26.前衛と後衛

 ストーンゴーレムに向かって一直線に走り出し、左手を前に突き出す。


電撃ヴァルボット!」


 走りながら放った電撃がストーンゴーレムを貫いた。一瞬動きが止まったが、直撃した所を黒く焦がしただけで効いた様子もなく、走る俺に向けてまた足を進めてくる。


 

 雷撃は効果が薄そうだな。


 俺は走る向きを左方向に急激に変えた。ストーンゴーレムの視線が俺を追いかけてくる。


 

 ドゴンッ!ドゴンッ!


 俺が向きを変えた瞬間、俺の背後から発動されたアティアの魔法で作られた土槍が2本、ストーンゴーレムに直撃した。

 土槍はストーンゴーレムには突き刺さらず、当たった瞬間に弾けるように土になったが、ストーンゴーレムはよろめき、足が止まった。


 すかさずパルネのクロスボウの矢がストーンゴーレムに当たる。3本放たれた矢のうち、1本は刺さったが、2本は弾かれて床に落ちた。


 

 パルネのクロスボウの威力じゃ、硬くて通らないか。


 俺は回り込むように走る軌道から一気にストーンゴーレムに向けて距離を詰めた。

 剣を抜いて、走る勢いそのまま斬りかかる。

 向かってくる俺に向けてストーンゴーレムが拳を振り下ろした。


 意外と速いな!


 振り下ろした拳を俺は横に跳んで躱すと、地面に叩きつけられたストーンゴーレムの拳が床にぶつかり轟音が響く。


「ひゅっ!」


 横薙ぎに振った俺の剣がストーンゴーレムの足に当たる。鉄と石がぶつかる音が響き、俺はそのまま剣を振り切った。

 そしてそのまま後ろに大きく跳んでストーンゴーレムとの距離を開ける。


 ストーンゴーレムの右足に俺の剣撃の跡が残っていた。思ったよりも浅かったが、これなら斬れそうだな。

 ストーンゴーレムの両眼の下、口の辺りが真横に開いた。大口を開けるように俺を見下ろす。


 

 ビュンッ!ヒュンッ!……


 大きく開けたストーンゴーレムの口から拳大の石が無数に飛び出してきた。


 石のブレスかっ!


「ラディー!」

「大丈夫だ!」


 アティアが俺に叫んだが、俺は冷静にその石を剣で弾き返していく。そしてアティア達に叫ぶ。


「アティア!防御魔法で自分とパルネを守れ!後は俺が倒すから!」


 言われたアティアは何か反論しようとしたみたいだが、すぐに防御魔法を発動させる。

 ストーンゴーレムに近距離攻撃しかないのならアティアとパルネは離れた所から攻撃していれば安全と考えていたが、この石のブレスである程度の遠距離攻撃が出来るんなら話は別だ。


 二人だとこの石のブレスは大ダメージになりかねない。そう考えた俺は攻撃を一人でやる選択を選んだ。


 と言っても……

 なかなかストーンゴーレムからの石つぶてが止まらない。


 途切れたら動こうと思ったが、なかなか途切れないな。

 被弾覚悟で跳ぶか?と考えた瞬間、俺とストーンゴーレムの間に防御魔法の防御壁が現れて石つぶてを弾きだした。アティアの防御魔法だ。


 その瞬間に俺は横に跳んで、石のブレスの射線から外れる。同時にストーンゴーレムの頭に2本のクロスボウの矢が刺さる。

 ストーンゴーレムの動きが少し鈍った隙に距離を詰め、再び剣を振り下ろす。


 鉄と石のぶつかる音が響く。その数、六回。


 さっきより力を込めての六連撃。深く刻まれた剣撃で、ストーンゴーレムの左腕はもげそうになり、よろよろと後ろに後退った。


 よしっ!次で仕留める!


 後退るストーンゴーレムに向かって跳び、その頭を斬り落とす。更に空中から二連撃。

 俺が着地すると同時に、頭を落とされたストーンゴーレムの体が地面に崩れ落ちた。


 前にオディリアからアドバイスを受けた速度と手数を意識した連撃だ。

 崩れ落ちたストーンゴーレムが石の残骸に変わり、そして魔晶に変わった。


 俺はすぐに魔晶を拾い上げ、アティアとパルネの方に向かう。

 パルネは笑顔だが、アティアはむぅと頬を膨らませ、ジト目で俺を見ている。


「ちょっと前に出過ぎじゃない?ラディー」

「でも二人共しっかり援護してくれたじゃないか」


 俺にそう言われたアティアが腰に手を当てて、大きくタメ息をつく。


「それはそうだけど……」

「俺は前衛だし、二人は後衛なんだから硬い相手だとどうしてもそうなるよ」

「それは分かってるんだけど……」


 納得しきらないアティアが唇を尖らせる。俺達の間にパルネが入って来る。


「まあまあ二人共。無事に階層主を倒せたんだし、良かったよ。アタシもアティアも無傷だしね。ラディーは大丈夫?」

「ああ。俺も無傷だよ」


 アティアも俺が一人で倒すと言ったから怒ってるんだろう。でも二人が隙を作ってくれたからあっさり倒せたわけだし……。

 俺が手に持っている魔晶をパルネに手渡す。


「じゃ、これでこの階層主はクリアだな」

「そうだね。お疲れ、ラディー。ほら、アティアも」


 魔晶を受け取ったパルネがアティアに振り返る。


「うん。そうだね」


 やっとアティアに笑顔が戻った。パルネが魔晶をバッグに仕舞う。



 ガラッ……


 俺達の背後……ストーンゴーレムが現れた壁からまたレンガが崩れる音が聞こえ、俺達は振り返った。

 すると瞬く間にレンガが崩れ、床に積み上がったレンガが浮かび出す。



 まさか……。


 浮かび上がったレンガが再び人型に組み上がって、さっき倒したストーンゴーレムが形成されていく。


「えっ?何で? また……?」


 アティアが思わず呟く。俺も心の中で同じ事を呟いた。


「……あれ!二人共!」


 パルネが組み上がっていくストーンゴーレムの更に後ろを指差して声を上げた。

 壁は他の所も崩れ、床にレンガが散乱していた。

 そしてそのレンガも浮かび上がり、何かが組み上がっていく。


 さっき俺達が倒したストーンゴーレムと同じモンスターが1体。そしてその後方で同じ形の小さなストーンゴーレムが組み上がっていた。大きさは俺の胸ぐらいの高さだ。そしてその小さなストーンゴーレムの数は約20体。


 そのストーンゴーレム達の両目が光り、俺達に向かって歩き始めた。


「何だ?これは聞いてないぞ?」


 俺は再び剣を抜いた。

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