第2話

勝との再会の後、私は何度も勝に会う機会を取り付けていった。

中学時代の話を振って、彼女の知らない勝との思い出に浸るとともに、親切にアドバイスをするふりして、勝の彼女の話も聞きだした。

 

別れたといっても、けんか別れしたわけでもないし、ただ遠距離になって疎遠になったに近い。彼女だったのだ、勝だって私が嫌いなわけがない。離れていた時を取り戻すように、じりじりと、慎重に勝との距離を詰めた。

 

社会人になった勝は羽振りが良かった。会えばいつもおごってくれた。高校卒業と同時に車の免許も取り、親の車でドライブにも連れ出してくれた。でも、勝には「彼女」がいて、親しい友達どまり。


でも、勝は優しい。突き放すことなんてしない。それに好意を持たれて嫌な気がする男なんていないんじゃないかな。だから、言ってみた、

「彼女じゃなくていいから、勝としたい。」

 

勝ははじめは、「俺、彼女いるしさぁ」と言葉を濁していたけれど、密着すればあとは流されるまま、というより、がっついてきたよね。十代の男なんてちょろい、のかもしれない。彼女でもないのにしちゃう、とか、元カノと、なんて禁忌なシチュエーションに燃えちゃったのかも。

 

勝はそうやって、私に傾いてきたけど、彼女と別れようとはしなかった。私のことはセフレ扱いなのね、と思ったけど、勝と再度つながれたことに満足したし、そのうち彼女と別れると思っていた。

なのに、勝は彼女と別れなかった。だから、私も彼氏と別れなかった。


お互いに「浮気」のまま季節が過ぎて、私は生理がこないことに気が付いた。看護学校の生徒だしね、要するにどういうことかわかる。子どもも嫌いじゃない。問題はどっちの子かわからないってことだった。どっちの子かわからないけれど、どっちと結婚したいかって言ったら勝なわけで。

 

勝と会うようになってから、彼氏とは別れる前提だったので、彼氏をおおっぴらに周りにも知らせていなかった。だから、さっさと別れを切り出して別れた。付き合っていたことを知っている人もほとんどいない。勝との子にすることに決めた。勝が認めなかったときは、彼氏を呼び出して、できてたって告げてみよう。

私は覚悟を決めて、勝に連絡した。

 

待ち合わせ場所に来た勝は「大事な話って何?」って怪訝そうな顔をした。私はにっこり笑って「いい話だよ。」と伝えた。それから、一拍おいて「私、勝との赤ちゃんができたの。」とはっきりと口にした。

 

勝は絶句していたけれど、身に覚えはあるのだろう。私に彼氏がいることも知らない。本当に俺の子かとか言われずに済んでよかった。勝が何か言う前に、話をつづけた。

「帰ったら親にも言おうと思うの。勝との子どもができたって。」

 

親に言えば、勝の親にだって連絡がいくことがわかるはずだ。中学で付き合っていた時はお互いの家に遊びに行ったこともある。お互いの親も付き合っていたことを知っている。だから、お互いの親と多少なりとも面識もあれば人となりだってわかっている。


文は勝に聞いて知っていた。大学生である勝の兄の彼女も妊娠したことを。実家は勝の兄がまだ働いておらず経済力がないから反対をしているが、彼女に赤ちゃんをあきらめてくれなどとは言えず、ただただ彼女に対して恐縮していることを。そして、勝たちの母も若くして子どもを産んでいることを。

その点、勝は十分なほど稼いでいる。しかも、実家暮らしなのでそこそこお金もためている。勝が結婚して家族を持つことに反対されることはない。だから、結婚という話になるだろうとほとんど確信していた。

 

でも、自分からプロポーズするのは嫌だった。プロポーズはしてほしい。

「わかった。」

といつもよりもずいぶん小さい声でうつむいて答えた勝に、追い打ちのように重ねた。

「婚約指輪は給与3か月分だって!」

明るい声で言って、勝からの返答を待たずに

「また連絡するね。」

ほほえんだ。

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