人生の「勝ち組」
@branch-point
第1話
勝と付き合い始めたのは、中学だった。
勝は、野球少年で日焼けした引き締まった体に、にかにかとよく笑う明るい性格で、クラスの中心にいつもいた。頭の方はあまりよくないみたいだけど、中学で「つきあっている」ってだけで羨望のまなざしで見られたし、見た目はそこそこ、というか、かなりイケてるほうだったから、並んで歩くだけで優越感でドキドキした。
勝は野球少年といっても、真面目な硬派タイプというより、純真無垢の犬タイプ。人懐っこさで男にも女にもとっつきやすくフランクに好かれるタイプ。まぁ、だから軽率からくる不良っぽさもにじみ出ていて。当時はそれがイケてると思ったんだよね。
当時、勝の兄にも彼女ができたと言われて、兄への対抗心からか、中学生にしてそこそこのスキンシップもあった私たち。でも、勝の成績では、私と同じ高校に進学はできなかった。
「俺、商業高校いくわ。」
進路の話でそう告げられた時、
「え~、なんで~。」
なんて口にはしたけど、仕方ないなって思ってた。
だって、勝の成績で普通科高校は無理だとその時にはよぉくわかっていたから。
でも、待ち合わせして制服デートしようね、なんて盛り上がっていたけれど、学校が違うなんてやっぱり大変で。勝はやっぱり野球部に入ったから、がっつり部活の毎日で、私たちは高校を卒業する前に「別れよっか」ってなった。
まぁ、そのころ私はきゃぴきゃぴの高校生で、素敵な先輩や同級生がたくさんいて、新しい恋の駆け引きや日々のときめきに夢中だったってわけ。新しい彼氏もできたしね。
高校生活をエンジョイし、若干エンジョイしすぎたのもあって、私は地元の2年制の看護学校に入った。大学の医学部看護科に行く友達を尻目に、少しでも早く稼げるようになるから、大学より専門学校の方が早く社会に出れていいわって割と本気で思ってた。
親からも手堅く手に職がある看護婦は進められていたし、何より医者との出会いもあると聞く。まぁ、看護学校時代に付き合えたのは医者じゃなかったんだけど。
そんなある日。
地元に残った友達で遊んでいるときに聞いたんだよね。勝が地元の優良企業に就職したという話を。高卒でも結構な金額を貰えることは知っていた。親戚にその会社に勤めていた人もいたから、ちょっと聞くと夏のボーナスは80万だったらしい。大卒で2年目で600万。そんな優良企業、東京にだって少ないという。
惜しいことしたかな、って胸がじくじく痛んだ。周りがまだ学生っていうなか、社会人彼氏ってだけで、いいなって思った。勝は優しいから「より戻そ」って言えばすぐにOKしてくれるだろうとも。それに、もう部活もない。土日は休みなんだろうし、遊ぶ時間だって高校時代より取りやすいはずだ。
今の彼氏に別れを告げようかと思ったけど、付き合うことになってから別れればいいかとも思いなおして、私は勝に会うためにケータイに連絡した。もちろん、いきなり「より戻そう」とは言わずに「元気?時間あるときに会おうよ。」ってだけにしたけど。
勝はフランクな性格は相変わらずで、「おう、みんな呼んであつまろーぜ。」って返事が来たんで、2人きりでと言おうか迷ったけど、まぁ様子見でみんなで集まることにした。
土曜日の夜、ガストで会った勝は相変わらずいい身体つきのままだった。みんなでわいわい騒いで、近況報告してたら、勝が言った。
「彼女ができた。」
と。おぉ~、と盛り上がる周りを尻目にじくじくするような気持ち悪さを覚えた。未成年でお酒は飲んでいないのに、まるで悪酔いしたような気持ち悪さを感じる。
でれでれと彼女のことを話す勝を横目に、私はもう、勝を渡したくない気持ちでいっぱいになっていた。
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