16.消えた五人
ギルドに着いた俺とアティアがカウンターに駆け込む。
「あの……!パルネ、来ませんでしたか?」
突然俺に尋ねられた職員がキョトンとしている。すかさずアティアが俺を制止して、職員に事情を説明する。
「そうですか……。ですが、規則で他の冒険者の方にお教えすることは出来ないんです…」
「迷宮に入っているか、どうかだけでいいんです。何とかなりませんか?」
アティアが職員に食らいつく。
そこへカウンターの奥の扉からディーガンさんがカウンターに出て来るのが見えて、俺が手を上げてディーガンさんを呼ぶ。
「どうしました? お二人とも」
俺達の所に来たディーガンさんが、すぐに対応してくれた職員から話を聞いてくれた。
「なるほど…。分かりました。君、今朝【トゥウガ】が迷宮に入ったかどうか、見てくれたまえ」
「はい。分かりました」
「ありがとうございます。ディーガンさん!」
「いえ、昨日の今日ですから……。私個人としても心配ですから……」
職員の女性が石板を見ながら、
「【トゥウガ】は今朝、迷宮探索に下りています。えっと、五人とも探索に出ていますね」
五人っ!?
パルネも一緒に迷宮にっ!?
「ラディー!」
「ああ。追いかけよう」
俺とアティアはすぐに探索の手続きをして、カウンターを去ろうとすると、ディーガンさんが声を掛ける。
「ラディアス君、アティルネアさん。くれぐれも気をつけてください」
「はい! ありがとうございます」
俺達は迷宮の入口に駆け下りて行った。
【トゥウガ】が迷宮に下りたのは二、三時間前。今、何階層にいるのか、どの階層に向かっているのかも分かっていないけど、俺達は最短で2階層へと下りて来た。
「待って! ラディー!」
アティアに呼び止められて、俺が足を止める。
「私が精霊魔法でパルネを探すから。少し待ってて」
アティアはそう言うと、足元の地面に魔法陣を描いていく。
「ラディー。この魔法はかなり魔力を消費するの。たぶん私の魔力はほとんど空っぽになると思うから、後はよろしくね」
「分かった。アティア、頼む」
アティアは俺に微笑むと、魔法陣を書き終えて魔法の詠唱を始めた。
小さく深いアティアの詠唱が聞こえる。
「……土の精霊よ。盟約に従い於いて、我が求めし処を示せ!」
アティアが頭上に上げた腕を振り下ろし、両手を前に突き出した態勢になる。
ほのかに光る足元の魔法陣からアティアの手の平に向けて、光が吸い上げられていく。
アティアは目を閉じて、集中力を研ぎ澄ましているようだった。
アティアの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
声をかけそうになったが、集中を途切れさせてはいけないと思い、堪えた。
魔法陣の光が収まり、アティアが崩れるように片膝をついた。俺がすぐに側に駆け寄る。
「大丈夫かっ?アティア!」
「うん……。思ったより情報量が多かったね…。でも大丈夫…」
口を手で抑えるアティアの顔を覗き込むと、アティアの足元に血が滴り落ちた。
アティアは集中し過ぎて鼻血を出していた。
すぐに袋から綺麗な手拭いを取り出し、アティアに渡す。
「歩けるか? アティア」
アティアは手拭いを受け取ると、ゆっくりと立ち上がる。
「うん。もう大丈夫……。すぐにこんな手拭いを出せるなんて、さすがラディーは紳士だね」
「言ってる場合か!」
「えへへ。でもパルネの場所は分かったよ。今は9階層にいる。で、10階層に下りる階段に向かって移動してるよ」
「よし。じゃあ、すぐに行くぞ」
「うん!」
俺達はすぐに3階層へ下りる階段へ向かった。
迷宮の奥に向かう道中で、俺がアティアに尋ねる。
「どうやってパルネの居場所を特定したんだ?」
「捜索系の精霊魔法の応用だよ。対象の一部分があれば場所を特定出来るの」
「対象の一部分って、パルネの?」
アティアが小さな紙の包みを俺に見せる。
「この中にパルネの髪の毛が入ってるの。万が一の為に取っておいたの」
「おぉー。流石だな」
俺が感心すると、
「ラディーの髪の毛ももう取ってあるから、もし迷子になっても大丈夫だからね」
「……えっ? そうなの?」
「うん。だから安心してね」
……抜かりないなと、思ったと同時にいつの間に取ったんだ?という疑問が俺の頭の中をよぎったが、目の前に現れたモンスターがその思考を遮った。
「モンスターだよ! ラディー! 私は魔法使えないから、よろしくね!」
「おー。任せとけ!」
俺が現れるモンスターを蹴散らして、俺達は最短ルートで9階層へと向かって行った。
ほぼ無傷で9階層まで下りた俺達はそのまま10階層へ下りる階段へと向かう。
「さっき感じたパルネの場所はここだったんだけど……」
そこは10階層へ下りる階段へ続く回廊だった。周りを見回すが、壁などには隠れる場所も無いし、幻視魔法で通路が隠されているわけでもなかった。
「やっぱり10階層へ下りて行ったみたいだな」
「うん。そうだね」
俺達は10階層へ下りる階段に向かって行った。
10階層へ下り、俺達は前にトラップルームがあった場所に向かった。
その間もアティアは最小限の魔力を使い、周りの索敵を行う。
しばらく進むと、前を歩く俺の腕をアティアが掴んだ。そして小声で、
「ラディー。そっちじゃない。あっちから物音…がする」
アティアが回廊から外れた通路を指差した。
俺は無言で頷き、アティアが指差した方に向きを変える。
思ったよりも入り組んだ通路を周りの気配に注意しながら進んで行く。
どんっ!
何かがぶつかる音。
そして押し殺した数人の話し声が聞こえてきた。
「もうこのぐらいで大丈夫じゃね?」
「そういや、この通路の入口隠してたか?」
「あ、忘れてた。でもこんなトコ、誰も立ち寄らねえだろ……」
袋小路になった通路の行き止まり。
そこにいた四人と、俺は目が合った。
その四人の足元には乱暴に扱われ、泥だらけになったひと抱えほどの袋が転がっていた。
怒りで俺の手が震える。
「……お前ら、そこで何してる?」
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