6.初遭遇

 初日の迷宮探索を終えて地上に戻った俺達はギルドの魔晶買い取りのカウンターへと向かった。

 探索終了の手続きを済ませ、魔晶買い取りカウンターでこの日に採れた魔晶を全て袋から出して、カウンターに並べる。


 カウンターの女性がその魔晶を見て、一瞬驚いた表情を浮かべると、何度か俺達の顔と手元にある石板とを見比べる。


 

 ん? 何か問題でもあったのか?

 俺とアティアが顔を見合わせていると、その女性は石板を見ながら、

 

「えっと……今朝、迷宮に入って今日だけで集めた魔晶ですよね?」

「はい。昨日、登録したばかりで今日が初探索だったので……。何か問題でも?」

「いえ。サイズは小さい魔晶ですが、今日一日で集めたにしては凄い数だなと思いまして……」


 

 集めている時は数を数えていなかったが、カウンターに並べて女性が数えると、魔晶は251個あった。

 後で聞いたところによると、これは一日で一パーティーが持ち込む平均の五倍の数らしい。

 つまり普通のパーティーであればこの数の魔晶を集めるのに五日近くかかるとのことだった。


「まあでも、弱いモンスターばかりだったんで……」


 実際に俺もアティアもほとんどのモンスターを一撃で倒していたので、そのままを伝えると、女性は笑顔を引きつらせた。


 俺達は買い取ってもらった魔晶の代金をもらい、そのままギルド内にあるレストランで夕食を食べてから、宿屋に帰ることにした。


 

 冒険者たちで賑わうレストランでの食事は、田舎育ちの俺達にはどうにも落ち着かなかったので、食事を終えると早々にそのレストランを後にした。


「それじゃ、また明日ね。ラディー」

「ああ。おやすみ」


 ◇◇


 翌朝、昨日と同じように朝から混み合う受付を終えて、迷宮の入口に向かおうとすると、カウンターからギルド関係者らしき、見知らぬ男が声をかけてきた。


「君達が昨日、200個以上の魔晶を持ち込んだという二人組かね?」

「ん? はい。そうですが……」

「急いでる所、申し訳ないが少し時間をくれないか?」


 

 俺はアティアの方を見ると、小さく頷いたので二人でその男の元に近付いていった。


「すまんね。ラディアス君とアティルネアさんだね?」


 男がカウンター越しに俺達の顔を確認して、手に持っている用紙を確認している。


「はい。そうですけど……」

「うん。いや、素晴らしいステータスだ。初日にあれほどの魔晶を持ち込んだのも納得だ」

「あ、ありがとうございます」


 

 男は用紙をカウンターに置くと、


「紹介がまだだったね。私はディーガン。このペルグナット迷宮の冒険者ギルドでギルド長をしている」


 

 ギルド長っ!


 俺とアティアの背筋が伸びる。

 ディーガンはそんな俺達を見て、ニッコリ笑うと、


「そんな固くならんでくれ。君達は期待の新人ルーキーだからね。挨拶と忠告をしたかっただけなんだよ」

「忠告…ですか?」

「うむ。君達は既に強いと思うが、迷宮では何が起こるか分からん。だからくれぐれも無茶はせんようにな」

「は、はい! 分かりました」


 ディーガンは更に柔和な笑顔を見せると、カウンターに少し身を乗り出し、俺とアティアの顔を交互に見る。


「いい顔をしている。君達がこの迷宮を攻略するのを楽しみにしているよ」

「はい。ありがとうございます」


 

 俺達はギルド長ディーガンと別れると、迷宮の入口へと向かった。


「さっきのギルド長……。威厳が凄かったね」

「ああ。そうだな」


 

 ”無茶はするな“


 

 ありふれた忠告だったが、ディーガンのその言葉には重みがあった。

 恐らく俺達が昨日、大きな成果を上げたので、過信しないよう釘を刺しにきたんだろう。


「昨日は初めてで、ちょっと張り切ったからな。今日は少し落ち着いて慎重に下の階層を目指すか」

「そうだね。食料もたくさん持って来てるし、時間をかけて下りればいいんじゃないかな」


 俺とアティアは昨日よりもペースを落として探索することにして、迷宮の入口へと向かっていった。


 ◇◇


 俺達は昨日探索をした1階層から真っ直ぐに2階層へ下りる階段へと向かった。

 

 何故俺達が迷わずに下りる階段の場所が分かるかというと、迷宮の所々に案内板が打ち付けられているからだ。全てではないけど、下の階層へ降りる階段の場所はそうやって目印がつけられているのだ。


 

 と言っても迷宮の中には上層の方でも、まだ誰も足を踏み入れていない未探索エリアもある。

 冒険者パーティーには俺達のように、モンスターを倒して魔晶を集める狩猟型パーティーと、未探索エリアを探索して未知のアイテムを集める収集型パーティーがいる。


 目的の階層に向かう為に、最短ルートで向かえるこの案内板は初めて来るエリアのマッピングという面倒な作業をしなくていいのは凄く助かる。


 昨日は現れたモンスターは片っ端から戦っていたが、今日はモンスターの気配を感じると少し距離を離して、それでも追いかけてくれば迎え撃つという感じで、昨日に比べるとかなり戦闘ペースを減らして、下の階層へ下りることを優先していった。


 二人だけのパーティーとはいえ、小さな頃から知っている仲だし、昨日はかなりの数の戦闘もこなしたので、俺とアティアの息もかなり合ってきていた。


 

 俺達は順調に2階層、3階層……と下りていき、かなり余力を残したまま、5階層まで下りることが出来た。

 この5階層がFランクの俺達が下りられる最下層に当たる。

 上層に比べるとモンスターも大型化しているが、単体で行動しているモンスターも多く、ここまで全く苦戦することなく下りてくることが出来た。


 

 俺達は4階層へ上がる階段から離れた所にあった、広い通路の隅で小休憩を取っていた。


「これぐらいのモンスターなら、この5階層を拠点にしても問題なさそうだな」

「そうだね。でも帰り道に何があるか分かんないから、少し余裕があるうちに帰らないとね」

「そうだな……、」


 

 無茶は禁物だもんな、と俺が言いかけると、アティアが自分の口に人差し指を立てた。

 俺も思わず耳を澄ます。


「だ、誰かー……。た、た、助け…」


 遠くで助けを求める悲鳴が聞こえた。

 俺とアティアは目が合うと、慌てて腰を上げてその悲鳴の聞こえた方へ走り出した。


「どこだっ! どこにいるー?」


 

 俺が叫んだ。

 悲鳴の主は、


「こ、こ、ここっ! 殺されるっ! 助けてー!」


 さっきより声が近くに聞こえた。

 不意に俺の頭の上に強烈な光を放つ球が現れた。

 アティアの魔法の光が迷宮内を強烈に照らし出す。


「この光が見える? 私達はここだよ!」


 普段のアティアから想像出来ない、大きな声でアティアが叫んだ。


 

「た、助けてー!」


 アティアの光球に照らされて、俺達の前方からこちらに向かって走る人影が見えた。

 そしてその人影を追い掛ける、大きなトカゲ型のモンスターも光に照らされた。


「こっちだっ!」


 

 全力で走る人影が俺達の姿に気付き、こちらに向かって来る。


 俺は腰の剣を抜き、走る速度を上げた。


「アティア! 行くぞ!」

「うん!」

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