4.冒険者登録

 馬車に揺られて数時間でネービスタ家に到着した。俺達が馬車を降りて家に入ると、アティアがすぐに自分の部屋に駆け出す。


「すぐに準備できるからちょっと待っててね。ラディー」


 そう言われて俺はネービスタ家の応接間に通され、ペリオン卿が相手をしてくれた。

 


「ラディアス君。迷宮ではあまり無理をせんようにな。アティルネアにも言っているんだがね」

「はい。肝に命じます、ペリオン卿」


 すると応接間の扉が開き、動きやすい格好に着替えて大きめの鞄を肩から下げたアティアが現れた。


「ラディー。お待たせ。行こっか?」

「もう行くのか?」

「早く行かないと、着く頃には夜になっちゃうよ?」


 アティアにそう言われ、ペリオン卿に一礼して俺は応接間を出た。玄関の所でペリオン卿に声を掛けられた。


 

「アティルネア。ラディアス君。二人にこれを……」


 ペリオン卿の手には二つのペンダントがあった。

「これは精霊の加護を受けた石だ。持って行きなさい」

「えっ? お父様、いつの間に?」

「ソフィアナに言われてな。いくつか作っていたんだよ」


 ソフィアナとはアティアの母上のことだ。ペリオン卿は精霊魔法を封じ込めた魔法石の生成を得意としている。恐らくアティアと俺が得意とする属性に合わせた精霊の加護を付与した石を使ったんだろう。

 

 アティアに渡したペンダントには薄い緑色の石が、俺のには黄色い石が使われていた。

 俺はそれを受け取ると、首にかける。

 

「ありがとうございます。ペリオン卿」

「構わんよ。では二人とも気を付けて行ってきなさい」

「うん。 ありがとう、お父様。大切に使うね」


 

 俺とアティアが馬車に乗り込み、ペリオン卿に別れを告げて俺達を乗せた馬車は迷宮都市ペルグナットに向けて出発した。


 ◇◇


 ネービスタ家を出て、数時間。

 サイブノン家やネービスタ家のある地方から一番近くに位置する迷宮都市ペルグナットの外壁が見えてきた。もうだいぶ陽が傾き、夜になろうとしていた。


「なあ、アティア。冒険者になるにはギルドで登録しなきゃならないんだよな?」

「うん。そうだよ」

「もうすぐ夜になるけど、登録出来んのかな?」

「うーん。それは行ってみないと分かんないね」



 ペルグナットに着いた俺達はすぐに冒険者ギルドに向かうことにした。

 町の人に尋ねながらたどり着いた冒険者ギルドは、建物の中にレストランも併設しており、迷宮探索を終えたであろう冒険者たちで賑わっていた。

 遠巻きに何人かの冒険者が俺達を視線で追うのを感じながら、建物内を奥へ進む。


 

 そのレストランスペースから少し離れた所にあるカウンターに職員らしき女性を見つけた俺達はそこに行き、その女性に尋ねてみる。


「あの、冒険者の登録をしたいんですが……」

「はい。登録ですね。少しお待ち下さい」


 女性はにこやかに対応してくれると、ニ枚の紙をカウンターに置き、更に一枚の石板を取り出す。


「こちらの紙に必要事項を記入していただけます」


 そう言われた俺とアティアはその登録用紙に名前や年齢などを書き込む。書き終わると、女性にその紙を渡す。


「続いて、この石板に順に右手を置いていただけますか」


 俺が先にその石板に右手を置くと、石板がうっすらと光を帯びる。石板に手を置きながら女性の説明を聞く。


「こちらの石板で冒険者の能力ステータスを登録致します。そしてこの後に登録タグを渡しますので、それは肌身離さず身に付けてください」


 石板の光が収まると、石板の上部にはまっていた小さなプレートを取り外し、慣れた手つきでそのプレートにチェーンを取り付ける。


「こちらがラディアスさんの冒険者タグになります」


 その後の説明によると、このタグにより冒険者のステータスが分かるそうだ。

 タグとギルドにある石板は繋がっており、誰が迷宮に潜っているかすぐに分かるようになっている。

 そしてステータスと探索階層により、冒険者はSSからFランクまでの8ランクのいずれかにランク付けされる。


 登録したばかりの俺達は当然、一番下のFランクなのだが……。


「……あの、お二人はどちらのご出身ですか?」


 

 俺とアティアのステータスを確かめながら、受付の女性が俺に尋ねてくる。俺がサイブノン家のある地方の名を答えると、


「そうですか。理解致しました。ハッキリ言って、お二人のステータスはかなり高いようです。ギルドの決まりで一番下のFランクからのスタートになりますが、お気をつけて迷宮探索をしてくださいね」


 俺もアティアも小さい頃からかなり鍛えられてたからなあ。

 俺は剣の家系サイブノン家で、今や【女傑英雄】となった姉のリンシアに鍛えられ、アティアも精霊魔法の名家であるネービスタ家で‘神童’と呼ばれた兄のメテウスと精霊魔法を高め合ってきてたしな。

 そこら辺の同年代よりは強いという自覚はあった。

 


 女性はそう言うと、続けて迷宮探索の流れを説明してくれた。


 迷宮探索の際の受付の仕方、採取した魔晶を売却する場所。

 あとはランクによって、探索可能の階層が決められている。Fランクの俺達は5階層までの探索しか出来ない。

 Eランクに上がれば10階層まで、Dランク以上になれば11階層以降のどの階層でも探索可能になるという。このペルグナット迷宮の最下層は50階層。

 その50階層にはこの迷宮を作った迷宮神ペグルナットの『迷宮石』と呼ばれる物があり、それを持ち帰れば称号が得られる。

 これまで数組のパーティーがその称号を手にしたそうだ。


 ひと通りの説明を終えた女性が俺達に質問はないかと聞いてくる。

 アティアが俺の横に並び、女性に尋ねる。


「あの、何人ぐらいの構成のパーティーが多いですか?」

「そうですね。私が知る限り、三、四人のパーティーが多いように思います」

「メンバーの募集とか、斡旋はギルドでしてもらえますか?」

「はい。あちらの冒険者ボードにメンバー募集などの掲示をしていますし、もし詳細な条件などがありましたら、私達職員に尋ねていただければ、紹介もさせていただきます」


 女性が指差した方を見ると、壁一面に何十枚もメンバー募集や加入希望の張り紙が貼ってあった。

 アティアが礼を告げると、更に女性が一枚の紙を取り出し、続ける。


「こちらはギルドが提携しております、FランクとEランク冒険者向けの宿屋のリストになります。格安で利用出来ますのでもし良ければ是非ご活用ください」

「ありがとうございます」


 

 俺はその紙を受け取ると、その紙をアティアに渡した。

 俺達は受付の女性に礼を言うと、受付カウンターを離れた。


「さて、迷宮探索は明日からにするとして、今日の宿屋を決めないとな」

「そうだね。とりあえずこのリストに載ってる宿屋を見に行く?」

「特に当てもないしな」


 既に日はほとんど沈んで暗くなっていたので、俺とアティアは今晩の宿を探すことにした。

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