21.三人パーティー

 翌朝。

 三人パーティーとなって初めての迷宮探索。

 俺達は同じ宿屋から出発すると、真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドへ到着すると、待ち合わせをしていたオディリアが俺達とほぼ同時にギルドに到着した。

 俺達はギルドの受付に向かい、受付で迷宮探索の手続きと……、


「パーティー名は【リドフーベス】でお願いします」


 俺達の新しいパーティー名の登録をした。

 メンバーは俺とアティアとパルネの三人。

 オディリアは今日だけのサポートという形で同行してもらう。


 今日はパルネのクロスボウを使った戦闘の練習と、戦闘内での連携が目的だ。

 オディリアには戦闘に参加せずにパルネのサポートと指導をお願いしている。



 迷宮に入ってすぐに俺達はパーティーが潜れる最大深度の10階層に向かう。


 10階層のモンスターも、俺とアティアで全く問題なく倒せるんだけど、パーティーで潜れる限界がここだから仕方ない。

 次のDランクに上がれば、探索制限が無くなるので、早くランクを上げることも目的だ。


 

 とにかく今日は三人での戦闘練習の意味合いが強い。モンスターを倒すのはもちろんだけど、効率良く倒せることに重点を置いて動くようにしないとな。


 迷宮に下りると4階層までは単体のモンスターばかりだったので、俺一人でモンスター達を蹴散らしていく。


 そして5階層に下りて集団のグレイゴートが現れて、やっとアティアとパルネの出番がやってくる。

 灰というより黒に近い体毛に、家畜の山羊の三倍以上の体格。

 その体格に比例した角は漆黒で、軽く湾曲している。そのグレイゴートが5匹。


 力押ししかしてこないシンプルなモンスターだが、この5階層で出会うモンスターとしてはかなり強い部類だし、5匹以上の集団も珍しい。

 グレイゴートは俺達に気付くと、黄色く光る無表情の双眼を俺達に向けた。


 

「ちょうどエエ感じのヤツが現れたな」


 

 パルネと一緒にオディリアが後方に下がり、すぐ前にアティア。

 最前列の俺が剣を抜いて構える。

 

「パルネ。俺が動いたら頼むよ」

「うん。分かった」


 カチッとパルネがクロスボウの弦を引いて、弓をセットする音が聞こえた。

 5匹のグレイゴートがこちらの様子を窺い、5匹がジリジリと距離を詰めてくる。


 全部が俺に向かってくれば俺一人で捌けるだろうけど、何匹が俺を無視して後ろに向かうか……。


 そう考えながら、俺はパルネの射線から外れる為に左へ駆け出した。

 俺の動きに釣られ、グレイゴートの視線が俺を追う。


 

 バシュッ!……バシュッ!


 俺が動いてすぐにクロスボウの音が響いた。

 ほとんど間を空けず二発。

 一本の矢が横を向いたグレイゴートの側頭部を捉え、もう一本が別のグレイゴートの首元に食い込んだ。

 側頭部を射抜かれたグレイゴートが崩れ落ち、首を撃たれたもう一匹が咆哮を上げた。


 俺はその隙に一気に距離を詰めて、一番左側のグレイゴートに斬りかかった。

 俺の振った剣がグレイゴートの首を捉え、一撃で絶命させる。

 残った三匹のグレイゴートが一斉に動き出す。


 バシュッ!……バシュッ!


 更にクロスボウの音が響く。

 パルネ達に向かった二匹のグレイゴートの顔面にそれぞれ一本ずつ矢が突き立てられた。

 走り出した勢いもあって、その二匹が豪快に前のめりに倒れ込む。


「一匹行ったで!ラディアス!」

「ああ!見えてるよ!」


 最初に首元に矢を喰らったグレイゴートが俺に向かって頭を下げ、その角を突き刺そうと突進してくる。


 ザシュッ!


 

 俺は冷静にその突進を躱し、すれ違いざまに剣を下から上に振り上げた。

 両断されたグレイゴートの頭部が跳ね上がった。


 バシュッ!…バシュッ!


 再びクロスボウの発射音が聞こえて、そちらに目をやると、倒れた二匹のグレイゴートに向かってパルネがトドメを加えていた。


「おおーう!百発百中やな、パルネ!」

「えへへへ〜」


 

 トドメの矢も倒れたグレイゴートの頭に正確に刺さり、オディリアがパルネの肩を叩きながら祝福の声を上げる。

 俺も倒れたグレイゴートにトドメを刺して、5匹全てが魔晶に変わったのを確認してアティア達の所に戻った。


「すごいな。パルネ。ほとんど頭に当たってるよ」

「いやー、ラディーが上手く注意を引いてくれたからだよ」


 アティアも魔晶を拾い上げながら、

 

「ううん。でも動いてるモンスター相手にこれだけ正確に撃てるなんて凄いよ」


 アティアにも褒められてパルネが照れ笑いを浮かべる。

 

「そ、そうかな?役に立ったかな?」

「充分だよ。私なんて出番なかったもん」


 オディリアがパルネの肩に手を置く。

 

