14.憶測と恐慌
アティアがパルネのベッドのすぐ側に座り、パルネの頭を撫でる。
「良かった……。もう大丈夫ですね」
「傷は私の魔法でほぼ完治しているから、大丈夫ですよ。かなり血を失ったみたいだけど、しばらくすれば意識も戻るでしょう」
「ありがとうございます」
アティアがジルノートさんにお礼を言う。
「いいえ。では早速、治療費を……」
「だあぁぁ!ええやろ!ジル!ウチと同族の娘やねん!サービスしたってや」
「そういう訳にはいきませんよ。どんな種族でも冒険者ですから。ちゃんと頂かないと……」
俺が慌ててオディリアとジルノートさんに話し掛ける。
「治療費、支払いますよ。おいくらになりますか?」
「あらあら、ほら。オディリア。ちゃんと支払ってくれるみたいですよ?」
「うー。ラディアス……。金額聞いて、腰抜かすなや……」
……うっ。そう言われると、ちょっと腰が引ける。
「治療費は五十万です。ビタ一文まけません」
「この守銭奴が……。誰や、この守銭奴に女神なんて称号付けた奴……」
「聞こえてますよ、オディリア」
五十万……。俺とアティアのこの二日間の魔晶の買取り金を足しても半分ぐらいにしかならないな……。
アティアがすっと立ち上がった。
彼女は懐の袋に手を入れると、数枚の金貨を取り出した。
「こちらで五十万…あると思います」
その金貨をジルノートさんに差し出した。
ニコニコと笑顔を浮かべるジルノートさんがそれを受け取る。
「うん。良い心掛けです。支払いがいいと気持ち良いですね。ありがとうございます」
オディリアがアティアの方に振り返る。
「ええんか?アティア」
「ええ。もちろんです。治療していただいたのですから当然ですよ」
「ホンマ、ごめんな。早く治療したらな、と思って確実に治癒出来る
「いえいえ。ジルノートさんじゃなかったら、パルネは危なかったかもしれませんから」
ジルノートさんはニコニコ笑顔のまま、
「確かにアティアさんの言う通りね。もう少し遅かったり、弱い治癒魔法だったら危なかったかもしれないね」
「ホンマか?ジル」
「私、守銭奴だけど嘘は言わないわ」
パルネの状態も落ち着き、治療費の支払いも終わった所で、ディーガンさんが話に入って来る。
「確かにギルドの治癒師では、こんなに完璧には治療出来なかったかもしれん。結局、街の治癒師の所に連れていかねばならんかったかもしれんな」
「そうですか、ありがとうございました。ジルノートさん」
「いえ、また何時でもどうぞ」
ジルノートさんが俺にニッコリと微笑む。
瞳の色はあまりよく見えないけど、青い髪に透き通るような白い肌がとても印象的な、とんでもない美人だった。
ハーフエルフなのかな……?耳が少し尖っていた。
ディーガンさんがベッドに横たわるパルネに視線を落とす。
「ところで、ラディアス君。パルネさんはモンスターにやられたのかね?」
「いいえ。迷宮内の罠……、自動で発動する魔法にやられました」
「うむ。それは何階層かね?」
「10階層です」
ディーガンさんが顎に手を当てて考え込む。
「その罠のあった部屋は最初、幻視魔法で隠されていました」
「何!?意図的に隠されていたのか?」
「はい。そうです」
ディーガンさんは更に深く考え込む。
オディリアがそのやり取りを聞くと、
「冒険者やな。冒険者が他の冒険者出し抜く為にトラップルームを作りよったな」
「じゃあ、俺達は誰かが作った罠に?」
「ああ。罠を仕掛けるモンスターなんて聞いたことないからな。まあ、ペルグナットにはおるかもしれんけど?」
「いや、ペルグナットでも聞いたことはない。そんなモンスターがいれば必ず私の耳に入ってくるはずだ」
ディーガンさんが答える。
更にディーガンさんが言葉を続ける。
「ラディアス君、アティアさん。そのトラップルームの場所や特徴を教えてくれないか?」
俺達はディーガンさんに尋ねられ、トラップルームの場所や大きさなどを出来るだけ正確に伝えた。
「あとコレ……。その罠を発動させた呪符の切れ端です」
俺はあの部屋を出る時に咄嗟に拾った呪符を出した。ディーガンさんがそれを手に取ると、かざしてみる。
「ふむ。確かに魔法封印の呪符だな……」
「何か分かりますか?」
「うむ。これだけでは使用者は特定出来んな」
「……そうですか」
俺はそういう風に答えたが、アティアと目が合った。
俺達には確信があった。あのトラップルームに行く少し前、不自然な時間に会ったあの男。
……ギーエン。
俺とアティアは目を合わせたまま小さく頷いた。
「いずれにしても、冒険者が他の冒険者を妨害したとあれば、立派な違反行為だ。この件はギルドでもしっかり調べさせてもらうよ」
「……お願いします」
「それと……パルネさんの意識が戻るまで、この医務室を使うといい」
ディーガンさんはそう言い残すと、医務室を後にした。
「それじゃ、私達も行かせてもらおうかな……」
ジルノートさんがそう言いかけて、オディリアと共に立ち去ろうとすると、ベッドの上のパルネが咳き込んだ。
慌ててアティアが駆け寄る。
「大丈夫っ? パルネ?」
「ゴホッゴホッ……。あ、……アティア?ここは?」
「地上だよ。ギルドに戻って来たよ。だからもう安心していいよ」
アティアに優しく声をかけられ、パルネは安心したのか、その目にみるみる涙が溜まっていく。
「うわ〜〜ん!ごめんよー、アティアー」
パルネがアティアに抱きついて大声を上げて泣き出した。アティアも優しくパルネを受け止め、
「うんうん…。もう大丈夫だよ、パルネ」
俺の隣でジルノートさんが小さく呟いた。
「……これはちょっと、厳しいかもしれませんね……」
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