12.トラップルーム
俺が最後に残ったジャイアントバットを両断して戦闘が終わった。
初めて10階層に着いて、もう数回ほどモンスターと出くわしたが、全く危なげなく探索を進めることが出来ていた。
6階層以降は確かにモンスターは強くなっていたが、俺とアティアの相手ではなかった。
今の俺達なら10階層でも問題ないな。早くDランクに上がって探索階層の制限を解除してもらわないとな。
俺達はパルネの記憶を頼りに10階層の奥へと進んで行った。
先頭に立つパルネはキョロキョロと周りを見回しながら、迷宮の回廊を確認していく。
最初、先頭に立つのを怖がったパルネだったけど、俺とアティアの強さを見て、だいぶ余裕が出てきたようだった。
10階層に下りてから小一時間が過ぎ、パルネの歩き方が少し変わった。
「ラディー。アティア。もうすぐだよ。もう近くまで来てる」
そうして回廊を進んでいき、しばらくしてパルネが立ち止まった。
「着いたのか?」
「……ううん。この辺りのはずなんだけど……」
パルネはそう言いながら、辺りを見回す。
そして壁の岩肌を触りに行く。
すると、壁を触ろうとしたパルネの手がその岩肌をすり抜けた。
「!? 幻視魔法か?」
俺がパルネに続いてその岩肌を触ろうとすると、スルッとすり抜ける。隣でアティアも確かめる。
「うん。この奥に通路が隠されてるみたい」
「パルネ。前に来た時にもこんな目隠しされていたか?」
「ううん。前は普通に通路になっていたはずだよ」
じゃあ、最近ギーエンが通路に幻視魔法を施して隠したということか……。
ますます怪しいな。
俺達三人はその幻で作られた壁を抜け、中の通路へと入っていった。
通路を抜けると、そこに小さな部屋のような空間があった。
「うん。やっぱりここだよ。で、あの辺りに何かを隠していたのを見たの」
パルネが部屋の一角を指さした。
俺が先頭に立ち、アティアとパルネがその後に続く。
……カチ。
?何だ? 今の音は?
そう思った瞬間、俺は魔力の流れを感じた。
「きゃあっ!」
振り返ると、部屋の左右の壁から飛び出した土の槍が俺達に向かって飛んできていた。
「くそっ!」
俺は剣を抜いて、その飛んでくる槍を叩き落とす。続いて第二射が向かってくる!剣を振って叩き落とす!
……カチ。
また!?
体のかなり近くで魔力の収縮を感じた。
足元かっ!
俺は咄嗟にアティアとパルネの方に飛び、二人の体を抱えて更に飛んだ。
二人の体を抱えたまま倒れ込んで振り返ると、さっきまで俺達がいた場所の地面から鋭い土の槍が飛び出してきていた。
俺は二人の体から手を離し、周りを警戒する。
魔力の流れが止まった。
どうやらこの場所には自動で発動する
アティアが魔法を放った。
「レジスト!」
かけられた魔法を無効化する
アティアはその魔法を部屋全体に向けて放った。
片膝をつきながら周りを警戒する。
目の前に数枚の紙が落ちてきた。
呪符? 自動で魔法が発動するアイテムか!
俺は素早く魔法を唱える。
「
雷撃の剣でその落ちてきた呪符を全て斬り刻んだ。すると地面から飛び出してきていた土の槍がその形を崩した。
俺は立ち上がり、他に呪符がないか確認するとアティアが俺を呼ぶ。
「ラディー! パルネがっ!」
振り返ると、パルネの体を抱えたアティアが座り込んでいる。
パルネの体から出血が見える。
初撃の土の槍を何発か食らったようだ。
慌てて俺が駆け寄る。
「大丈夫かっ! パルネ!」
意識が朦朧としているのか、焦点の合わない視線を俺とアティアに向ける。
「アティア! 回復魔法を!」
「うん。分かった!」
アティアが出血が多いパルネの腹部に手をかざし、魔法の詠唱を始める。
パルネが何か喋ろうとしている。
「ア……ティア、ごめん……ね」
「喋るな。パルネ! 今、アティアが回復魔法をかけているから!」
だが、パルネの出血は収まらない。
パルネの服にみるみる血が広がっていく。
アティアの回復魔法じゃ追い付かない!
俺はアティアの肩に手を掛ける。
「アティア。すぐに地上に帰還するぞ」
「う、うん。分かった」
俺達はパルネの傷口に出血を抑える応急手当てだけして、俺がパルネを背中に乗せて立ち上がる。
「アティア。出来るだけ魔法で周りを索敵してくれ。モンスターを避けて地上まで最短で戻る!」
「分かった!」
重傷のパルネを抱え、部屋を飛び出した。
アティアがその後に続く。
この部屋を隠していた幻視魔法はさっきのアティアの魔法で消えていたようだった。
回廊に出た俺達はすぐに9階層に上がる階段の方に向かって行った。
「おい。アンタら。大丈夫か?」
階段へ向かう回廊の隅から不意に声を掛けられて、その声の方に振り返る。
そこには大斧を背負った小さな赤髪の女性が壁にもたれて座り込んでいた。
女性が立ち上がり、こちらに近付いてくる。
冒険者か? こっちは今、急いでるのに!
「その背中の子、怪我してんのか?」
そう話し掛ける女性の頭にパルネと同じような獣耳があるのが見えた。
その赤髪の女性が更に近付く。
俺達が身構えると、女性は立ち止まり、両手を体の前でぶんぶんと振る。
「ちゃうちゃう。何もせえへんよ! それよりその子、獣人やろ? めっちゃ怪我してるんちゃうんか?」
「ああ。そうだよ! だから急いでるんだ、後にしてくれ」
俺は階段の方は歩き出す。
すると、その女性は音もなく俺の隣に並ぶ。
「状況はよう分からんけど、手伝うわ。ウチは回復魔法は使われへんけど、急いで地上へ戻るんやろ?」
「ああ。そうだ」
「最短ルートで戻るの手伝ったるわ。行くで」
女性は俺の前に出て歩き出した。
そのまま女性が顔だけをこちらに向ける。
「ウチはオディリアや。その子の同族のよしみで助けたるわ。アンタら、しっかり付いてきいや」
そう言って赤髪の獣人の女性オディリアは再び前を向いた。
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