8.三人で帰還
12階層……。
パルネはEランク冒険者だから12階層には下りれない。ということは……。
「パルネのパーティーにはDランク以上の冒険者がいるのか?」
「うん。三人がDランクだよ」
パルネのパーティー【トゥウガ】は五人パーティーで半数以上がDランクだから、11階層より下層の探索が許可されているということか。
例外もあるらしいが、基本的に探索可能階層はこのルールに従って決められる。
でもEランクのパルネが一人で、12階層からこの5階層まで逃げて来れたのは運が良かったとしか言いようがない。
そしてあの危機一髪の状況で俺達に出くわしたことも含めて……。
「パルネの
「アタシは
言い淀むパルネにアティアが優しく問い掛ける。
「けど? どうしたの?」
「うん。偵察とか索敵をするんだけどね、大きなモンスターを見るとどうしても怖くなっちゃって……その、足が震えちゃうの」
斥候は仲間から先行して偵察や索敵を行い、いち早く仲間に危険を知らせるのが役割りだ。
その役割りの者がモンスターを見つけて足がすくんでは、話にならないだろうな……。
俺は周りを見回してから、パルネに視線を戻す。
「パルネ。もう歩けそうか?」
「う、うん。もう大丈夫…」
「よし。じゃあ、俺達と一緒に地上に戻ろう。いいよな? アティア」
「もちろん」
「え? 【トゥウガ】は? アタシを探してるかもしれないし……。アタシだけ戻っても……」
「Dランクのパーティーなんだろ? 探してるかもしれないけど、まずはパルネが無事じゃないと話にならない。その【トゥウガ】の仲間には俺達からも説明するから心配しなくていいよ」
パルネはまだ少し不安そうな顔をしているが、アティアの肩に掴まりながらゆっくりと立ち上がった。
「ごめんね。ありがとう。ラディー、アティア。アタシ、二人と一緒に地上に戻るよ」
俺とアティアが頷いて、応える。
俺達三人は4階層へ上がる階段に向かって歩き出した。
◇◇
俺達三人は極力、戦闘を避けて順調に1階層まで戻って来れた。
昨日と比べると、手に入れた魔晶の数はかなり少ないが、一つ一つは少し大きい魔晶だった。
今日は主に1階層よりもモンスターが強い2から4階層で戦ったからだろう。
倒すモンスターの強さや大きさによって、魔晶のサイズや純度も比例するらしい。
帰り道はアティアとパルネは全く戦闘に参加せずに、アティアが精霊魔法で索敵をして、モンスターとの遭遇を避けたので、少し回り道になってしまった。
地上へ上がる階段まであと少しという所で、パルネがアティアに尋ねる。
「えと、地上に帰ったら二人に何かお礼がしたいんだけど……、何がいいかな?」
俺とアティアが目を合わせる。
「そんな礼なんていいよ。迷宮ではこういう事もあるんだし……」
「ダメだよ、アティア。何かさせてよ!」
アティアが少し困った顔で俺を見る。
「う~ん。やっぱり何も思いつかないよ。だから何でもいいよ、パルネ」
「え〜、そうなの? 分かった。んー…」
パルネが顎に手を当てて、宙を見ながら考える。
「分かった! じゃあ、一杯奢らせて! ねっ!」
俺は思わず、んっ?とパルネを見る。
「いや、俺達は酒は飲めないんだ。というか飲める年齢じゃないよ」
「え!? そうなの?」
「てゆうか、パルネはお酒飲めるの?」
アティアがパルネの顔を覗き込みながら聞いた。
「え? 飲めるけど……。二人って
「16」
「私も……」
パルネが大袈裟に驚く。
「えっ! そうなの!?」
「そんなに驚く? でもパルネだって同じような歳でしょ?」
「アタシ21歳だよ」
今度は俺達が大袈裟に驚いた。
「うそっ? 歳上? しかもお兄様と同じ歳なの?」
どうやらお互い予想していた年齢に誤差があったみたいだ。
アティアが笑顔で、パルネの頭を撫でる。
「じゃあ、私達はちゃんと敬語で話さなきゃだね。パルネお姉さん」
「や、止めてよ! アティア。普通に喋ってくれたらいいよー」
頭を撫でられて嬉しそうなパルネが、
「じゃあ、お酒は諦めるから食事を奢るね」
「そんな気を使わなくていいよ」
「いや、ダメだよ。アティア。歳上の言う事は聞いてください」
パルネが目一杯背伸びをしてアティアの頭を撫で返した。よっぽど可笑しかったのか、アティアが声を上げて笑う。
「あははは! 分かりました。それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます。いいよね、ラディー」
「ああ。そうだな。そうさせてもらおっか」
「決まりね。二人は冒険者宿にいるの?」
「ああ。ギルドに紹介してもらった宿屋を使ってる」
「それじゃ、アタシの宿屋とも近いね。近いうちに奢るから、楽しみにしててね」
ニコニコと嬉しそうに話し、アティアと並んで歩くパルネはとても楽しそうだった。
俺達三人は地上へ上がる階段にたどり着き、地上へ上がるとすぐにギルドのカウンターへ向かった。
俺達が獲得した魔晶を提出し、今日の探索終了を職員に伝えていると、その職員の後ろからディーガンさんが静かに姿を表した。
「お疲れ様。ラディアス君。アティルネアさん」
「あ、お疲れ様です」
不意に声を掛けられて、俺はディーガンさんの存在に気付いた。
この人、体は大きいんだけど何故か気配を感じにくいんだよなー。
ディーガンさんが、カウンターに置かれた俺達が持ち込んだ魔晶を数える職員の手元を覗き込む。
「うむ。これだけあれば充分だね。君、この二人はEランクに昇格だ。新しいタグを用意してあげて」
俺がキョトンとした顔をしていると、ディーガンさんが眉を上げる。
「おや? どうした? おめでとう。ラディアス君。アティルネアさん。君達はEランクに昇格だ」
「あ、ありがとうございます」
「どうした? 何か意外そうだな」
「え、はい。こんなにあっさりしたものなんだな、と思って……」
ディーガンさんが笑顔で俺とアティアを見た。
「ははは。そうだね。Sランクに昇格する時にはもうちょっと華々しくさせてもらうよ」
「いや、そういうつもりじゃないんですけど……」
「冗談だよ。ではこれからも早く昇格出来るよう、無理せん程度に頑張ってくれよ」
「分かりました。ありがとうございます」
ディーガンさんは前と同じように無理をしないようにと、釘を刺してきたな。
「でもこれで10階層まで下りれるね、ラディー」
「そうだな」
カウンターのギルド職員が魔晶を数え終えると、買取り金とEランクの新しいタグを作るから俺達に少し待つように言って、カウンターの後ろに入っていった。
俺とアティアが魔晶の買取りをしている間、少し離れたカウンターでパルネが別のギルド職員に今日の探索終了の報告をしているのだが、そのパルネの顔が青ざめていた。
ただならぬ様子に俺とアティアがパルネの元に行く。
「パルネ。どうしたの? 何かあった?」
アティアに声を掛けられて、パルネがハッと俺達に気付く。
かなり動揺しているようだ。
「アティア……、ラディー。あの……、【トゥウガ】がもう帰還してるって……」
えっ? 何で?
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