柏崎 加奈子

第22話 柏崎 加奈子

 時間が経つのは早いもので、黒瀬さんの件から二週間の月日が経ち七月の後半。

 夏休み突入の目前だ。

 最初こそ騒がれていたものの、今では当たり前のように受け入れられている。

 そうして、依然としてみんなから頼られている。

 生徒のほとんどは見た目ではなく、黒瀬さん本人を見ていたのだろう。

 そうじゃなきゃ、こんなにすんなり受け入れられないだろうしな。

 自然な笑顔を見せているせいで、前よりもファンが増えたのは言うまでもない。



 当の俺はというと――

「え……また、同じの観るの……?」

「はい!付き合って頂けると言っていたので」

 休日にも関わらず、オタク活動に付き合わされていた。

 いや、休日だからか。

 今回はアニメ映画。

 確かに付き合うとは言ったが……。

 まさか、同じものを四回観ることになるとは、夢にも思わなかった。

 なんでも、上映場所によって貰える特典が違うらしい。

 合計で四種類も特典が存在する。

 つまり、コンプリートを目指すなら四回は映画を観なきゃ揃わないわけで……。

「明日じゃダメ?」

「もう、二回観たのですから行きましょう!」

「ていうか、二人で同じ映画館に行くより手分けした方が効率的じゃない?」

 俺の言葉に宝条さんは、深い深いため息をつく。

「はぁ……わたし何度も言ってますよね?こういうのは、効率性なんて度外視だと」

「そうだけどさ……」

「一人で観るよりお友達と見た方が楽しいじゃないですか?」

 そう向日葵のような笑みでこちらを見られると――

「そ、そうだね……俺が間違ってた」

 丸め込まれてしまうんだよな。

 宝条さんは、楽しくて仕方ないと言わんばかりの軽快な足取り。

 その隣を重い足取りで歩く

 まぁ、宝条さんが楽しいなら良いか。



「何回観ても面白いですね〜もう一回行きますか?」

 特典のブロマイドを嬉しそうにカバンにしまい、笑顔で聞いてくる。

「今日はいいかな」

 笑顔の誘いを一刀両断する。

 二回目までは楽しめた。

 三回目からは、無意識に脳内でネタバレされるためワクワクが半減していた。

「残念です……。ですが、全部付き合ってくれてありがとうございます!」

「映画とか久しぶりだったから、俺も楽しかったよ」

 嘘はついてない。後半はゲンナリしてたが、楽しかったのは事実だからな。



 宝条さんとは、駅で別れた。

 街中を散策中に偶然、ゲーセンを見つけた。

 そういえば……ゲーセンって入ったことないな。

 ワクワクとドキドキを胸に抱き、自動ドアをくぐると――

「おぉ……すげぇ……」

 鼓膜を震わすほどの音楽。

 視界を埋め尽くすほどの筐体きょうたい

 お菓子からフィギュアまで幅広い景品が揃えられてあるクレーンゲーム。

 数年前までは、興味も引かれなかった娯楽施設。

 それなのに、今は不思議と胸が高鳴っている自分がいる。

 俺も――少しだけ『普通』に近づいているのかな。思わず笑みがこぼれてしまう。

 ――と、いけない。まだ、入口だ。

 一歩踏み出しクレーンゲームの迷路へ足を踏み入れた。

 おぉ!凄い!

 お菓子の詰め合わせだ!たくさん入ってる!

 こっちは、有名なアニメのフィギュアだ……。

 え?たこ焼き器の中に数字が書いてあって、その近くにピンポン玉が用意されてる……?。

 まさか!クレーンですくって入れるのか!?

 ゲーセンは俺にとって、まさに遊園地さながらだった。

 迷路のようなクレーンゲームゾーンを抜けた先は、スポーツエリアになっていた。

 バッティング。

 バスケのフリースロー。

 サッカーのストラックアウト。

 少し体を動かすには十分だろう。

 ここにも、それなりにお客さんがいた。

 特に、バッティングが人気みたいだ。

 つか、あの女の子すごいな。

 結構速い球を簡単に打ち返してるし……。

 息一つ乱れてない。

「…………んん?」

 ていうか、女の子って――


「……よっ!」

 ――カキーン!


「……ほいっ!」

 ――キィン!


 金属製のバットで豪速球を軽快に打ち返している柏崎の姿があった。

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