20.リドフーベス

 ギルド長ディーガンさんが俺達のテーブルの隣に来ると、座っている俺達の目線に合わせて少し腰を屈めて、


「やはりパルネさんはラディアスさんのパーティー加入されるのですか?」

「はい。今、決まったところですけど」

「そうですか。分かりました」

「明日、改めて手続きさせていただきますので……」

「ええ。それはよろしくお願いします。で、その時で結構なんですが、そろそろパーティー名も登録をお願い致します」

「あ…、そうですね。分かりました。明日には決めて、登録しますんで」


 ディーガンさんは先延ばしになっていた俺達のパーティー名を決めるのを促すために声をかけてきたようだ。

 俺がアティアの顔を見る。

 

「パーティー名……、どうする?」

「うーん。なんか色々あって全然考えてなかったね…。どうしよっか?」


 二人でそんな感じで顔を見合わせていると、パルネが小さく手を上げる。


「あの……。【リドフーベス】ってパーティー名はどうかな?」


 オディリアがその提案に反応する。

 

「おっ!エエやん」


 俺とアティアが首を傾げる。

 顔を伏せたパルネが、


「あ、イヤだったら別の名前でもいいんだけど……」

「イヤじゃないんだけど……。【リドフーベス】か…。何て意味なんだ?」

「古い獣人族の言葉やな。意味は……」

「”大切な仲間“だよ……。ラディー、アティア」


 

 パルネが少し恥ずかしそうに答えた。


 ”大切な仲間“……。

 パルネらしいなと思ってしまった。


「素敵な名前だね。いいんじゃない、ね、ラディー」

「うん。響きもカッコイイな。それにしよう」

「ホント?自分で言うのもアレだけど、恥ずかしくないかな?」

「そんな事ないよ。パーティーって、やっぱり大切な仲間だし。本当にいいと思うよ」


 

 こうして俺達のパーティーは【リドフーベス】という名前に決まった。

 そのやり取りを聞いていたオディリアが更にお酒を飲む。


「はぁー!やっぱエエな〜。何か若者の初々しい感じが堪らんな~」

「そんな……。オディリアさんも俺達とそんな歳変わらないでしょ?」

「そやけどウチのパーティーはそんな初々しい感じはもうあらへんで。ウチも含めてクセもんばっかりやからな」

「クセもんって……」



 こうして俺達は夜まで食事を楽しみ、レストランを後にした。その帰りの道中、

 

「パルネ。また一人にさせるの少し不安だからしばらく私と同じ部屋に泊まる?」

「え?アティアの部屋に?」

「うん。イヤだったら、せめて同じ宿屋の中で、別々の部屋でもいいけど?」


 パルネがブンブンと首を振る。

 

「ううん!全然イヤじゃないよ!むしろご褒美だよ! 行っていいの?」


 

 何、ご褒美って?


「うん。ラディーも同じ宿屋だし、また何かあったらいけないしね」

「行く行く!行かせてもらうよ! ありがとう、アティア!」


 パルネが飛び上がりながらアティアに抱きついた。

 それから俺達はパルネの宿屋に荷物を取りに行って、俺達が使っている宿屋へと向かって行った。


 ◇◇


 翌朝、宿屋の前に集合した俺達はすぐに武器屋に向かった。


 考えてみればこのペルグナットに来てからまだ武器屋に行ったことないもんな。

 これから先、剣の手入れもお願いすると思うし、いい武器屋を探しておかないとな。


 パルネもこの街ではあまり武器屋に行った事がないということだったので、俺達はギルドに寄って、いくつかの武器屋を教えてもらって、その一つに向かうことにした。



 そのお店は武器のメンテナンスや特注品にも対応してくれるという冒険者の中でも評判が良い武器屋らしい。


 

 大通りから少し路地に入ってすぐにその店を見つけ、中へと入って行った。

 冒険者が結構いたが、店内がかなり広いのですごく混雑しているという感じではなかった。

 店内に展示された剣や槍、鎧や胸当てなどを見ながら、店の一面を占める大きなカウンターへとたどり着く。


 

 カウンターには男性、女性の数人の店員が客の対応をしており、いかつい武器屋には似つかわしくない若い店員達が冒険者相手に接客している声がカウンターから聞こえる。


 カウンターに来た俺達に、一人の女性店員が声をかける。

 

「いらっしゃいませー! 今日は何をご所望ですかー?」


 営業スマイルにハキハキした明るい声のトーン。殺伐とした武器屋にはおおよそ似つかわしくない雰囲気を振りまいていた。


「弓を探しに来たんですが、どの辺りに置いていますか?」

「おぉー。弓ですか。お兄さんがお求めですか?」

「いえ、こっちの仲間なんですけど……。初めて弓を使うので、扱い易い弓を探しているんです」


 その女性受付がカウンターから少し身を乗り出し、パルネの姿を確認する。

 

「なるほどー。獣人の方ですねー。それでしたから中型の弓か…、クロスボウなどもオススメですね」

「クロスボウか……」

「ちょっとお待ち下さいねー」


 そう言うと、その受付はカウンターの裏に入り、すぐに手にクロスボウを持って戻って来た。それを見て、パルネが反応する。

 

「あ、見たことある!」

「ご存知でしたかー。体の小さい獣人やホビットの方は結構使ってますからねー」


 俺はクロスボウを知っていたが、実物を見るのは初めてだった。通常の弓の約半分の大きさで、扱う矢も半分ほどの長さだ。

 クロスボウの最も特徴的な点は、弦を引くとそこで弦が固定されて、引き金を引くことで矢を発射する。

 つまり弦を引いて矢をセットしておけば、いつでも片手で発射できる速射性が優れている点だ。


 射程と威力は弓よりも落ちるが、速射性と連射操作に優れている。

 動き回りながら射つには弓よりも遥かに取り回しが優れているのだ。


 瞬発力に優れた獣人やホビットが好んで使っているのはその為だ。


 パルネは受付が持ってきたクロスボウを受け取り、その弦を引いてみる。

 カチッと音がして、弦が最大に引かれた所で固定された。そして引き金を引くと、バンッと音と共に弦が元の位置に戻る。

 サイズの割には結構威力がありそうだった。


「よろしければ裏で試射してみますか?」

「あ、じゃあ是非……」


 

 受付に勧められ、俺達は武器屋の裏にある射撃場に案内してもらった。


 そこでパルネが矢を受け取り、壁際に置かれた木の的をめがけて何本かの矢を試射をする。


 射程距離は遠くないが、矢はかなりの速度があり、至近距離から狙われれば避けるのは難しそうだな。それにしても……、


 

 ……上手いな。使ったことないって言ってたのに、全部的に当たってる……。


 パルネが的に矢が当たる度に、俺達の方を向いて満面の笑みを見せる。


 

 …これがドヤ顔ってやつか……。


 

 俺とアティアも矢が当たる度に拍手して、受付の女性も同じように手を叩く。


「すごいですねっ!初めてなのにこんなに当たるなんてセンスありますよ!」

「えへ。そうなの?でも、本当に使い易いね、コレクロスボウ

「使いこなせそう?パルネ?」

「うん。コレにするよ、アティア」


 パルネは試射に使ったクロスボウを買うことにして、更に十数本の矢も購入した。


「これで二人の足手まといにならなくなったらいいんだけどな〜」

「ああ。しっかり頼むよ、パルネ」


 俺がワシャワシャと頭を撫でると、パルネは嬉しそうに俺に笑顔を向け、尻尾を振った。


 

 ……何かホントに犬みたいだな……。


 クロスボウを大事そうに抱えたパルネと共に俺達は宿屋へと帰って行った。

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