25.ストーンゴーレム

 翌朝、集まった俺達はすぐに武器屋に向かった。

 目的はパルネのクロスボウの矢の購入だけだったので、午後からは休息に当てるため、素早く済ませることにした。


 パルネは昨日、アティアからの圧がかなり効いたのか、出来るだけ俺の体に接触しないように一定の距離を保っていた。


 

 無事に矢を買い終えて、帰る間際に店員のお姉さんが俺達に話しかけてくる。

 

「お三方はDランク冒険者だよね?」

「はい。そうですけど……」

「最近、迷宮のモンスターが活発化しているというのは聞いたことないかな?」


 俺達は顔を見合わて首をひねる。

 俺とアティアより先に冒険者をしているパルネもそんな話は初耳という顔をしている。


「なんか他の冒険者から聞いたんだけど、11階層から深層のモンスターが増えてきてるって言ってたよ。君達は大丈夫?」


 

 俺達が11階層より下に下りだしたのは三日前だし、確かに上の階層よりモンスターが少し多いなと感じていたが、最初からそういうものだろうと思って気に留めていなかった。


「そうなんですね。でも、俺達も11階層に下りれるようになったのは最近なんで……」

「そっか。じゃあ、くれぐれも気をつけてね」

「ありがとうございます」


 店員のお姉さんは俺達を心配しながら見送ってくれた。



 

 そしてその帰りの道中……。

 

「明日だけど、ストーンゴーレムと戦って、少しでもヤバいと感じたらすぐに撤退するから、二人共そのつもりで頼むな」

「うん。そうだね。私も無理に一回で倒そうとしなくてもいいと思うよ」


 アティアもパルネも俺のその提案に同意する。


 三人の連携は上手くいってると思うけど、他のモンスターとは違う、初めての階層主との戦いだから、慎重に行くに越したことはない。

 ダメならまた再挑戦すればいいだけだし……。


 そう考えていると、ポンとアティアが俺の肩を叩いた。

 

「そう。焦っちゃダメだよ、ラディー」

「そうだな。明日は頼むな」


 アティアが笑顔で応えた。


 自分でも焦らないように気をつけていたけど、アティアには見透かされてたみたいだな。


 

 ◇◇


 翌朝、ギルドに集まった俺達は準備を確認してすぐにカウンターに受付をしに行く。


 俺はナツメさんが来ていないか、なんとなくレストランも含めて見回してみたが、来ていないみたいだった。


 その様子を見たアティアが俺に声をかけてくる。


「どうしたの?ラディー?誰か捜してるの?」

「いや、別に……」

「そう」


 ナツメさんのことはまだ何もアティアには話していないので、説明するのは止めておいた。

 これから迷宮に下りるわけだし、時間を取るのももったいない。

 また迷宮から出て来た時に話せばいいだろうと思って、俺達は受付カウンターに進んで行った。



 迷宮に下りた俺達【リドフーベス】は順調に下層へと進んでいった。


 ここまでのモンスターの出現数は特に多いということもなかった。

 武器屋のお姉さんから聞いた情報では11階層から下でモンスターが活発化してるって言ってたな……。



 11階層へ下りる階段までたどり着いた俺はアティアとパルネと目が合い、小さく頷く。


「よしっ。行こう」


 

 気合を入れて俺達三人が下層へ続く階段を下りていった。



 ◇◇

 

 不気味な静けさが迷宮を包んでいた。

 小声で話しているのに、静けさのせいで異様に反響する。

 

「何かあったのか?」

「分からない……。けど…。絶対におかしいよね、やっぱり」


 俺達は既に15階層まで下りて来ていた。

 しかし俺達は11階層に下りてから、一度もモンスターに遭遇せず、この15階層までたどり着いていた。


 聞いていた話と違うのはいいとして、二日前まで俺達が探索をしていた11階層から14階層にはモンスターの気配も感じなかった。


 アティアも索敵の魔法を張り巡らせているが、それにも何もかからないみたいだった。


  

 俺達は何かの異変を感じながらも、15階層の奥へと進んで行く。


 

 パルネが周りを警戒しながら、


「ただ運が良かっただけかもよ?」

「そうだといいんだけどな。でも最近活発化してるっていうのは間違いか?」

「う~ん、分かんないっ」

「ラディーもパルネちゃんも! 考えてても仕方ないから先に進むよっ」


 

 異様に静かな15階層を奥に向かって行く。


 15階層の階層主ストーンゴーレムの場所は既に示されているので、俺達は迷うことなくその場所へと向かう。



 そしてストーンゴーレムが守っているという広間に到着した。

 天井までが一際高く、俺達が入って来た入口の対面側の壁は天井まで荒いレンガの壁になっていた。

 俺達が広間に足を踏み入れると、そのレンガ造りの壁がガタガタと動き出した。


 ガラガラと大きな音を立てて、壁の一部のレンガが床に崩れ落ちてきた。そして落ちたレンガが再び動き出し、立体的な像に組み上がっていく。


 俺の倍ほどの身長の人型に組み上がったレンガの像の両眼が光った。

 同時にズシンと音を響かせて俺達に向かって、その足を一歩踏み出す。


 俺は後ろにいるアティアとパルネに叫んだ。


「よし!やるぞ!」

「「うんっ!」」


 俺はストーンゴーレムに向かって走り出した。

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