11.置き去りの理由

 パルネから迷宮で一人になってしまった状況を聞いた俺とアティアの見解はこうだ。

 パルネは斥候スカウトとして単独先行するので、パーティーからはぐれる可能性は一番高い。

 だからギーエンはパルネを置き去りにしやすかったと思うんだが、問題はその動機だ。


「置き去りにされる理由に何か心当たりはある? パルネ」

「……うーん。やっぱりアタシが役に立たないから……かな」

「大きいモンスターを見ると、足がすくんじゃうってこと?」

「うん。索敵に行って、モンスターを見つけて動けなくなるなんて偵察失格だもんね…。ははは」


 

 パルネが自嘲気味に笑うが、アティアは全く表情を変えずにパルネに話し掛ける。


「そんなことないよ。大きいモンスターだってそのうちに見慣れると思うし……。そんなことでパルネを置き去りにするあのギーエンって人のパーティーがおかしいよ」

「はは、ありがとう。アティア」


 

 果たしてそれだけなのか……、それだけの動機で?

 目を伏せるパルネに俺が尋ねる。

 

「パーティーの足を引っ張るだけの理由だったら、パーティーを辞めさせればいいだけだ。だけど今回の置き去りは完全にパルネが死んでも……いや、殺そうとしてたとしか思えない。他に何か、心当たりはないのか?」


 死という単語を聞いて、パルネが一気に怯えた顔になり、パルネの肩にアティアが優しく手を添える。


「ラディー。もうちょっと言葉を選んで。パルネが怖がってるよ」

「う…。ごめん」

「ううん。大丈夫だよ。ラディー。ごめんね」


 少し考えたパルネが少し話しにくそうに、

 

「ん…とね、実は一週間ぐらい前にこんな事があったの」


 

 詳しく話を聞くと、一週間ほど前に10階層でギーエンに指示されて、パルネがパーティーを離れて単独で周辺警戒をしたそうだ。


 それでパーティーの方に戻ると、ギーエン達が迷宮の一室で何かアイテムを隠しているのを見つけた。

 パルネがそのことをギーエンに尋ねると、

 

「売り物にもならない、不要になったアイテムを捨ててるだけだ。気にするな」


 そう言われて、パルネは【トゥウガ】の仲間と一緒にその部屋を離れたらしい。


「思いっ切り怪しいね。その部屋……」

「ああ。何か見られたくないものを見られたからパルネを消そうとしたのか?」


 パルネが体を震わせる。

 

「ええ!? でもアタシ、何を隠してたとか見てないよ!?」

「でも、ギーエンは見られたと思ってるかもよ」

「えぇ〜……。見てないのに……」


 

 俺は少し考えて、

 

「パルネ。その部屋の場所は覚えているか?」

「んー。大体の場所は覚えてるけど、ちゃんとは覚えてないかな…。ごめん」

「いや、大体でも構わない。よし、明日早速その部屋を三人で見に行こう」

「そうだね。たぶんその部屋に、パルネが置き去りにされた理由があるかもしれないもんね」

「え? いいの?二人とも」


 パルネが俺達の顔を交互に見る。

 

「ああ。Eランクに昇格して10階層まで下りれるようになったからな。問題ないよ」

「そうだよ、パルネ。明日三人でその部屋に何があるのか確認しに行こうね」

「う、うん。ありがとう。二人とも」


 翌日、俺達はギーエンが何かを隠していたという10階層に行く約束をして解散した。


 ◇◇


 翌朝、ギルドに集まった俺とアティアとパルネはすぐに迷宮に入り、10階層を目指して下りて行った。

 パルネは斥候スカウトだが、偵察や索敵はさせずに、三人固まって行動した。

 パルネは戦闘にも参加させずに現れるモンスターは全て俺とアティアで倒していった。


 

 

「スゴいね、二人とも。本当にEランクに上がったばかりなの?」


 俺の剣とアティアの精霊魔法でほとんど一瞬で戦闘を終わらせていったので、パルネが驚きながら聞いてきた。

 

「ああ。昨日、昇格したばかりだぞ?」

「ホントに? 【トゥウガ】より強いよ、二人とも」


 まあ、俺もアティアもかなりの英才教育を受けてきてるからな。おそらく実力だけならEランクなんか軽く超えているのは分かっていたけどな。


 そして順調に階層を下っていき、8階層から9階層に下りた時に9階層の奥からこちらに近付いてくる気配に気付いた。


 

 モンスターか? いや、他の冒険者か?


 俺が警戒をしていると、向こうも俺達の気配に気付いたようでこちらを警戒しながら徐々に近付いてくる。


 

 四人パーティーか……?


 そのシルエットから向こうから近付いて来るのが四人のパーティーだと分かった俺。

 相手の顔が認識出来る距離まで近付いてくると、パルネがあっと声を上げた。


「やあ。ラディアス君とアティルネアさんじゃないか」


 その声の主はギーエンだった。

 昨日と同じようにわざとらしい笑顔を俺達に向けながら近付いてくる。

 すぐにパルネが俺とアティアの後ろに身を隠した。


 ギーエンはその笑顔を保ったまま、

 

「そんなに怖がるなよ、パルネ。何もしやしないさ」


 ギーエンは両手を広げながら、俺達に近付く。他の三人はギーエンから少し後に付いてきているが、昨日と同じように俺達には視線を合わせようとしない。


 

 何故、この時間、こんな所に【トゥウガ】がいるんだ?

 俺は警戒を解かず、【トゥウガ】の全員を観察する。

 俺のその気配を察したのか、ギーエンは立ち止まり、後ろの三人も立ち止まる。


「ラディアス君。そんなに警戒しないでにくれよ。俺達は今から帰還するところなんだ。そこを通してくれるだけでいいだけどね?」


 

 俺とアティアが目を合わせ、パルネと一緒に横へ移動して【トゥウガ】に道を譲った。


「悪いね。じゃあ通らせてもらうよ」


 

 【トゥウガ】が俺達の横を通り過ぎ、後方の階段へと向かったが、その間もギーエンは陰湿な笑顔は崩さず、他の三人はこちらを見ようともしない。


 

 階段にさしかかり、ギーエンが俺達の方に振り返る。

 

「君達は今から10階層まで下りるのかい?」

「あんたに教える必要はないな」

「うん。確かにそうだね。じゃあ、俺達は一足先に上がらせてもらうよ。ご武運を……」


 階段を登っていく【トゥウガ】のメンバーを俺達はその姿が見えなくなるまで見送った。

 【トゥウガ】が完全に見えなくなると、パルネが大きく息を吐き出した。


「パルネ。大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ、アティア」


 あいつらトゥウガこんな時間に迷宮探索をしてたのか?


 疑問に感じたが、俺達は10階層へ下りる階段を目指して歩き出した。

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