第4話

「結納金は100万でいいです」

文の母は勝の母に告げた。

勝の母は結納金は50万の予定でいた。家族で話し合った結果だ。けれども、今回の結果は勝の行いが招いた結果だと思っている。つまり、文の親に対して強く出れない。大きな出費ではあったが、素直に払うことにした。2人は新しくマンションを借りるとのことだったので、新生活費も含めてだと思って納得することにした。

婚約指輪も整えて、結納を終わらせ、文が妊娠を告げてちょうど2ヶ月も経たぬうちに2人は入籍した。


入籍から3か月後、文が安定期に入った連休に、文と勝の結婚式は盛大に行われた。

小さな田舎町だが、招待客は400人。主に勝の会社関係者と地元の友人たちだ。結婚式の費用は勝の祖母が出した。祖母は孫の結婚式のために積み立てていた定期を解約し、地元でも有数の式場をあてがった。

妊娠しているにも関わらず、文はしっかりお色直しまでして、追加となったそのドレスの費用も勝の祖母が出した。そのころ、勝の父は持病が悪化し働けず、医療費が結構かかっていた。勝の父が羽振りよく出せないこともあって、勝同様兄の結婚式のために積み立てていた定期まで使って、祖母は張り切って出してくれたようだった。

 

そして、結婚式でのご主義という名の儲けは、文の懐に入ってきた。なんせ400人だ。さすがにお返しの分のお金は自分たちで出したけれど、半分返しでお返ししても400万ほども儲けた。文はにやにやしてしまう。


勝の父は田舎堅気の古い人間で、男の甲斐性にプライドを持っていた。病気で仕事をしていないとはいえ、持ち物は購入なものを好んで使っている。お金はやれないがといいながら、結婚祝いにと元値は600万近くする高級車を勝に譲った。おかげで勝たちは車を買わずに済んだ。

 

結婚式から4か月後、入院中はフルコースが提供される市内一の産婦人科で文は玉のような女の子を産んだ。彼女とは違う女性との間にできた子どもであるというトップシークレットは周囲に隠していても、いわゆる「できちゃった婚」であり、外聞的によくない勝の結婚に、田舎堅気の父は渋い顔を保っていた。しかし、男の子しか産まれなかった勝の家に初めてできた「女の子」。妊娠を告げたときには仰天し、そんな分別もないことをと憤慨もしていた母や、もろ手を挙げて喜ぶことができなかった祖父母はもとより、あの渋顔を貫いていた父も喜び可愛がった。兄の子どもを涙をのんであきらめた兄の彼女の目の前で「文ちゃんは女の子を産んでくれたから」と、彼女と勝の何もかもを許すように。


文は幸せだった。看護学校は妊娠したまま卒業し、そのまま専業主婦になったけれど、働いている友人たちより優位に立った気分に浸れた。手に職をつけておこうとは思っていたが、もともと生涯にわたってバリバリ働こうとは思っていなかったし、永久就職が少し早まっただけだ。一応看護の資格も取れたし働こうと思えば働くことすらできる。


そして、子どもを産んだ後の手のひらを反すような本物の祝福は圧倒的だった。子どもの可愛さももちろん、自分もちやほやされる。ただ、懸念事項もある。もう一人、ちゃんと子どもが欲しい。勝をしっかりつなぎ留めておこう。そして、できるなら次は男の子がいい。女の子も可愛がられるだろうけれど、あまりに顔が違っても困る。男女なら多少顔が違ってもわからないはずだ。文はこっそりと産み分け法を学んだのだった。


そして、出産から3か月後、文はまた妊娠した。また、妊娠したのだから、さらに大事にされるようになった。勝の父が仕事を休み自宅で静養していることもあり、そのサポートでほとんど母も家にいるとあって、娘と2人でよく遊びに行った。娘だけでもたびたび勝の実家に預けるようになった。次の赤ちゃんが生まれたら遊べなくなると、張り切って遊んだ。


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