5.迷宮初探索

 冒険者ギルドに薦められた宿屋に泊まった俺とアティアは翌朝、冒険者ギルドへと向かった。

 いよいよ初めての迷宮探索に行くことに、朝から少し緊張していた。

 アティアはあまり緊張している様子はなかったけど、いつもより口数が多いのでアティアなりに緊張していたのかもしれない。


 俺達は昨日、登録したギルドのカウンターに行き、探索の受付をする。

 やはり朝一番から迷宮へ潜る冒険者は多く、受付は非常に混み合っていた。


 登録したばかりの俺達は新参者だ。

 周りの冒険者の品定めをするような目に晒されながら、迷宮へ下りるための通路を進む。


 俺は周りの冒険者を観察すると、男の冒険者の方が多いのだが、意外と女性冒険者も多いことに気付く。

 


 ギルドに入って好奇の目で見られたのは昨日もそうだったので、今朝もあまり気にしていなかったが、どうやら俺よりもアティアの方が注目を集めているようだった。


 まだ幼さが残る雰囲気だが美少女と呼べる整ったかお立ちに加え、長く美しい髪をなびかせるアティアは男性冒険者の注目を集めていた。

 当の本人はそれを知ってか知らずか、素知らぬ顔で俺の後ろを数歩遅れて付いてくる。


 これはこいつアティアに変な男が寄ってこないようにも気を付けないとな。


 

 俺とアティアは迷宮の入口にたどり着くと、1階層へ続く階段を下りて行った。

 岩肌が剥き出しの壁や天井を見回し、全体がほんのり光っていることに気付いた。

 不思議な光景だったが、これはアティアから情報として聞いていた。


 迷宮全体の壁や天井はうっすらと光を放つので、松明などは必要ではない。

 そうは言っても、視界はそれほど先の方まで見渡せるわけではないので、俺達の装備品の中には松明も入れてあった。


 とりあえず1階層のモンスターを倒して、魔晶を集めることにした俺達は入口から奥の方へと進んで行った。

 歩を進めながら、俺はアティアに尋ねる。


「なあ、昨日パーティーメンバーの人数のこととか聞いてただろ? 人数集めした方がいいんだよな?」

「んー、どうだろ? 無理に増やす事はないと思うけど、二人だけだとやっぱりそれだけ時間もかかると思うしね…」

「そうだな。まあ、まずは俺達が迷宮に慣れなきゃ話にならないしな。メンバー集めはまたゆっくり考えようぜ」

「うん。まずは二人で頑張ってみよう」


 俺達は1階層の奥へと進む。

 2階層へ降りる階段のだいたいの場所も聞いていたが、そちらへは向かわずに1階層の奥へ行く。


 迷宮内を進むと、獣の唸り声が聞こえてきた。

「アティア。モンスターだ」


 すぐ後ろを歩くアティアに伝える。

 俺が前を警戒しながら、少し歩みを緩めると前方の視界に数匹の狼型のモンスターを捉えた。


 俺は腰の剣を抜いて構える。

 狼型も俺のその戦闘態勢を察知したのか、三匹の狼型が姿勢を低く落としながら、ジリジリと距離を縮めてくる。


 全部で六匹か。

 俺との距離を縮めていた前の三匹が狼型が俺に向かって駆け出してくる。そして至近距離まで近付くと、二匹が頭上から、一匹は足元から俺に向かって飛びかかってきた!



 三匹同時か。でも……!


「たっ!」


 充分に引き付けてから、俺は剣を横に一閃する。空中にいた二匹を両断し、俺はそのまま体を一回転させて下から噛みつこうと向かってきた一匹に勢いをつけた蹴りを放つ。


「ギャンッ!」


 俺の蹴りを横っ面に喰らった狼型が犬のような悲鳴を上げて吹っ飛んだ。

 魔法を詠唱していたアティアが俺の後方から声を出した。


「ラディー! 撃つよ!」


 アティアのいる方向から強い風が吹く。

 その風は俺の体を追い越すと、更に速度を上げて残りの三匹の狼型に向かう。


「ギャゥンッ!」


 アティアの風魔法が三匹の狼型の体にまとわりつき、その体を切り刻み、三匹の狼型の断末魔が響いた。

 体を刻まれた三匹が一瞬にして黒い煙を上げて紫色の小さな石に変化した。


 絶命して魔晶へなったのだ。

 俺は足元を見ると、最初に斬った二匹もいつの間にか魔晶になっていた。

 蹴り飛ばした狼型に目をやると、よろけながらも、まだ俺に立ち向かって来ようとしていた。


 俺はその最後の一匹を一閃してトドメを刺すと、アティアの方に振り返る。


「初戦闘、お疲れ」

「ああ。大丈夫か? アティア」

「うん。全然問題なし」


 アティアが俺に向かって親指を上げた。

 初戦闘を無傷で終えた俺達は地面に落ちた魔晶を拾い集め、袋へと仕舞った。


「じゃあ、こんな感じでとりあえずこの1階層で魔晶を集めるか」

「うん」


 俺達は1階層の更に奥へと進んで行った。


 ◇◇


 それから俺達は1階層で何十回もの戦闘を重ね、順調に魔晶を集め、持っていた袋も一杯になってきた。

 俺達はこの日の探索を終わることにして、地上への入口へ向かい出した。


「ラディー。1階層ぐらいだったら二人で全然余裕だね」

「ああ。そうだな。魔力はまだ余裕あるのか?」

「うん。まだ全然余裕だよ」


 アティアの魔法は少し特殊で、風魔法と土魔法を得意としているが、それらは全て精霊を介して発動されている。

 精霊の加護を強く受けている彼女は魔法の発動条件をかなり短縮させて使用することが出来る。簡単に言うと、アティアは他の魔術師と比べると極端に消費魔力が少ないのだ。


 この日も既にかなりの回数の魔法を放っているが、まだ魔力が残っているのは本当に心強い。


 後ろを歩くアティアの顔を見てみるが、確かに疲れた様子は無さそうだ。

 これなら明日はもう少し下の階層まで行っても問題なさそうだな。


「ねえ、ラディー」

「ん? なんだ?」

「明日は5階層まで下りてみようよ」

「いきなり5階層かよ」

「うん」


 自信ありげに話すアティアの顔には全く迷いがない。


「よし。そうだな。じゃあ明日はちょっと食糧も多めに用意して5階層まで下りてみるか」

「うん! そうしよう」


 嬉しそうに話すアティアは本当に心強い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る