第44話 もう少しだけ二人で……

 夏祭り当日。

「わ〜!屋台がたくさんある!」

 俺たちはやっとの思いで会場にたどり着いた。

 夏祭り会場では、祭囃子が響き渡りお祭りを更に活気付けていた。

 人混みに屋台、色とりどりの浴衣で目が回りそうだ。

「思ってた以上に規模が大きいな」

「もちろんです!ここの夏祭りは歴史がありますから!」

「そうなんだ」

 まるで、自分のことように話す渚に苦笑してしまう。

 隣を歩く渚に柏崎、先を行く雫。

 浴衣に包まれた彼女たちは、この世のものとは思えないほど綺麗だった。

「ねぇ!早く!食べるもの無くなっちゃうよ!」

「いや、そんなすぐには無くならないって」

「夏祭りは時間との勝負なんだよ!」

 雫はよほど屋台が気になるらしく、ずっとキョロキョロしていた。

 かく言う渚はお面の屋台を盗み見てはウズウズしていた。

 なるほど……。アニメのお面があるからか。

「あたしが雫につくから、南雲は渚と一緒に見てきなよ」

「わかった、そうさせてもらうね」

 柏崎は雫に声をかけると、目をキラキラさせた雫に手を引かれて連れ去られてしまった。

「お面……買いに行こうか」

「っ!はい!」

 少し並び俺たちの番が回ってきた。

「わたしこのお面に――いえ、やっぱこっちにします」

「……ん?」

 欲しかったであろうキャラクターのお面から狐面に変更した。

 羞恥心が勝ったのか。

「じゃあ、俺はこれを」

「……え?」

 俺はキャラクターのお面を指さす。

 驚く渚を横目に猫面、犬面も購入した。

 雫たちの待ち合わせ場所に向かう途中で、手に持っていたお面を差し出す。

「つい買ったけど……やっぱりその狐面の方が良いな。だから、交換しない?」

「え?……はい、交換しましょうっ!」

 嬉しそうに顔を輝かせお互いのお面を交換する。

 少しばかりお面を見つめたあと――

「ありがとうございますっ!和葉くん!」

 不意打ちで向けられた笑顔にドキッとする。

 俺は……やはり、渚のこの笑顔が好きだ。



 場所にたどり着けば、柏崎と雫の両手にはそれなりの量の食べ物があった。

「ずいぶん……買ったね」

「そう?早く食べよ〜」

 コテンと首を傾げる。

 雫からすれば腹の足しにならないらしい。

 近場のベンチに腰掛け食べ物を分け合う。

「んん〜っ!屋台の焼きそばって格別だよね!」

「ほら、口に海苔ついてる」

「へへ、ありがとう加奈子」

 あ、忘れていた。

「柏崎と雫にもお面買ってきたよ」

「やった!ちょうだい!」

「ありがとう南雲。後でお金返す」

「別にいいよ。雫は猫っぽいから猫面、柏崎は犬っぽいから犬面ね」

 買った理由と共にそれぞれに手渡す。

「嬉しいけど、もっとちゃんとした理由を考えて欲しかったな」

「それは……ごめん。ビビっと来たから買ったんだ」

「なら、しょうがないね」



 簡単に食事を済ませた後は、屋台を見て回ることになった。

 先程は、お面と食べ物系の屋台しか見ていなかった。

 男の俺を先頭に人だかりを掻き分けつつ何とか足を進める。

「っう……和葉……くんっ!ちょっと待ってください」

 渚の声に振り返ると、少し距離が空いており人波に攫われそうになっていた。

 渚の手を取り自分の方へ引き寄せる。

 勢いあまってそのまま抱きしめる形になってしまった。

「っ!!か、和葉くんっ!?」

「ご、ごめん!はぐれるかもって焦って!」

「いえ……びっくりしただけです。助けてくれてありがとうございます」

「――って、あれ?雫と柏崎は?」

 気がつけば後ろを歩く二人が消えていた。

 はぐれたか……。

 これだけの人混みの中で探すのは困難だ。

「一旦、ここから出て連絡してみよう」

「そうですね。あの……また、さっきみたいになるといけないので……手……繋いでも良いですか?」

「そ、そうだな。そうしよう」

 俺が差し出した手を優しく握る。

 ドクンッドクンっと心臓の音がうるさい。

 この鼓動がバレないようにと願うばかりだった。



「加奈子ちゃんたちは少し離れたところにいるみたいです」

「良かった。早めに合流した方が良さそうだね、ナンパとか心配だし」

 とはいえ、合流するには人混みに入って行かなきゃいけない。

「行こうか」

 スっと手を差し出す。

 渚はほんの少し俺の手を見つめ握り返す。

「……そうですね」

 歩きだそうとしたら、グッと抵抗を受ける。

「……渚?」

 スルリと握っていた手を離し指を絡めてくる。

 いわゆる、恋人繋ぎだ。

 渚は空いている片手を自身の胸に添え――

「もう少しだけ……二人でいませんか」

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