第23話 嫌われてる理由


 柏崎さんが高速で飛んでくる球をテンポよく打ち返す姿に、俺は釘付けになっていた。

 手に伝わる衝撃は凄まじいはずだ。

 それなのに、涼しい顔をして打ち返す。

 そういえば、趣味がバッティングって言ってたな。

 ラスト一球も難なく打ち返す。

 やり切ったような、名残惜しさを感じているような表情を見せる。

 柏崎は、休憩のためか前ぶりもなくバッターボックスから出てくる。

 俺は、柏崎と鉢合わせる前に帰ろうと思っていた。

 だが、釘付けになっていた分反応が遅れてしまい――

「うげっ!」

 目が合った。

 めちゃくちゃ嫌な顔されてしまった。

「ナ、ナイスバッティング……」

 とりあえず、片手を上げて褒めておいた。



「ぷはぁ!……で、いつからいたんだよ」

 柏崎は、ベンチに腰かけお茶を半分ほど飲み干し、俺を睨みつけてくる。

 場所は、スポーツエリアの休憩スペース。

 と言ってもベンチが二つと自販機が置いてあるだけだが。

「た、たぶん打ち始めた頃からだと思う」

「で、話しかけるタイミングを伺ってたってとこか?」

 足を組み、どうなんだ?と言わんばかりに見てくる。

「いや、柏崎のバッティングの凄さに釘付けになってただけだよ」

 思っていた返事と違ったらしく、目をパチパチさせる。

「べ、別に……あれくらい普通だろ」

 口を尖らせそっぽを向いてしまった。

 褒めたつもりだったのに、怒らせてしまったかな。

 いや、少し頬が赤いような……。

「何見てんだよ?」

「顔赤いけど平気?」

「ばっ……バカか!さっきまで運動してたろ!」

 さらに、顔を赤くしてまくし立てるように叫ぶ。

 でも、ベンチに座っていた時は普通だったし……。

 顔が赤くなったのは、俺が褒めてからで……。

 ――はっ!!

 ピキーンと閃いてしまった。

 褒めてから顔が赤くなった。

「勘違いしないでよね」とも取れる発言。

 まくし立てるような言い訳。

 これは俗に言う……………――

「ツン……デレ?」

「調子乗んな、はっ倒すぞ」

「ごめん」

 はぁ……と溜息をつきベンチを立つ。

「なんか、バッティングの続きをやる気分じゃねーし帰るわ」

「なんか邪魔しちゃってごめん。気をつけてな」

 俺はもう少し見ていこうかな。

 気になってたし、バッティングやってみるのも良いな。

「……おい」

「ん?」

 振り返ると帰ったはずの柏崎が立っていた。

 指をいじり、モジモジしながら。

「どうしたの?入ってきたところ忘れた?」

「覚えてるわ!バカにすんな!」

 冗談に付き合わせたおかげで気は紛れたみたいだ。いつもの調子に戻っていた。

「お前が良ければ一緒に帰ろうぜ」

「……そうだね、帰ろうか」



 気まずいなぁ……。

 ゲーセンを出て十分、お互いに会話なし。

 なにか話があるのかと思っていたんだけど……。

 とりあえず、こちらから話題を振ってみることにした。

「俺、柏崎に嫌われてると思ってたよ」

「うん、嫌いだよ」

 えぇ……。少し食い気味に言われた。

「えと……俺なにかした?」

「何もされてないよ」

 なんか気に食わないってやつなのか。

 外部進学者だからかな。

 少しだけ落ち込むなぁ……。

 柏崎はチラリと俺の方を見て――

「あの……さ」

「ん?」

「その……ありがとう」

 お礼を言った。

 俺は、今日を除いて柏崎に接触した覚えは無い。

 だから、お礼を言われる筋合いは無いのだが。

「それは……何に対してのありがとう?」

「だから!……あたし達と渚の仲を取り持ってくれてのありがとう!」

 宝条さんの趣味バレ事件の時のお礼か。

 宝条さんの隠していた趣味が、柏崎と黒瀬さんにバレて大喧嘩に発展した事件。

 あの一件は、宝条さんや俺自信にも多大な影響を与える出来事だったため、忘れることは無い。

 ただ、一か月近くも前なんだけどなぁ……。

「俺は何もしてないよ。仲直りしたいと思って行動したのは宝条さんだ」

「それでもだよ。あんときは意地になってた。雫も困ってたし、渚も何も言ってこないから、もう無理かなって思ってた……」

 だから、ありがとう――と、力強く俺の目を見て伝える。

「あと……殴ってごめん。殴るつもりはなかったんだけど勢い余ってつい……」

 俺は、いつぞやの黒瀬さんとの会話を思い出していた。



 ――「そうだね、加奈子は気が強いだけじゃなくて思い込みが激しい面もある。ただ、誰よりも真っ直ぐで素直な子だよ」

 ――「どうだかな……」



 思わず笑ってしまう。

「お、おい!なんで笑うんだよ!」

「いやね、黒瀬さんの言っていたと通りだったなって」

「雫!こいつに何を吹き込んだ!」

 むがーっ!と、ここにはいない黒瀬さんに吠える。

 固い雰囲気が払拭されたところで、家に着いたみたいだ。

「わざわざ送ってくれてサンキューな」

「待ってくれよ」

 手を挙げて家に入ろうとする柏崎を呼び止める。

「やっぱり聞いておきたい。なんで、俺は柏崎に嫌われてるんだ?」

「そんなこと気にしてんのかよ〜小せぇ男だな〜」

 ケラケラとおどけて見せた柏崎だが、俺の真面目な顔を見て笑顔を引っ込める。

 俺は、人に歩み寄ると決めた。

 だから、なんで嫌われてるのか知っておきたい。

「ん〜…………まぁ」





「同族嫌悪ってやつ?」

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