28.迷宮調査

 俺達はギルド併設のレストランの片隅のテーブルに座り、軽食をとりながら待っていた。

 ギルド長のディーガンさんから帰らずに待っていて欲しいと言われたからだが……。


 既に外は暗くなり始め、待ち始めてから随分と経っていた。

 ギルドの受付カウンターを眺めていると、その間も迷宮からどんどんと冒険者が帰って来ている。いつもと違う流れにギルドの職員がカウンターの向こうで右往左往している。


 帰って来た冒険者達は一様にカウンターに向かうが、説明を受けるとほとんどの冒険者はそのままギルドを後にしていった。

 温かい飲み物を口につけながらアティアが俺の顔を覗き込む。


「何か大変な事が起こってるのかな?」

「分からないな。今までこんな事あった?パルネ」


 俺に話を振られたパルネが視線を上に向けて考える。


「うーん。アタシが来てからはこんな事初めてだよ」

「そうか……」

「迷宮に入れなくなったり……しないよね?」

「うー……ん」


 アティアが心配そうに俺に尋ねるが、


 確かにそうなる可能性もあるよな。せっかく登録もして仲間も出来て、慣れてきていたのにな。


 カウンター奥の二階から降りて来た女性職員がキョロキョロと周りを見渡すと俺達の姿を見つけ、こちらに駆け寄って来る。


「【リドフーベス】の皆さん。お待たせしてすいません。ギルド長がお呼びですので、こちらまでご足労いただけますか?」

「はい。分かりました」


 俺達は立ち上がり、その女性職員に案内に付いて行った。


 ◇


「失礼します。【リドフーベス】の皆さんをお連れ致しました」

「うむ」


 ギルドの二階にある部屋に案内された俺達は女性職員に続いてその部屋に入っていくと、長テーブルの向こう側にギルド長のディーガンさんがソファに腰掛けていた。

 そしてそのテーブルの左右には冒険者らしき二人の男女が向かい合うように一人掛けのソファに腰を下ろしている。


「お待たせして申し訳ないね。ラディアス君。アティルネアさん。パルネさん。どうぞ掛けてくれたまえ」

「はい。失礼します」


 左右の男女に軽く会釈して俺達は三人並んでディーガンさんの向かい側のソファに腰を下ろした。


「ひとまずこの二人を紹介しよう。【レガクリテ】のミッグス君」

「ミッグスだ。よろしくな」


 俺達の右側に座る男性。

 濃紺のプレートアーマーに身を包み、爽やかな笑みを浮かべているが、顔にはいくつかの古傷の痕が残っている。その傷跡がこの男が歴戦の戦士であることを物語っている。腰掛けているソファの背に立て掛けている大槍が彼の得物なんだろう。


 俺達は軽く会釈して返す。


 

「そしてこちらが【ルルーシィア】のタリアータくんだ」

「…タリアータよ」


 俺達の左側。

 一際大きなウィザードハット。艶かしい印象の黒いローブに身を包んだ女性。一目で魔術師と分かる出で立ち。妖しげな笑みを浮かべて俺達に少し頭を下げた。


 

 俺達もそれぞれに、この二人に自己紹介をしたところで、ディーガンさんが話し始める。


「では、ラディアス君。今日、君達が迷宮に入ってその中で一体何があったのかを、私とミッグス君、タリアータくんに話してもらえますか?」



 俺は三人を代表して、今日迷宮であった事を話した。11階層から15階層まで全くモンスターに遭遇しなかった事、15階層の階層主ストーンゴーレムと戦った事。更にストーンゴーレムが二体現れた事。


 

 俺の話に三人は小さく頷きながら、最後まで言葉を挟まずに聞き終えた。


「以上が今日、迷宮であった事です」

「そうですか。報告ありがとう、ラディアス君」


 ディーガンさんとミッグスさん、タリアータさんそれぞれが考え込むように視線を巡らせる。

 ……しばし沈黙。


 最初に口を開いたのはディーガンさんだった。腕組みをしたまま顔をミッグスさんに向ける。


「お二人はどう考えますか?」

「何とも答えられないですね。やはりもう少し調査をしてみないと……」


 ディーガンさんとミッグスさんの視線がタリアータさんに向かう。


「…私も同感。異常が起きているのは間違いないと思うけど……。これまでの情報だけでは……ね」

「そうですね。解りました」


 ディーガンさんがふっと小さく溜息をつくと、俺達三人に視線を向ける。


「お三方。協力いただき、ありがとう。また追ってギルドから正式な発表をしますが、しばらくの間、迷宮を封鎖します」

 

 俺達は三人揃ってディーガンさんの顔に見る。


「封鎖ですか?」

「ええ。どれぐらいの期間になるか分かりませんが、迷宮に何が起こっているのか。調査隊を派遣して調査が完了するまで、冒険者の迷宮探索を一時封鎖致します」


 

 俺とアティアががっくりと肩を落とす。

 それを見たディーガンさんが優しく声を掛けてくる。


「そうですね。特にお二人は昇格したばかりで勢いがありましたからね。気持ちは分かりますが、ここに来てからはあまり休んでいないでしょう?少しの間、体を休めると思って我慢してください」

「……はい。そうですね……」



 そのやり取りを聞いたタリアータさんがクスリと笑い、ミッグスさんが何かに気付いたように、


「あー。君達があの最速ルーキー達かい?」

「最速ルーキー?」

「うん。ギルドで話題になっていたからね。登録初日の魔晶持ち込みの記録を作ったってね。確か200個超えでしたか?ディーガンさん」

「ええ。251個ですよ。ミッグス君」

「…うふふ。それは凄い……」


 ミッグスさんとタリアータさんは感心しながら俺達の方を見る。

 俺はその二人の視線に挟まれながら目の前のディーガンさんに尋ねる。


「で、ディーガンさん。その調査隊っていうのはいつ来るんですか?」

「いえ。誰も来ませんよ。このお二方のパーティーが今回の調査隊です」


 ディーガンさんが両手を左右にいるミッグスさんとタリアータさんに向けてひらひらと振った。


「そう。俺達【レガクリテ】と【ルルーシィア】が今回の調査隊だ。ラディアス君」


 ミッグスさんが自分の顔を親指で指した。

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