第六話 ヒロ

 背中に纏わりつくベッタリとした不快感で目が覚めた。寝巻きの模様が変わるほど汗をかいており、早く着替えなければ風邪をひきそうだ。


「なんだったんだ、あれは、」


ついさっきまで見ていたはずのことなのに思い出せない。

何か、恐ろしいものから逃げまわり、何かを見たところで目が覚めた。

 赤い何か、見覚えのある赤色、赤色というより朱色。そう、あれは、確か、鳥居、大苗神社の鳥居!


 「ある者にその言葉が奪われたのじゃ。わしはその言葉を取り返すためなら何でもする。」

凍てつくように低い声は、私の耳の奥でこびりつき離れなかった。その氷は全身に伝い、汗で冷えた身体を更に冷やした。寒すぎる。


 私は顔を洗い、着替え、学校に行く支度をしたが、時間に余裕があったので、朝食を食べた。空腹は最高の調味料とはよく言ったもので、スーパーで買った格安食パンが、一斤千円はするであろう高級食パンに感じた。



教室に入ると、ヒデが隣の空席を指差しながら「こっちだ」とジェスチャーで示した。


「今日は来たんだな」


「当たり前よ」


「お前単位危ないもんな」


「そこまでギリギリじゃないわい」

私は少し不安になりながら答えた。



「けど、うちも意地悪だよな、三月だってのに授業がある、どうなんってんだスケジュール」


たしかに、入試や入学準備などは大丈夫なのかと心配になるが、そんなこと心配したところで単位が保障されるわけでも、テストが簡単になるわけもなかったので、私は考えるのをやめた。


「ヒロは今日来るのかね、?」


「しらんわ、来ないんじゃね」

私は昨日のヒロの返信の方が気になり、聞こうとしたところで、教授が気だるそう入ってきた。


「ったく、この学校はどうなってんだろなぁ、3月だってのに授業がありやがる、お前らもそんな律儀に授業受けなくても良いんだぞ、えぇ?まぁ休んだら単位あげねぇけど」

教授も疑問に思ってんならもうこの学校はどうしようもない。


教授が出席を取ろうと名簿に手を取った瞬間、後方のドアが勢いよく開いた。


「ギリセーフ!!」


「ギリアウトだ、ばかやろう」

私が心の中で突っ込むと、ヒデが勢いよく立ち上がり、

「ヒロぉ、お前来たのかぁ!」

テンション高く叫んだ。


「おい、お前ら三人うるさいぞ、今日欠席にするか?えぇ?」


なんで私も入るんだよ。一切喋ってないぞ、。


ヒデが隣の空席を指差しながら「ここ座れ」と示した。ヒロのために空けていた空席のようで、ヒデは三人が揃うことが嬉しいようだった。


私も別に嫌いではない、ヒデにはなんだかんだ世話になっているし、ヒロには昨日の返信について聞きたかった。


いっしっしとまるで阿呆のように軽くお辞儀をしながら席に着くと、教科書もパソコンも出さず、よくわからない本を取り出して読み始めた。


こいつバカだな。


 けれど、いつものヒロで安心した。これでもし教科書でも開いたのなら夢かどうか疑う。



授業が終わり、コンビニで昼食を買った私たちは中庭に向かった。ようやっと春が目を覚まし始めたようで、日差しがほんのり春を匂わせていた。


「で、なんだったんだよ、昨日の返信は」


「おぃおぃ、もっと他に言うことがあるだろう、久しぶりに会うんだぞ俺ら」


「休んでんのはヒロの方じゃねぇか」

ヒデが突っ込んだ。


「それもそうだ、

昨日のだろ?ヒデがウミヘビ座だぁーってビルと夜空の写真を送ってきたからよ、ウミヘビ座のことを話してやったんだ」


「?どゆこと?」


「お前らは知らないかもしれないわな、猫座ってのがあんだよ、

88星座にも、12星座にも選ばれてない可哀想な星座だ。そいつはウミヘビ座に絡まるように位置しているんだがな、昔、猫が蛇を怒らせたらしくてよ、蛇が猫を捕食しようとしてるところだとよ。」

たまごサンドの具を頬につけ、喋り出した。


「おまえ、説明足りな過ぎだろ」

ヒデがまた突っ込んだ。



私は昨夜の夢のことを連鎖的に思い出していた。

そうだ、猫に追いかけられていたんだ、そいつはあの老人を殺し、私を追いかけてきた。老人が奪ったあるものを返さなければ、私も殺される。


私は夢のことを2人に話した。

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あだばだ @kironekutai

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