22.あんまりくっつくと…

 地上へ戻り、いつものように魔晶の買取りをしてもらう。


 

「……えっ? これ、今日一日だけの収穫ですか?」

「はい。そうですけど、何かおかしいですか?」

「ちょ、ちょっとお待ちくださいね」


 

 ギルドの買取り係の人が足早にカウンターの裏へと消えていく。

 俺達はその様子をキョトンと見ているが、オディリアだけはニコニコしながら眺めていた。


 係の人が戻って来ると、すぐ後ろからディーガンさんも現れ、俺達が持ち込んだ魔晶に目を見張る。

 

「……ラディアスさん。これを今日一日で?」

「はい。ちょっと多いですかね? だったら別の日に換金を……」

「いえ、多いのは結構なんですが……」


 困り顔のディーガンさんをニヤニヤしながらオディリアが眺めている。


「ウチは一匹も倒してへんで。全部この【リドフーベス】の三人で倒しとったで」


 

 オディリアのその声を聞いてギルドのカウンターにいた職員がざわついた。

 ディーガンさんが俺達の顔を覗き込むように順に見ていくと、軽くタメ息をつく。


「すぐにEランクは卒業すると思っていましたが、まさかこんなに早いとは……」

「え? ということは……」

「はい。ラディアスさん。いえ、【リドフーベス】の皆さん。貴方たちはDランクに昇格です。おめでとうございます」


 アティアがパンッと手を叩き、パルネが俺の腕にしがみついた。


 

 ということはこれで……。


「貴方たち【リドフーベス】の階層制限は解除されます。ですが、これからも己の力量に合わせての迷宮探索をお願い致します」

「やったね! ラディー!」

「ああ。これで深層に挑戦出来るんですね」

「ええ。ですが、くれぐれも無理をなさらないようにしてくださいね」


 

 ディーガンさんが俺達に笑顔で釘を刺す。

 そのまま俺達の顔に順に視線を向けると、


「次の目標は15階層……。階層主のストーンゴーレム討伐ですね」


 階層主……ストーンゴーレム……?


 俺はアティアとパルネと目を合わせた。


 ◇◇


 三人パーティーになって初めての探索を終えて、Dランクに昇格した俺達【リドフーベス】はそれから三週間、11階層から14階層でモンスター討伐を繰り返した。


 階層主というのはその階層で一番強いと目されているモンスターのことだった。

 このペグルナット迷宮には15、30、40、50階層にそれぞれ階層主と言われるモンスターが下に下りる階段を守護している。


 階層主も倒すと魔晶に変化するのだが、そのそれぞれの階層主の魔晶の買い取りは一人につき、一回だけしかおこなってくれない。買い取りを終えた後は冒険者タグに術式が埋め込まれ、ギルドに記録される。

 そして階層主を避けて下に下りるルートへの通行が許可されるようになる。


 つまり、一度15階層のストーンゴーレムを倒して魔晶をギルドに買い取ってもらったら、二度と買い取ってもらえないし、階層主とも戦わずに下の階層に下りれるようになるので、必然的に皆一度しか戦わないのだ。

 


 俺達の目標が15階層の階層主のストーンゴーレム討伐と決まり、すぐにでも挑戦しようという話になったのだが、11階層から一気にモンスターの強さが上がった。

 

 といっても命の危険にさらされるという程ではなく、これまでより戦闘に時間がかかるようになったというぐらいなのだが。


 15階層にいる階層主のストーンゴーレムは相当な硬さがあるとのこと。更にパルネがまだクロスボウを扱いだして間がないことも踏まえて、三週間しっかりと鍛えてストーンゴーレムに挑むことにした。



  

 そしてこの三週間でそれぞれに確かな手応えを感じて、この日の迷宮探索を終えた。


 地上へ上がると、既に夜になっていた。

 魔晶の換金を終えギルドの外へ出て、俺達は宿屋に戻ることにした。


「じゃあ、明日は一日しっかり体を休めて、明後日から15階層に挑戦しよう」

「「はーい!」」


 

 俺の呼び掛けに二人が返事を返す。

 パルネが俺に向かって手を挙げる。


「ラディー! クロスボウの矢がだいぶ傷んできて買い替えをしたいんだけど、明日武器屋さんについて来てくれない?」

「ん? ああ別にいいよ」

「やったー!」


 パルネが俺の腕にしがみつき、控えめなパルネの胸が俺の肘に当たる。


 

 うっ、振り払うのも失礼だよな……。


 

「あ、だったら、アティアも……」


 

 そう言って俺がアティアの方に振り返ると、無表情に目を細めた(ジト目の)アティアと目が合った。


 

 …………怖いっ!


「あんまりくっついて歩くとよ、パルネ」

「えっ? 大丈夫だよ。だって……はッ!」


 

 パルネがアティアの方に振り返って答えた瞬間、俺と同じようにアティアのその視線に恐怖を感じたんだろう。

 弾かれるように俺の腕から離れる。


 アティアの顔が無表情から一転してニッコリとした笑顔になると、


「うん。じゃあ私も明日ついて行こうかな」

「お、おう。じゃあ、三人で行って、サッサと終わらせようか」

「そ、そ、そうだね。ラディー。パパっと終わらせちゃおう」


 アティアが放つ、ただならぬ怒気に俺とパルネの声が微妙に震えた。


 この後、俺達は朝一に武器屋に向かう事を約束してこの日は解散することにした。

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