17.喧嘩

 そこにいた四人……【トゥウガ】の四人だった。

 俺がその四人を仁王立ちで睨みつける。

 ギーエン以外の三人はバツが悪そうに俺達から目を逸らし、ギーエンは面倒くさそうに前へ出て来る。


「こんなトコまで追いかけて来たのかよ?」

「……その袋は何だ?」


 ギーエンを更に睨みつける。

 【トゥウガ】の三人が足元の袋から一歩下がった。

 俺が前に出て行くと、ギーエンがその進路上に立ち塞がる。


「おっと。何する気だ?お前?」

「その袋を確かめる」

「その必要はねえよっ!」


 ギーエンが剣を抜いたと同時に俺に斬りかかる!その一撃を俺が身を屈めて躱すと、目一杯地面を蹴り、【トゥウガ】の三人が囲んでいる袋に一直線に飛んだ。


 虚を突かれた三人が身構えるが、一瞬早く袋に到達した俺が袋を抱えた。

 【トゥウガ】の重戦士の蹴りが俺を襲う。

 俺はその蹴りに左足裏を合わせて防ぐと、袋を抱えたまま体を反転させて跳んだ。


 三人から距離を取った俺に、すかさずギーエンが俺に斬りかかる。

 袋を足元に置き、一瞬で剣を抜いてその一撃を受け止めた!

 鍔迫り合いの状態になり、


「俺らを相手に勝てると思ってんのかっ!」

「……余裕だね」

「あぁっ!?」


 

 鍔迫り合いの状態から前蹴りでギーエンの体を突き飛ばす。後ろに吹っ飛ばされ、態勢を崩したギーエンが片膝を付いて、俺に剣を構える。


 一瞬、やり取りをしただけで分かる。

 ギーエンも後ろの重戦士も俺より弱い。遥かに。

 遅いし、力も弱い。あと二人の女性は恐らく魔術師系だろうけど、それさえどうにかすれば勝てる。

 そう考えていると、足元の袋がもぞもぞと動いた。

 

「ラディー? 助けに来てくれたの?」


 袋から聞こえる声は予想通りパルネだった。

 

「パルネ! 大丈夫か?」

「うん。動けないけど……大丈夫」



 アティアが俺の方に駆け寄り、パルネが入っている袋を開け、パルネを袋から出した。

 中から手足を縛られたパルネが出て来て、アティアがその縛っている縄を切った。


「大丈夫? パルネ?」

「う、うん。大丈夫……」

「ラディー。パルネは大丈夫。見たところ、大きな怪我はないよ」

「……分かった。ありがとう、アティア」


 

 その一連の動きをギーエン達は妨害するでもなく、ただ黙って見ていた。


 俺が凄まじい殺気を【トゥウガ】に向け、牽制した為、動かなかったのではなく、のだ。


 剣先をギーエンに向けた。

 

「アンタ、俺に斬りかかったな?」

「新参者がナメた口、聞くんじゃねえよ」


 ギーエンが俺の殺気に押されまいと、少し前に出る。

 睨み合いが続いたが、突然その袋小路に声が響いた。


 


「そこまでや! お前ら!」


 袋小路の入口を振り返ると、そこにはオディリアが腕組みをして立っていた。


 

 ……全く気配を感じなかった……。


 オディリアは腕組みをしたまま、俺と【トゥウガ】を交互に見ながら、俺達の方に近付いてくる。


「冒険者同士の殺し合いはご法度や。そこまでにしとき!」

「あぁ? 何だ、テメェは?」


 ギーエンがオディリアに凄むが、すぐに彼女の首元にある冒険者タグに気付く。


「……Aランク!?」

「せや。ウチは別にギルドの職員でも憲兵でもない、ただの冒険者やけどな。冒険者同士の殺し合いを黙って見過ごすようなアホはせえへん」


 オディリアはそのままスタスタと歩き、パルネの側に来る。

 

「今度は大した怪我はしてへんみたいやな」

「あ…、ありがとうございます」

「いや、ウチは何もしてへんし。怪我しとったら、またあの守銭奴にたかられるトコやったからな。良かったわ」


 

 守銭奴って……。ジルノートさんにまた怒られるよ?


 

 ギーエンが明らかに焦りの色を見せて、仲間の方を見る。

 オディリアがギーエンの方に向き直る。


「さて……。お前らはどうする気なんや? もうこのパルネには一切、関われへんってゆうんやったら、別に見逃したってもええけどな」


 

 ギーエンが俺とオディリア、交互に視線を移す。

 更にオディリアが続ける。

 

「ま、ウチが見逃してもラディアスは見逃さんやろ?」


 ニヤリと笑ったオディリアが俺を見返す。

 

「……当然です」

「ほな、どうする?ラディアス」


 俺はアティアの側に剣を投げた。

 

「アティア。少しの間、その剣を預かっておいてくれ」

「え? うん。分かった……」


 

 拳を握り、オディリアに見せる。

 

「殺し合いはダメなんですよね? じゃあ、コレで叩きのめします」


 

 オディリアが更にニヤリと笑い、背中に背負ったハルバードを地面に置いた。


「それはええアイデアやな。悪さする奴をお仕置きするにはコレが一番やな」


 無手になった俺とオディリアがギーエン達と向かい合う。

 ギーエン達が身構えた。


「あ? 丸腰で俺達の相手するつもりか?」

「ああ。だからな。コレなら死なないだろ?」

「そやなラディアスの言う通りや。これはちゃうで。そやな……、喧嘩やな」


 俺とオディリアが喋っている間、ギーエンの後ろの魔術師の女が何かの呪符を用意しているのには気付いていた。

 その魔術師が呪符を俺達に向けて投げた。


「調子に乗るんじゃないわよっ!」


 空中に浮かんだ呪符から魔法が発動しようとする瞬間、


電撃ヴァルボット!!」


 俺の雷撃魔法をその呪符にぶつける。


「はっ? 無詠唱だと!?」


 

 驚きの声を上げるギーエンの横をオディリアが駆け抜ける。

 呪符を投げた魔術師の顔面を平手で叩くと、そのまま魔術師の体を後頭部から地面に叩きつけた。


「がはぁっ!」


 オディリアに叩きつけられた魔術師は、白目を剝いて気を失った。

 オディリアの電光石火の動きにギーエン達が立ち尽くす。

 オディリアが俺に向かって、


「ラディアス! 他の三人は任せとき!」


 オディリアに気を取られたギーエンの、剣を持つ右手を蹴り上げた。

 剣を弾き飛ばされたギーエンが慌てて俺の方に向き直る。そして驚きの表情を見せるギーエンに向かって、


「こっからは殴り合いだ!ギーエン!」

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