「ウチから見てもパルネはセンスあるで。威力は弓より弱いかもしれんけど、射撃武器をこんだけ正確に当てれるのはスゴいことやで」


 オディリアの言う通り、パルネが放った矢はトドメの二本を除いて全てグレイゴートの頭か、首を射抜いている。

 素早いモンスターでないにしても、初めて扱う射撃武器でこの正確さはよっぽど相性が良かったんだろう。


「さっきは2連射しか出来なかったけど、もうちょっと練習したらもっと連射も出来ると思うよ」


 それは心強い。


 魔晶と矢を拾い集めた俺達は10階層に向けて動き出した。


 ◇◇


 10階層に下りてからもパルネは絶好調だった。

 前衛の俺が近距離でモンスターと戦い、パルネはモンスターと一定の距離を保ちながら狙い撃つ。俺の剣撃から逃れたモンスターを正確にクロスボウで撃つ。

 剣で戦う俺と、クロスボウのパルネの連携のタイミングは徐々に良くなっていった。


 

 魔法攻撃をしてくるモンスターに対してはアティアは精霊魔法による防御壁を展開して、パルネの安全圏を確保する。

 更にアティア達にモンスターが迫ると、土系の精霊魔法を使い、土槍を生み出しモンスターを退ける。


 パルネのクロスボウは一撃で倒すほどの威力はないが、力押しのモンスターの突進を止めるには効果が充分で、パルネがモンスターの動きを止めた瞬間に俺が斬りかかる、というパターンで何体ものモンスターを倒せた。


 

 三体ぐらいまでなら俺も同時に相手が出来るが、それ以上の数になると後衛のアティア達の方にも分散してモンスターが向かうので、パルネのクロスボウはその突進を挫くのに大いに威力を発揮した。


 

 オディリアも途中までは熱心にパルネにクロスボウの撃ち方や狙いを教えていたが、抜群の射撃センスを見せるパルネに教えることが無くなったようだった。


 

「ウチらのパーティーにもパルネみたいな援護射撃出来る奴おったら、ウチも楽に戦えるのになー」


 アティアの後ろでそんな事をボヤきながら、俺達の戦いを見つめていた。



 

 10階層で簡単なキャンプを開き、俺達は休憩を取る。

 

「オディリアさんのパーティーはどういう構成なんですか?」


 俺が何となくオディリアに尋ねると、飲んでいた水筒から口を離したオディリアが、


「【セティボス】はなぁ……。ウチともう一人が前衛で、後衛に攻撃系の魔術師と、んでジルが回復担当の魔術師の四人構成やな。特別変わった構成でもないけどな……」

「そうですね」

「でも変わりモンばっかりやねん!しかも目立ちたがり!ジルも相当変わってたやろ?」


 

 ……イヤ。アナタも結構変わった人で、好戦的だと思うけど……。


「まあ、ウチがあの中でも一番の常識人やろな」


 

 ……どんなパーティーなのか、ちょっと興味出てきた。


「なんや、ラディアスはメンバー増やすつもりなんか?」

「いえ、今はパルネも入ったばかりですし、全く考えていないんですけど。参考に聞いておこうと思いまして……」

「なるほどな。ならアティアは回復魔法に力入れた方がエエやろな」


 不意に話を振られたアティアがこちらを見る。

 

「回復魔法ですか?」

「そや。アティアの精霊魔法やったら回復系も使えるやろ?」

「はい。あんまり得意じゃないですけど……」

「でも使えるようにしといたら、攻撃も防御も回復も使える万能の精霊魔術師やで。めちゃカッコイイやん!」

「おぉ。万能……」


 万能と言われてアティアが感心したような表情を浮かべる。

 

「ちょっと頑張ってみようかな……」

「そや。やったらエエねん。まだまだ伸び代あると思うで」


 パルネの時もそうだったが、オディリアは人を乗せるのが上手い。

 オディリアに言われて、アティアもすっかりその気になっている。


「んで、ラディアスやな。お前は少し剣の威力に頼り過ぎやな」

「剣の威力ですか?」

「ああ。お前は力もあるし、技もある。けどな……、速度が足らん」

「速度ですか……」

「この先、一撃では倒されへん硬いモンスターも出てくる。そうなったら威力だけじゃなくて、速度と手数の方が重要になることもあるで」


 

 確かにこの迷宮に来てから俺は、ほとんどのモンスターを一撃で倒してきた。

 ちょっと攻撃が雑になっていたかもしれない……。

 オディリアはそれを見抜いていたのか。


「本来のお前の力からしたら、ここの10階層ぐらいのモンスターは弱々よわよわやと思うけど、それが癖になったらこの先、伸び悩むで」

「わ、分かりました」

「ま、それが冒険者先輩のウチからのアドバイスやな。でも無詠唱の雷撃魔法付与の剣はスゴいな。あんなん出来る奴、Aランクでもおらんで」

「ホントですか?」

「ウチが言うんやから間違いないで」


 ホントにこの人は人を乗せるのが上手いな。


 昔、家で剣を振っていた時に姉上にはバンバン無詠唱で炎系の魔法を剣に付与させて振り回されて、俺も意地になって振り返してたな…。


 自分が『天雷の加護』で雷系の魔法が使えるようになるまではよく泣かされてたな……。

 俺が泣いた時、姉上は決まって窒息しそうな抱擁付きで俺に謝ってきてたけど。


 

 こうして俺達はオディリアから戦い方のレクチャーを受けて、更にこの10階層で戦闘を重ねていった。


 パルネもこの10階層で現れる大型のモンスターにも全くビビらずに射撃の腕を上げていった。

 そして皮袋が魔晶で一杯になり、俺達は地上へ戻ることにした。

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