錬だな。
まあ一人でも出来る事はあるから……。
一人…………。
俺の頭の中に二日前に夜の路地裏で出会ったナツメさんの顔が浮かんだ。
そうだっ!あの人、弟さんを捜してたな!
時間も出来たし、一緒に捜してみるか!
その考えが浮かんだ瞬間、表情に出てしまったらしく、アティアがすかさず聞いてくる。
「何?何か思いついた?」
「あ、ああ。とりあえずしてみたい特訓が思いついた」
「なーんだ」
……ウソだけどね。
さっきのタリアータさんの誘いもそうだけど、女の人が絡むと面倒だからアティアには黙っておくことにしよう。
迷宮の封鎖がいつ解除されるか分からないので、俺達は朝は必ずギルドに集合すると決めて、この日は帰ることにした。
◇
宿に着いて荷物を置くと、俺はいつもの走り込みをする為、宿屋を出た。
すっかり夜も更けていたが、大通りはまだ開いているお店も多く、人もまだまだ出歩いているようだった。
大通りを駆け抜けて街の外周沿いを走る。
小一時間ほど走ったところで少しペースを落として、外周から路地裏へと抜けて行く。
少し路地裏を走った所で短く女性の悲鳴が聞こえた。俺はその声のした方に全力で走る。
十字路に差し掛かった所で黒づくめの男が俺の前を横切った。その男が走ってきた方から年配の女の人の声が聞こえた。
「ひったくりよー!その男が私の鞄を盗ったの!」
十字路からそちらを覗くと、よろけた足取りの女性が叫んでいた。俺がその女性に駆け寄ろうとすると、
「私は大丈夫!その男をっ……」
「そこで待っててくださいっ!捕まえてきます!」
俺は踵を返すと、黒づくめの男が走った方へと駆け出した。
さっき見た感じだとそれほど速くない。
すぐに追い付ける。
そう考えた俺は全力で追いかける。するとすぐにその男の後ろ姿を捉えた。
既に男は追って来る者がいないと判断しているのか、ただ疲れただけなのか分からないが、走る速度を落としている。
俺は壁際に身を寄せて姿を隠しながら足音もさせずに男との距離を縮めていく。
黒づくめの男は立ち止まり、とある建物の裏口の扉に近付く。周りを見回すが、俺は咄嗟に身を隠した。
扉の鍵が開けられ、黒づくめの男が中の人間に招き入れられたのを確認した。
俺はすぐに猫のように素早い動きでその扉の前までやってきた。
バーか、何かの店の裏口か?
中からガチャガチャと鍵を締めるような音が聞こえたので、俺は咄嗟にその扉を蹴り開けた。
バァン!
蹴り開けた勢いで鍵を閉めようとしていた男が床にふっ飛んでいた。さっきの黒づくめとは違う男だった。
「何だ!テメエ!」「誰だっ!?」
中にいる男達の怒号が俺に向けられた。
床に転がった男が頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
扉の向こうにはテーブルがあり、その周りに5人の男。床に転がっていた男と黒づくめの男。
合計7人の男の視線が俺に集まる。
テーブルに座っていた赤い服の男が立ち上がり、俺に鋭い視線を向ける。
「おい!お前!家を間違えたんなら、すぐに出ていきな。今なら見逃してやる」
他の6人……いや黒づくめの男以外の5人も鋭く俺を睨む。黒づくめの男だけは顔を伏せていた。部屋の中は薄暗かったが、黒づくめの男の顔色が悪いのだけは分かる。
俺は黒づくめの男を指差し、
「その男が持っている鞄を返してくれたら帰るよ」
「ああ?」
最初に立ち上がった男が俺から黒づくめの男に視線を変えた。黒づくめの男がビクッと反応して震えているのが見えた。
立ち上がった男がゆっくりと黒づくめの男に近付き、
「テメー……新入り。盗るとこ見られやがったな?」
黒づくめの男は無言で首を横に振った。その赤い服の男は黒づくめの男が持つ鞄を取り上げると鞄の中を覗く。そして俺の方に目を向けた。
「悪りぃが、これは返せねえな。消えろ」
俺が何も答えずにいると、テーブルの他の男達も立ち上がる。
「聞こえねえのか、テメー。さっさと消えろって言ってんだろが!」
その内の一人が俺の方に歩いて来て、顔を近付けてきたので、
「さっさと……うぐっっぅ!」
ノーモーションで股間を蹴り上げてやった。倒れた男が泡を吹いて白目を剥いた。テーブルから立ち上がった男達が身構えた。
「俺も言っただろ?その鞄を返してくれたら帰るって。言葉、理解出来なかった?」
「……死んだぞ?テメー」
男達が懐から短刀を抜いた。
俺も腰の木剣に手を掛ける……って、あれ?
木剣、宿屋に忘れてるな……。
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