19.新メンバー

 酒を豪快に煽るオディリアがジョッキから口を離した。

 

「かぁーー! やっぱ迷宮入った後の一杯はちゃうなー!」

「オディリアさん……。いい飲みっぷりで…」「はは!ラディアスもアティアも飲まれへんから残念やな。また飲める歳になったら一緒に飲もや」

「そうですね……」


 アティアが少し生暖かい目でオディリアを見守っている。



 迷宮から出た俺達はすぐにギルド長のディーガンさんの所に行き、迷宮であったことを話した。

 俺とアティアが迷宮に入る時の様子を知っているディーガンさんは、パルネが無事に帰ってきたことを喜んでくれた。


 更にパルネが【トゥウガ】を抜けることも伝えておいた。

 通常、パーティーメンバーの加入や脱退がある時はそのメンバー以外のもう一人のメンバーからの確認が必要なのだが、大体の事情を知っているディーガンさんは特別に許可してくれた。

 そしてギーエン達は何か隠している事があるだろうということで、近くギルドで事情聴取を行ってくれるそうだ。


 ひとまずギルドへの報告を終えた俺達はそのままギルド横のレストランへ行き、オディリアへのお礼に酒を奢っている、という訳だ。


 

 まだ外は全然明るいんだけどね……。


「パルネも飲んだらエエねん。それぐらいの怪我やったら酒飲んだ方が早く治るで」

「そんな訳ありません!オディリアさん!」

「あはは…。また今度ゆっくり飲みますよ、オディリアさん」


 アティアの冷静なツッコミにも動じず、更にジョッキのお酒を飲み干すオディリア。


「で、パルネはあのパーティーは抜けられたけど、この後はどうするんや? ラディアスのパーティーに入るんか?」


 オディリアにそう問われて、パルネの体がピクッと反応し、俺とアティアが視線を向ける。

 視線を向けられたパルネはテーブルに視線を向けたまま、モジモジと話し出す。


「……あの、何も考えてなくて……。冒険者は続けたいけど……。でももう二人には迷惑掛けられないし……」


 ゆっくりと顔を上げたパルネの目には涙が溜まっている。

 アティアがニッコリとパルネの顔を覗き込む。

 

「迷惑じゃないよ、パルネ。私とラディーはパルネを【トゥウガ】から抜けさせたかったし、それが出来たから……。だからパルネはこの後、本当にどうしたいか教えて?」


 顔を伏せたパルネの目から涙が零れ落ちる。

 

「あの……、荷物持ちでも何でもいい……。だから……。ラディーとアティアのパーティーに入りたいっ!」


 アティアがニッコリと俺の顔を見る。

 

「いいよね? ラディー?」

「もちろんだ。歓迎するよ、パルネ」


 弾けたような笑顔になったパルネだったが、またすぐに表情が暗くなる。

 

「でも……。アタシ、本当に役に立たないかも…。それでもいいの?」

「役に立つとか、立たないとか、そういう問題じゃないよ。パルネ。ねっ、ラディー」

「ああ。大きいモンスターには徐々に慣れていったらいいよ。俺達も手伝うし」

「本当に?」

「そうだよ、パルネ。ラディーは泣いてる女の子を見捨てるような男の子じゃないんだよ」

「あはは。女の子って…。私の方が歳上なんだけどね」


 パルネに笑顔が戻った。

 そのやり取りを聞いていたオディリアが話に入ってくる。


「パルネはビビりなんか?」

「えっ? うん。大きいモンスターを見ると足がすくんじゃうの……」

「んー。体の小さいウチら獣人にはよくある話やな。離れてたら大丈夫なんか?」

「うん。ある程度離れてたら大丈夫なんですけど……」

「そしたら、弓手アーチャーとかしたらええんちゃう? そしたら近付かんでもええやん」

「でもアタシ、弓とか使ったことない……」

「誰でも最初は使ったことないねん!試す前から何言うてんねん!なあ、ラディアス」

「そうですね。いい機会だし、試してみたら? 俺とアティアも協力するよ」


 パルネが俺とアティアを交互に見た後、力強く頷く。

 

「そ、そうだね。じゃあ、一回挑戦してみるよ」

「じゃあ明日、早速武器屋にパルネの新しい弓を見に行こっか。いいでしょ?ラディー」

「ああ。そうしようか」


 というわけで、明日の朝は三人で武器屋に行くことに決まった。


 それを見ながらオディリアがジョッキを煽る。

 

「やっぱエエな〜。パーティーって感じがして……」


 オディリアがまるでおばあちゃんのように目を細めて俺達を眺める。

 

「そういえばオディリアさんのパーティーって、ペルグナットに拠点を移すんですよね?何で一ヶ月後に集合なんですか?」

「ああ、なんかリーダーともう一人がやる事があるんやと。ま、それまでずっと一緒におったし、たまには別行動もエエんちゃうってなってな」

「それで一ヶ月後にペルグナットに集合なんですね。【セティボス】は四人パーティーなんですか?」

「そやで。そや!アイツらセティボスが来るまでウチも時間あるし、パルネの弓の練習付き合ったろか?」

「え?いいんですか?」

「おう。全然構へんよ!それにウチはどこぞの守銭奴みたいに金取ったりせえへんから安心し…………ハッ!」


 オディリアが俺達の背後に視線を向けて固まった。

 俺がゆっくりとその視線の先の方に振り返ると、予想通りにこやかな笑顔を向けるジルノートさんがこちらに手を振っていた。


「ジ、ジルノートさん、居たんですね…。良かったら俺達と一緒にどうですか?」

「あらあら?いいのかしら?そこのオディリアは露骨にイヤな顔をしているけど?」


 俺がオディリアの方を見ると、イヤな顔というよりは、イタズラが見つかった子供のような“ヤラカシタ”顔になっていた。


 

 ニコニコと微笑むジルノートさんが俺達のテーブルの方に来て、オディリアの頬をひとつねりして、

 

「せっかくで申し訳ないけど、私はここで失礼させていただくわ。食事も終わってますし。ありがとうね。ラディーさん、アティアさん。あ、それとあまり皆に私の事を変な風に言わないでね、オディリア」

「すいません……、調子に乗りました…」


 

 今日はすぐ謝ったっ!

 

 でもジルノートさんが立ち去った後は、秒でいつものオディリアに戻ってたけど……。



 そのまま食事を続けていると、また違う人物が俺達のテーブルに声をかけてきた。


「お寛ぎの所、申し訳ない。少しいいかな?ラディアス君、アティルネアさん」

「ええ。何でしょうか?」


 柔和な笑顔を浮かべたギルド長のディーガンさんが話しかけてきた。

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