24.お守り

 かなり落ち込んでいるみたいで申し訳ないけど、項垂れているナツメさんに質問をしてみる。


「それで弟さんの行き先に心当たりはあるんですか?」

「いや……。それもなく……」

「闇雲に捜してたんですか!?」

「そう……」


 思わず呆れてしまった。この広い迷宮都市で何の手掛かりも無しで弟さんを捜そうとしてたとは。


「それで何で弟さんは居なくなったんですか?」

「私は三ヶ月ほど前に修行の為に家を出て、別の迷宮都市で冒険者となったのだが、二週間前に家から弟が家から姿を消したと連絡があって……。それで弟がこのペグルナットの街に向かったようだと……聞いたので」

「それで慌ててこの街ペグルナットに来たんですね」

「そうでござる」


 どうやらこのナツメさんは直感で行動するタイプの人間みたいだ。雰囲気は全然違うけど、何かそういう所は姉上と似てるな……。

 でも手掛かりも無しで捜すのは無謀過ぎるよな。


「それでナツメさんは明日からも弟さんを捜すんですか?」

「も、もちろんでござる!その為にこの街に来たのだから……」


 ふーんと俺は考え込んでしまう。捜すといっても当てがないんだもんな。しかもお金もない。とりあえずこの街に滞在するにも自分の食事代とか宿代ぐらいはどうにかしないと、捜すどころじゃないよな?


「ナツメさんは冒険者なんですよね?ランクは?」

「ええ。先日Eらんく?とやらに昇格したでござる」

「Eランクですか。で、パーティーメンバーは前にいた迷宮都市にいるんですか?」

「いや、私は一人で迷宮に入って修行しているでござるよ」


 単独ソロか。それはなかなか大変だろうな。


「とりあえず自分の宿代ぐらいは確保しないといけませんね」

「そうでござるな。なので午前中はこの街の迷宮に入ってモンスターを倒して、昼以降は弟を捜そうと考えているでござる」


 無鉄砲なのか、計画的なのかよく分からないな……。ま、とりあえずそれなら宿代ぐらいはなんとかしながら弟さんを捜索出来そうだな。


「そうですね。それでいいと思いますよ。俺も冒険者をしていて、ギルドには出入りしてるんで、何かあったら協力しますよ」

「おぉ!本当でござるか!それはかたじけない。この御恩は一生かけてでも……」

「いやいや、大袈裟ですよ」


 と言っても弟さんがどんな人なのか分からないしな。何か特徴とか聞いておくか。


「弟さんて、どんな感じの人なんですか?」

「んと、私より4歳下だから今は15歳じゃ。髪は黒くて……」


 ナツメさんは弟さんの特徴を話し出した。そこで俺はふと思い出した。そういえばこないだ迷宮の中でアティアがパルネを探し当てた精霊魔法があったな。

 たしか対象の人間の一部……髪の毛とかがいるんだっけ?


「ナツメさん。その弟さんの髪の毛とかって持っていたりしませんか?」

「髪の毛?」

「はい。何かその人の一部分でもあれば捜せるかもしれないので」

「本当ですかっ!?」

「ええ。髪の毛とかでいいんですけど」


 ナツメさんは立ち上がると腰に巻いていたポーチを開けて、何か持っていないかと探しまくる。そして目的の物を見つけると、それを俺に見せてきた。


「これは私が家を出る時に弟から貰ったお守りでござるが……」


 それは手の平に収まるぐらいの小さな布の袋だった。


「このお守りの中には弟の髪の毛が入っているでござるよ」

「へー、お守りですか……って、髪の毛!?何で?」


 驚く俺にナツメさんが説明してくれる。

 どうやらナツメさんの住む地域では旅に出る前に、家に残す大事な人の髪の毛をお守りに忍ばせて旅に出るという風習があるらしい。

 それは主に結婚している男女間で行う風習らしいのだけど、結婚していないナツメさんは弟さんの髪の毛を拝借したとのことだった。


 

「私にとっては大事な弟なので……」


 うーん。ブラコンの所まで姉上に似てるな。


 俺はアティアの探索魔法の事をナツメさんに話し、とりあえずお守りは一旦お返しした。

 またギルドで会った時にそのお守りを借りて、アティアに探索魔法を使ってもらうということになった。


「それならば、そのアティア殿にも何かお礼をせねば……」

「そうですね。でもそれは弟さんを見つけてからでいいですよ。その魔法が上手くいくか分からないですし」

「そうでござるか」



 食事を終えた俺とナツメさんはレストランを出た。なんとか手持ちのお金で支払いを済ますことができ、ナツメさんが何度も頭を下げてきた。


 レストランの前で別れて俺は宿屋の方に向かって歩き出した。

 俺が見えなくなるまで何度もお辞儀をしていたナツメさんが印象的だった。



 うん。悪い人じゃなさそうだな。

 弟さんが早く見つかるといいな。


 俺はまた宿屋に向かって軽く走り出した。

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