18.念押し
俺を睨みつけるギーエンが拳に握り、俺に向かって突進してくる。
「オラァっ!」
今まで剣だけに頼った戦いしかしたことないんだろう。俺との距離などお構いなしに突っ込んでくる。
大きく振りかぶったギーエンの力任せの右ストレートを軽く躱し、ギーエンと距離を取る。
距離を取ったことでギーエンに少し余裕が出たのか、俺に向かってニヤリと笑う。
「何だ?ビビってんのか? ま、すぐにボコボコにしてやんよ!」
そう言って、再び俺に向かって突進する。
俺の家、サイブノン家はかつて多くの剣士を生み出してきた。その技は剣技だけでなく、戦争における実戦を想定したあらゆる武器……槍や短剣、斧……そして無手による体術まで。
その技は受け継がれてきた。
この俺も幼少の頃から剣だけでなく、様々な武器の扱いや体術の手解きを父上や姉上から受けてきていた。
つまり……
俺は再びギーエンの拳を躱すと、その腕と襟首を掴み、足を引っ掛けて弧を描くようにギーエンの体を自分の背後に向かってぶん投げた。
「がっッ!」
地面に叩きつけられたギーエンが呻く。
仰向けになったギーエンの顔面に、拳を続けて三発打ち込む。
「ぐがっ!」
更に
口から汚い液を吐き出したギーエンが壮大にむせた。
……素手での戦闘素人のギーエンと、俺との力量差は明白だ。
地面に転がり、体を丸めるギーエンからオディリアの方に視線を移すと、あちらも既に決着したようで重戦士は、魔術師の女と仲良く白目を剝いて倒れており、最後の一人となった女をオディリアが絞め落とそうと背後から、その首に腕を回していた。
俺の視線に気付いたオディリアがその女を一瞬で絞め落とし、女が力無く地面に崩れ落ちた。
立ち上がったオディリアが俺の方に向かってくる。
「終わったんか? ラディアス」
「そうっすね……」
オディリアが地べたに
俺とオディリアがギーエンを見下ろし、ギーエンは腹を抑えながら俺達を見上げる。
「気は済んだんか、ラディアス?」
「そうっすね。後はこの人達がもうパルネに関わらないように念を押しておかないと……」
オディリアがギーエンの隣に腰を下ろし、ギーエンの顔を無理やり自分の方に向かせる。
ギーエンは鼻血を出しながら、怯えたようにオディリアを見る。
「という事やけど、もう
オディリアにそう言われ、ギーエンがオディリアと俺を交互に見る。
「わ……分かった…。もう関わらねえ。や、約束する……」
「パルネはもうお前達のパーティーを抜けさせるが、構わないよな?」
「あ、ああ。も、もちろんだ。分かった……」
ギーエンがぐったりと視線を地面に落とすが、オディリアがまた無理やり顔を自分の方に向けさせる。
「もし破ったら、この程度じゃ済まへんぞ。二度と迷宮に入られへん体にするからな、解ったな?」
「ひっ……、わ、解りましたっ」
俺はパルネの治療をしていたアティアの方に移動すると、アティアと視線が合った。
「アティア。パルネは大丈夫か?」
「うん。応急の治療はしておいたけど、大きな怪我はないみたいだから心配ないよ」
パルネはアティアにそう言われ、
「ごめんね、ありがとう。アティア」
「ううん。大したことなくて良かったよ」
パルネは俺と目が合うと、みるみるその目に涙が溜まる。
「ごめん……、ラディアス……」
「別にいいよ。大した怪我がなくて良かったよ」
「……うん。ありがとう。ギーエンが迷宮でラディアス達が待ってるって言うから……。付いて来ちゃったの……」
「そうだったんだな。…じゃあ、あと一つ、お願いしていいか?」
「…うん。何?」
俺は振り返り、まだオディリアが脅しを掛けているギーエンの所に行くと、ギーエンの襟首を掴んでパルネの所まで引きずってくる。
「パルネ。ギーエンに言ってやれ。‘自分は何も見ていない。何も知らない’って」
俺に促されて、パルネはアティアの手を握りながらギーエンの顔を見る。
横たわるギーエンのすぐ隣で俺とオディリアが腰を下ろした。
「ア、アタシは、何も見てない。だ、だからギーエン達が何かしてたとかアタシは知らない…」
「……だそうだ。だからお前らがどんな悪さをしていたか知らないが、パルネは関係ない。金輪際パルネには一切関わらないでくれ」
「わ、分かった。もう関わらない……」
オディリアがギーエンの首根っこを掴む。
「これで話は
オディリアはそう言って、ギーエンを他の【トゥウガ】のメンバーが倒れている方へ乱暴に投げ捨てた。
オディリアは俺達の方に向き直ると、
「よっしゃ! ほな帰ろか!」
俺がパルネを担いで、俺達は袋小路の出口へ向かって歩き出した。
◇◇
地上までの道のりはオディリアがモンスターを蹴散らしていってくれた。
パルネの事があるとはいえ、この人には世話になりっぱなしだな。
地上が近付き、俺が改めてオディリアにお礼を告げると、
「かまへんよ。こんなん。ウチもパーティーメンバーがこの街に着くまでヒマやからな。またいつでも言ってきいや」
「まだメンバー、着いてないんですか?」
「まあ着いてないっていうか、一ヶ月後に集合って約束やねんけど、ウチが早く来すぎただけやねんけどな」
オディリアはそう言って、あはははと豪快に笑い飛ばした。
「さ、やっと地上やな。そや、お礼してくれるんやったら、ラディアスに酒でも奢ってもらおかな」
俺がアティアを見ると、笑顔で頷いたので、
「喜んで。奢らせてもらいますよ、オディリアさん」
「いえーい!」
上機嫌になったオディリアがスキップしながら、地上への階段を上って行った。
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